(初掲:2009年1月18日)著者:海堂尊 宝島社文庫 2009/01/08
東城大学付属病院を舞台にした、赤・青・黄の三部作、最後の一冊。文庫なので二冊に分冊ですが。タイトル通り、赤い表紙が印象的です。
そんでもって、青の『ナイチンゲールの沈黙』とほぼ同時進行の物語となっており、登場人物の行動や台詞が、一部クロスしています。『ナイチンゲール』でキーであった浜田小夜の友人である、如月翔子が、こちらでは大きくクローズアップされています。今時のおねーちゃん風キャラかと思いきや、青臭いほどの理想を抱えた看護師だったりするあたり、好感の持てる人物でした。
こちらは、殺人事件は起こりません。ミステリーじゃなくて、純粋に(?)、大学病院を舞台にした、エンターテイメントです。
作者が現役の勤務医ということで、それぞれ作中で現代医療に関する問題提起がなされているのですが(『バチスタ』はエーアイシステムの認知、『ナイチンゲール』は小児医療)、こちらは救急医療。昨今、救急病院のたらい回しなどが問題になっているのは、医療業務に携わることのない一般市民も知っていることです。
どう考えても、24時間体制、365日勤務の救急医療現場が厳しいことは想像するまでもないことです。しかも、救急車をタクシー代わりに使う馬鹿野郎さまやら、夜間救急医療は、緊急のために存在するのに、昼間よりもすいてるからと、通常医療を受けるために悪びれなく訪れる人間、生活苦を理由にした医療費の踏み倒し、モンスター・ペイシェント……。その上に、医療に対する要求は異様に厳しくなり、患者の死亡はやれ医療過誤だと訴訟沙汰になる。あ、私は病院関係者じゃないですよ、ホント。念のため。大学病院の近所に住んでるだけです。
で、赤字大炎上で、そりゃあもう厳しい状況にあり、ドクター・ヘリ導入を悲願とする東城大学付属病院救急救命センター部長、通称ジェネラル・ルージュこと速水晃一が、今回のキーパーソンなわけです。
シリーズの語り部である田口公平医師の同期ですが、すでに部長職についているところからも分かる様に、万年講師の身分である田口とは違って(失礼な)、凄腕の救命救急医です。1人の人物としてみると、口の悪い傲岸不遜な暴君の一面がある一方で、医療に真摯に身を捧げ、チュッパチャップスを好物にしている可愛げがある、とても魅力的な人です。ありていに言えば、かっこいいです。ただ、この人の部下になったら堪らんだろうなあ……。往々にして、無能な上司も腹立ちますが、有能すぎる上司も、大抵、要求が高すぎて困るもんです。
この速水部長が、メディカル・アソシエイツ社と癒着している、という告発文が投げ込まれ、そのてんやわんやの顛末が、本書の内容……かな?
メディカル・アソシエイツ社! あの結城の会社か、と、『螺鈿迷宮』との繋がりを思い起こさせる名前ですが、やはり『螺鈿迷宮』と同じく、姫宮が登場します。やっぱり、ミス・ドミノですな……。不思議ちゃんであるのも全く変わりありません。時間的には『螺鈿迷宮』よりも前の話なんですが。そういや、姫宮って下の名前は何なんだ?
本書では、その収賄疑惑に絡む会議から、タンクローリー多重衝突からの大事故へと繋がり、クライマックスを迎えます。速水部長の八面六臂の活躍ぶりは実に凄いの一言です。何せ、あのロジカル・モンスターの白鳥とも互角に渡り合い、つーか会議では、読者的にこいつむかつくなーという相手を次々に叩き潰していくわけですから。
そして、多重衝突事故では、ああ、速水の悲願であるドクター・ヘリが導入されていたら……と思わされます。
14年前の昨日、1995年1月17日。私の住む近畿では、あの阪神大震災が起こりました。やはり、取材のヘリばかりばんばん飛んで、燃える街の中継を行うのに、けが人の搬送や、物資の輸送を行うべきヘリはろくすっぽ飛べずに、どれだけの人が苦しんだでしょうか。今では時々、部屋の窓から空を飛ぶドクター・ヘリの姿が見えます。桜宮の空にも、いつか、ドクター・ヘリが飛ぶのでしょうか。
結末的には、どーも必ず、誰かが病院から去っていくなーという感もなきしにもあらずですが、小説というのはやはり「何か」が起こらないと話にならず、「何か」が起これば、やっぱり病院というのは組織だから、それを起こした人は去っていくしかないのかなあ。
『ナイチンゲールの沈黙』と同じ日に始まり、同じ日に終わった『ジェネラル・ルージュの凱旋』。重いテーマを扱いながら、エンターテイメントに仕上げる作者の手腕は、実に見事です。
こちら、特別巻末付録もついていて、同時進行の物語を理解しやすくなってますが、どうせなら、あわせて読んだほうがいいと思いました。
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