Summer Vacation!

02


「あー美味しかった」
「ごちそうさまでした」
 さすがに六人がかりでは、大きなスイカ一玉もすっかり食べ尽くされて、皮と種だけが残された。
「後片付けはやっておくわ。今日の食事当番、わたしだし。それにどうせこの後、アーチャー、また仕事するんでしょ?」
「……ああ。では、頼む」
 凛の申し出にありがたく頷いて、アーチャーは立ち上がった。
「この皮は、生ゴミ処理機に入れておけばいいのでしょうか?」
「あ、そういえば、スイカの皮の白い所って、お漬け物に出来るんでしたっけ?」
「キュウリに味が似てるらしいわよ。やっぱり同じ瓜科だから」
「む。それは少し興味があります」
 などと言っている声を背に廊下を歩き、アーチャーは自室へと向かう。
 その後を、士郎がつかず離れずの距離でついてきた。
 最初は自分の部屋に戻るのかと思ったが、その前を通り過ぎてもやはり、士郎はアーチャーと同じ経路を辿っている。
 部屋の入り口の襖に手を掛けてもなお、背後に士郎がいるのに、アーチャーは小さくため息をついた。
 夏休みに入ってからずっと、夜の方がご無沙汰続きで、どうやら業を煮やしたらしい――一応、士郎をほったらかしにしているという自覚は、アーチャーにもあるようだ――とは見当がついたが、直談判でも申し立ててくる気だろうか。
「何処までついてくる」
 振り向き、じろりと士郎をめつけるも、士郎の方も、いやに、今日は引かないとばかりに眉の辺りに力をこめてアーチャーを見返してきた。
「別にいいだろ」
「仕事の邪魔だ」
 アーチャーがすげなくそう言うと、士郎は明らかにむっとした表情を浮かべた。
「話がある」
「オレにはない」
 にべもない、とか、とりつく島もない、というのは、このアーチャーの口調を言うのだろう。それこそ剣でばっさり、一刀両断、もいいところである。
「お前になくても、俺にはある」
「それでは、話になどならんだろうが。……邪魔をするようなら、遠慮なく投げるぞ」
 ちなみにアーチャーは、これまでに本当に何度か士郎を投げ飛ばしている(周囲に言わせれば痴話喧嘩で)ので、これは脅しではなく事実を言っただけである。
 そんなアーチャーに対し、士郎は不服を述べた。
「大体、お前、最近いつも部屋に籠もりっぱなしで、顔だってろくに見せないじゃないか」
「……オレを見たいというだけなら、好きにしろ。だが、それだけだ」
 ――時々、士郎は、捨てられた子犬のような目をすることがある。本人には全く計算の意図が無いだけに、アーチャーのガラスの心に、それは妙にヒットしてしまうのだった。
 そんなわけで、部屋の中にまで入ってくるのを拒絶はしなかったが、士郎をいないものと扱うことに決めたのか、アーチャーは文机の上に置いたノートPCに向かって座った。電源を入れて、画面を立ち上げるとキーボードを叩き始める。
 士郎の視線を感じないこともないが、次第にアーチャーは目の前の仕事に没頭していく。
 暫く、かたかたというキーが立てる小さい音や、マウスをクリックする音、資料の紙を時折めくる音だけがしていた。
 そうやって、三十分ほど経過した後だろうか。
「……ッ」
 アーチャーの肩がびくりと跳ねた。
 する、とシャツの襟の合わせ目に、背後から手が侵入してきたせいだ。暑さのせいだろう、アーチャーの褐色の素肌をまさぐってくる、少し汗ばんだ士郎の掌が、熱い。
「何をする、やめんか!」
 と、アーチャーは怒鳴りつけたが、制止の効果どころか、逆に手は深く服の中に入り込む。あまりにも強引な、実力行使もいいところだ。
「邪魔をするなと、言っただろうが……!」
 アーチャーは、背にのしかかるように密着してきた士郎を、思い切り宣言通りの目に遭わせてやろうと、腕を掴もうとした。
 だが、機先を制するように広い胸をやんわりと撫でられて、思わず声を上げた。
「あ……」
 もどかしいほどにゆっくりと、アーチャーの服の内部で、滑らかな手触りを堪能するかのように、士郎の手が蠢く。やがて、突起にまでたどり着いた指先が、そこを優しく擦ってきた。
「や、あ――あ、……っ……」
 学校が夏休みに入って以来、士郎がアーチャーを抱いていないということは、アーチャーも同じ期間を士郎に抱かれていないということだ。弱い箇所に暫くぶりに受けた刺激を鋭敏に受容して、アーチャーの体が小刻みに震える。
 指先に返る弾力を楽しむように、士郎はそこを何度も弄び、徐々に尖り始めてきた箇所を摘み、揉み込んだ。
 元々、同一人物であるという以上に、士郎はアーチャーの弱点を、余す所なく知っている。男に貫かれることなど知らなかったアーチャーを抱く度に、苦痛をなるべく与えないよう、快楽を得る場所を探しては覚え、それを愛情をもって忠実に丁寧に再現してきたからだ。そのため、アーチャーの肉体は、すっかりと士郎の手管に蕩かされ、抱かれることで愉悦に浸るように変容を遂げていた。
 今のように。
「っあ、……や……、や、やめ……」
 背骨を這い上がってくる戦慄に、アーチャーの手がノートPCから外れる。辛うじて、データの保存ボタンを押すには間に合ったが。
 これでは到底、仕事どころではない。アーチャーは身をよじったが、逃さないとばかりに、腹の辺りをがっちりと士郎に抱え込まれていた。
 更に、耳の後ろに濡れた感触があった。アーチャーの耳の輪郭に沿って、舌が這ってくる。耳朶を甘噛みし、耳殻をしゃぶる。軽く歯を立てて耳の中に舌を入れると、アーチャーが大きく背を引きつらせた。
「……ぁ、あ……」
「……アーチャー
」  熱い息吹と共に、耳孔に名を呼ぶ声を吹き込まれる。
「士郎、お前……!」
 アーチャーは、自分は同意もしていないのにさすがに悪さが過ぎると、抗議するために振り向いた。若干、上気し始めたアーチャーの顔に、それを待っていたように士郎の顔が重なった。
「……っ、……んん……!」
 唇の上下と歯列を順に割り、アーチャーの口内に士郎の舌が侵入する。そのまま、アーチャーの舌を絡め取り、強く吸う。
 呼吸までをも奪い尽くされるというほどに、深く強く、唇と舌をアーチャーは貪られる。
 決して素直な言葉を紡ぎ出すことのないアーチャーの唇は、ふさいでしまえば、甘やかな柔らかい感触を伝えてくる。これまでの不平不満を、溶かしていってしまうように。
 舌を擦り合わせ、溢れそうになる唾液を、極上の甘露であるかのように残らずに啜る。深く入り込んだ舌が、アーチャーの口蓋を、歯の裏側を、頬の内側を擦る。息継ぎの合間に唇の合わせを変え、士郎は久方ぶりの濃厚な口づけをじっくりと味わうべく、なおも唇と舌を吸い、舐める。
 濡れた粘膜の立てる、ぬかるんだ音が、なおいっそうの、互いの熱を煽ってくる。
「……っは、あ……、ふ……っ」
 愛撫よりもよほど激しいキスによって、快感を呼び起こされつつあるのか、吐息と共に洩れるアーチャーの声が、潤んできた。
 舌を吸い出され、甘噛みされる。いつの間にか閉ざしていた瞼をアーチャーが開くと、士郎も琥珀色の目を開けた。それを合図にしたように、唇が離れる。
 名残惜しげに、唾液が銀の糸となって二人の間を繋いだ。
「はっ、はあ、あ……」
 荒い息を忙しなくつきながら、アーチャーは手の甲で口元を拭った。士郎もまた、胸を上下させながら、アーチャーを見つめる。
 体内にこもり始めた熱に、アーチャーがぼんやりしていると、士郎の手がシャツにかかり、上から順にボタンを外し始めた。半分のボタンを外されてから、ようやくそれに気付いたアーチャーはぎょっとして、我に返った。
「ふ、ふざけるな、この……日もあるうちから、セックスする気か!」
「そうでもなきゃ、どうせまた、夜になったら、忙しいから駄目だって拒むんだろ」
「む……」
 士郎が実に的確な指摘をしてきたが、アーチャーとしては、だからといってこのまま、なし崩しに事に及ぶのは、絶対にごめんこうむりたいところだった。何せ、多少陽が傾いてきたとはいえ、昼の長い夏のことだから、まだまだ外は十分以上に明るい。誰もが活動的に動いている時間から情事を行うなど、まさかあり得ない。いくら、自分達の関係が知られているとはいっても、だ。アーチャーには、露出癖など、これっぽっちも無いのだから。
 そこまで見境がなくなるほど、我慢が出来ないというのか。
 多少の批難を込めて、アーチャーは士郎を見据えた。
「……これが、お前の『話』か。口ではなく、体で?」
「そうだって言ったら?」
「冗談ごとでは無い! もしもセイバーにでも、こんな、最中の音や声を聞かれてみろ、オレは座に帰るぞ!」
 何しろ、今の季節は夏だ。暑気避けのために、あちこちの窓やら戸やらが開いている。だからといって、住人までもがそれに合わせて開放的になってどうする、とアーチャーは、士郎の求めを拒絶しようとする。
 だが、頑固で強情というのは、アーチャーの専売特許ではなかった。
「お前は、……俺のものだ、アーチャー。そんなこと、絶対にさせない」
 獰猛なまでの激情を込めた強い視線で、士郎はアーチャーの鋼色の眼を、逆に射抜いてきた。
 そして、アーチャーの手の甲を持ち上げ、いっそ恭しいほどにそこに接吻する。アーチャーは、なおも理性を総動員して、皮膚の奥を疼かせようとする感覚を押しのけ、この状況に抗おうとした。
「やめろと言ったぞ、この馬鹿が。オレが仕事中だと、分かっているだろう」
「抱きたいんだ、アーチャー。……欲しい」
 アーチャーの顔の間近で、囁かれる士郎の声が妙に熱い。それに対して、意思とは全く別に、手を握られたままのアーチャーの背筋がぞくりと震えた。
 既に呼び覚まされてしまった快感を更に刺激してくるような、体内を走り抜けていった微弱な電流を否定しようと、アーチャーは低く押し殺した声を出した。
「たわけ……! 何を聞いていた」
「……好きだ」
 士郎の手をもぎ放そうとするアーチャーの動きが、思わず止まる。
 双方がそれ、と強く認識しているわけではないが、士郎の口にする「好きだ」は、実のところ、アーチャーにとっての殺し文句も同然、だった。
 何よりも嘘のない、真摯で真っ直ぐな、濁ることがない純化した感情を告げる言葉だから。
「あ」
 僅かにアーチャーが固まった、その瞬間に士郎は、自分よりも大きく逞しい身体を、要領よく体重をかけて押し倒し、乗り上げてのしかかる。「嫌だ」「やめろ」がほとんど口癖のアーチャーに対して、慣れた物だった。
「し、士郎!!」
 両手首を掴まれ膝の上を押さえ込まれ、アーチャーは咄嗟に抵抗できなかった。辛うじて、咎めるように士郎の名を口にする。
 そこへ、文句など言わせないとばかりに、もう一度、唇を塞がれる。
 触れられなかったこれまでの時間を埋めるように、士郎はアーチャーと結び合わせた口唇を食み、粘膜を舌先で擦る。温かく濡れた口内を隈無く舐め上げて、吐息も唾液も混ざり合わせ、舌を絡ませて吸う。
 餓えた渇望のままに、執拗なまでに士郎はアーチャーの唇を求めた。
「っふ、……ぅ、ん……、んん……」
 ほとんど間断なく噛まれ、吸われする唇の隙間、アーチャーの、甘い喘ぎに溶け始めた声が零れ落ちた。
 アーチャーの四肢から、次第に力が抜ける。
 頭の芯が痺れてきて、何も考えられなくなっていく。意思とは無関係に、熱い悦楽の気配がアーチャーの体の中心から末端に広がり、全身を支配しつつある。じりじりと意識を焦がし、窓の外が夜闇ではなく、明るい陽光に満たされていることを忘れさせる。身体の深奥から生じた甘い熱のためか、もう既に、外からの暑さなど感じない。
 薄いヴェールでも掛けられたかのように、思考も、快感以外の感覚も鈍る。
 舌の裏を強く擦られて、アーチャーが一際大きく身震いした。
「ん……!」
 約二週間ほどもの間隔を置いての鮮烈な快感に晒されて、それを気持ちが良いと感じている自分自身に、アーチャーは自制を失っていった。士郎に与えられる愉悦に、アーチャーはこの上もなく無力だった。本気の士郎の希求に、意識していなかった情欲を炙り出されて、その程度を上げ、赤裸々にされていく。
 為す術もなく、押し流される。快楽の海の中へ。口内の唾液と共に、アーチャーは官能を飲み下した。後は、もう溺れるしかない。
 結局の所、アーチャーは辛辣な口を遠慮無くきく分、単に自覚が無いだけで、士郎に最終的には甘いのだった。ツンデレと言われる所以である。
 そして、本人が認めなくとも、特別な情があるからこそ、アーチャーは士郎に抱かれて、また、それを厭っていない。
 この少年だけが与えてくれるものを、アーチャーは知らずに求めているのだ。士郎が餓えてしまうほどに、アーチャーに恋い焦がれているように。
 浅ましい、どんな淫乱なんだ、こんな明るいうちから本気でセックスなどするつもりかと、指先までも火照る自分の身体に、アーチャーは頭の片隅に辛うじて、僅かだけ残った冷静さの欠片で思ったが、もはやどうしようもない。かなり――いや、相当に強引に点けられた火ではあるが、燎原りようげんを燃やし尽くす炎となって、アーチャーの中の常識やら何やらを、吹っ飛ばしてしまった。後はもう、快楽に乱れるしかない。
 これも、暑さのせいなのだろうか。
 やりかけの仕事のこととか、家人の誰かに自分の上げる声を聞かれるかもしれない怖れなど、気になることはいくつもあった筈なのに。
 甘美な口腔を存分に堪能した士郎は、顔を上げた。
 大きく息をついたアーチャーの、普段は濡れることなどない、鋭利な剣を思わせる眼差しはすっかり消え去り、揺らぎ潤んだ銀灰色の双眸と、その周りの皮膚に散らされた朱が、ひどく扇情的だった。ひ弱さなど無縁なほどに強靱に鍛え抜かれた、鋼のごとき筋肉を纏う精悍な肉体を持つアーチャーだけに、そのギャップが余計に、艶めかしさを助長している。
 士郎以外、誰も見たことがないアーチャーの、その無防備な表情。そう思うと、胸の高鳴りと共に、余計に煽られる。窓越しに太陽の光が部屋の中に差し込んできているから、いつもの夜の帳の下とは違い、はっきりとアーチャーの顔や姿が見て取れる。
 それはもう、恐ろしいくらいに色っぽい。
「……アーチャー……」
 頬を撫でると、アーチャーは士郎の顔に焦点を合わせた。
「……しろ、……う」
 応じる声音は、陥落の証に色づいて掠れていた。息が鼻から抜けて、常日頃のアーチャーの、何処か硬質さを感じさせる声とは全く違う、溶けた声音。
「……あ……」
 褐色の首筋を士郎の唇が辿り、鎖骨の作り出す陰影に舌を這わせる。滴る唾液で窪みを濡らし、逞しい肩に軽く歯を突き立てる。
 その間に、アーチャーの着ているシャツの全てのボタンは外され、たくし上げるようにして剥ぎ取られた。掌全体で、背骨から脇腹を撫でる。余分な脂肪の一切ついていない、鍛え上げられた筋肉で引き締まった腹部から、悩ましく細い腰にかけて、士郎の手が滑った。
 ひく、とアーチャーが反応を返す、筋の動きが伝わってくる。あたかも、更なる愛撫を求めてかのように。
「……っん……ッ……」
 手指は、胸へと上っていく。
 既に与えられた感覚に反応し、アーチャーの露わにされた胸の先端は芯を持ち、立ち上がっていた。心臓の鼓動に近い位置を撫で、士郎は、蠱惑的に赤く色づいた、他とは手触りの違うその箇所を、指の腹で軽く押し潰した。すると、一層の赤みを増し、ぴんと張り詰めてくる。
「あぁっ……」
 アーチャーが体を捩ったが、それが決して拒絶を示すものでないことは、洩れ出た、蕩けた吐息から明らかだった。
 焦らすようにゆっくりと指を回し、色の違う皮膚をぬるぬると撫でられる。官能に粟立つアーチャーの肌が、歓びを返してきた。
 ぷつりと尖るそれを、更に尖りを促すように士郎の指先が軽く転がす。
「んッ……や、……あ」
 突起を二本の指の間に挟み込まれ、軽く潰されるように擦りあわされる。その感覚を快楽として、そこは喜んで享受した。
「っふ、……あ……」
「アーチャー、……可愛い」
 乳首をこりこりと擦り立てつつ、士郎はアーチャーの胸の上に顔を落とした。
 指で触れていない、もう片方を誘われるように口に含む。緩く頭頂部を舐め、柔らかく唇で愛撫する。
「は……っ、ぁ、あ……!」
 敏感になった身体の中でも、特に弱い箇所を同時に攻め立てられ、アーチャーは身悶えした。
 ちゅ、と音を立てて吸い上げ、士郎は嬰児よりも一心に、アーチャーの胸にむしゃぶりつく。舌先で捉えた肉粒をくすぐるように舐めると、アーチャーの身体が反って、小さく背が浮いた。
「あっ……あ、は、ぁ……、……士郎……」
 揉み込んでくる手は止まらず、軽く引っ張っては爪の先で弾くように弄り、捏ねる。同時に、もう片方は、強く吸っては舌先で先端を突き、周囲を舐めては何度も何度も吸った。
 小さな感覚器にめいっぱいに与えられるこの呵責に、堪えたいのか、もっと欲しいのか、自分でもよく分からないままに、アーチャーは喉を反らせて、胸の上に伏せられた士郎の頭を抱き、赤銅色の髪をかき混ぜた。
 ただ、この刺激だけでは、高みまでは辿り着けない。アーチャーは体を擦りつけるようにして、士郎の背をより強く、自分の方へと引き寄せた。
「……あっ……」
 熱の根源同士が、服の布地越しに触れ合う。互いに既にすっかり昂ぶっていることを、それは伝えてきた。
 びくん、とアーチャーの背が波打つ。
 唇は胸から外されないまま、手が筋肉の凹凸を辿るようにして、体の下方へと降りていった。
 ジーンズのボタンを外されジッパーを下ろされ、前を寛げられる。それから、下着の中に手が潜り込んできた。
 脚の付け根のくっきりした線を辿った後、白い茂みの下の、形を変えつつある性器を捉えられて掌に覆われ、アーチャーは鋭く息を呑んで、短く叫んだ。
「ん、あっ」
 ほんの少し撫で上げられただけで、士郎の手を先走りが濡らす。アーチャーの状態を克明に知らしめるその状態に、更なる追い立てを加えるべく、ぬめりを肉茎全体になすりつけて、形を確かめるようになぞられ、五指でやんわりと陰嚢を揉みしだかれる。
 その間にも、絡みついた舌で乳首をちろちろと舐められ、アーチャーの腰が震え上がり、つま先まで緊張する。
「あ、あ……や、ああ」
 いかにも感じていると、上ずった声が止まらない。
 そのうちに、手の動きに邪魔な、ジーンズも下着も一緒に、膝の辺りまで下ろされた。
「……ぁ、く、う……んっ……」
 剥き出しになった陰茎を輪を作った掌の中で扱かれて、ぐちゅりと粘った水音が立った。手淫の音が生々しくアーチャーの鼓膜を打ち、士郎にしがみつく手に思わず力が入る。
 胸に吸い付かれ、熱い身体の中心部を握られて、快感が広がっていく。アーチャーはぎゅっと目を閉じ、とめどなく喘ぎ声を零した。
「や……は……、あ、……っん」
 側面を撫で、ぽたぽた滴り落ちる雫を絡ませた指で擦る。液体を溢れさせる先端を指先で押すと、士郎の手の中でアーチャーの分身が、より張り詰めた。
 しなやかな褐色の身体が、小刻みに震える。アーチャーの胸を愛撫するのに満足したのか、士郎が顔を上げた。
 唾液の糸をわざと肌の上に残すように、胸筋が淡い影を作る線から腹筋を舌で伝い、臍の浅い窪みに差し込んだ。
「あうっ」
 臍を一舐めした舌は、勃ち上がりぬかるんだ屹立を掬い上げて、口内に含む。
 根元の辺りを横から咥えられ、しゃぶるように舐められる。
「ひぁっ!」
「相変わらず、イイ声だな……アーチャー」
 笑った士郎は、再び、アーチャーの下腹部に顔を埋めた。ちゅる……という音と共に、性器を咥え直す。
「ああああっ!!」
 口腔全体で搾るように扱かれ、急所に強い刺激を受けたアーチャーは、背を弓なりにしならせる。先端を吸われて、腰が砕けた。
 唇と舌のぬるみで擦ってくる一方で、手が裏筋を撫でる。陰茎の上で蠢いた指は、睾丸を転がすように揉みほぐす。
「ッぁあ! あ、あ……や……っ」
 いっそ容赦のない強烈な愉悦に苛まれて、アーチャーは激しく悶え、振り乱された白い髪が畳の上に散る。
 尖らせた舌先が鈴口を舐める。周縁をぐるりと舐め回し、呑み込むように、深く口内へと咥え込んだ。舌を満遍なく絡めて、余すところなく愛撫する。
 的確に重点を押さえて、弱点を攻めてくる性技に、アーチャーは浮かされる。上から下へと舌を移動させ、また上へ戻りと、蠢く舌。
「ふ、あぁっ」
 アーチャーの顎が上がった。身体はもう既に何の制御も受け付けず、出る声は全てが睦言のようだった。ぞわぞわとした快感が全身を支配し、どうしようもない。褐色の逞しい肢体は悦楽に噎び泣き、撓った。
 次第に、それが違う疼きとなってくる。
「ぁ……っやあ……、あ――」
 生理的な涙が、鋼色の双眸から溢れた。思わず、脚の間で上下する士郎の髪を掴む。
 憶えてしまった疼きの正体は、分かっている。
 それは、ゆっくりと後ろに溜まっていっているからだ。