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Past 1 旅立ち前夜 前編


 夜が明けて、朝が来れば、士郎は凛と共にロンドンに向かって旅立つ。その前に、どうしても。
「アーチャー」
 部屋の入り口を閉ざす襖を、士郎は開く。主の返答など待たない。
 当のアーチャーは、ちょうど着替えて寝ようとしていたところのようで、上着を脱いでしなやかな筋肉に覆われた裸の上半身を晒した姿で、士郎を見た。
「何だ。明日は早いんだぞ、さっさと寝ろ」
「眠れない」
 端的に答えた士郎は、敷かれている布団を大股に踏み越えてアーチャーに近寄り、有無を言わせずに、その悩ましく引き締まった腰を抱き寄せた。立ったままでは互いの身長差から、アーチャーが身を屈めてくれなければ、唇までの距離は遠い。
 褐色の肌に顔を埋めるようにして、士郎は囁いた。
「協力してくれよ、俺がちゃんと眠れるように」
「……鳩尾に一発、拳をくれてやればいいのか。それとも、頚動脈を押さえてやればいいのか」
 抱きしめられながら、アーチャーは士郎の言いたいことを言葉面どおりに受け取った、ふりをする。どれだけ身を任せたって、アーチャーが士郎の求めに素直に頷いたことなど、片手で数えられるくらいしかない。いや、下手をすれば指一本で事足りる。遠回しな希求ならば、尚更である。何時だって、「嫌だ」「やめろ」とアーチャーが口にするのは、もはや様式美のレベルだ。最後には、士郎の背に手を回すとしても。
「分かってるんだろ。抱きたいんだよ、お前を」
「……今日はしないという約束で、昨日しただろうが、たわけ。放せ」
 皮膚の表面を熱い吐息で炙られて、アーチャーが眉を顰めた。
 士郎は、アーチャーの腰に回した両腕に力を込める。放す気なんてさらさら無い。明日になれば、嫌でもこの身体を手放さなければならないのだから。
「けど、抱きたい。アーチャー」
「……っ……」
 小さな声が零れる。アーチャーのものだ。
「やめ……」
 浮き出た鎖骨を舐められ、そのまましゃぶりつかれて、アーチャーは士郎をもぎ放そうとした。だが、士郎はそれを許すまいと、広い胸の上に唇を滑らせる。
「ア……!」
 小さく尖った場所に感じる温み。乳首を士郎の口内に含まれて、ちゅ、と音を立てて吸われる。それに、ひくり、と体が勝手に反応するのを堪えようとして、アーチャーは身を捩ったが、思いもかけない力で動きを押さえ込まれる。
「し……ろ、う……、……や、め……ろ……ッ」
 アーチャーは制止を求めて、士郎の肩を指が骨にすら食い込みそうな勢いで強く掴む。だが、士郎は舌と唇で尚一層の刺激をアーチャーに与えてきた。
「……やっ、う……」
 一瞬、アーチャーの膝から力が抜けた。それを敏感に察知した士郎は、自分のものよりも優に一回りは大きい身体を、自分の全体重をかけて布団の上に押し倒した。
「士郎……!」
 すぐに起き上がろうとするアーチャーの顎を、士郎は捉える。そして、恐らくは、非難か罵声を飛ばそうとするために開かれようとしたアーチャーの唇を塞ぐように口づけた。
 暖かく濡れた口腔に舌を押し入れて、すぐさまにアーチャーの舌を見つけ出すや絡め取る。思い切り深く口の中に入り込み、舌を根元からきつく吸い上げて、唾液を混ざり合わせた。
「ん、ん――ッ」
 士郎は息継ぎも許さずに口唇を食み、粘膜を舐め上げては口蓋を隈なく愛撫する。唇と唇の隙間から洩れ落ちたアーチャーの声が、鼻にかかった甘さを帯びる。
「いてっ」
 と、かなり容赦なく舌を噛まれた士郎は、唇を離して顔を上げた。少し、錆びた鉄に似た血の味がする。
「何だよ」
「何だよじゃない! 二晩も続けてなんて、やってられるか馬鹿! 大体、お前のセックスは、いつもいつもしつこいんだ!!」
 呼吸を自分のものに取り戻したアーチャーの頬が、僅かに紅潮している。そんな顔で白い眉を跳ね上げたところで、かえって士郎の劣情を誘う挑発の表情にしかならないと、恐らくは自身では分かっていないだろう。
「好きなんだよ」
 アーチャーを見下ろして、士郎は告げる。褐色の耳の中に直接言葉を流し込むようにして、士郎はアーチャーの耳朶を噛み、耳孔に舌を差し込んで舐める。
「アーチャー、好きだ」
「あッ――」
 いやにはっきりと聞こえた熱い声に、アーチャーがびくり、と反応する。士郎の掌がアーチャーの脇腹を伝い、指先で肋骨の形を確かめるように撫でてきた。
「っぁ、あ……! し、ろう……!」
 アーチャーは自分の上に圧し掛かる士郎を押しのけようとするが、その抵抗を封じるように、身体の線を辿った指が、胸の突起を摘み上げた。肉体の中で、唯一常に乾いている粘膜をこりこりと擦り立てられて、アーチャーは悲鳴じみた声を上げた。
 胸を弄られるその間も、耳を嬲られている。ぴちゃ、と水音が頭蓋に直接伝わるように聞こえて、アーチャーは小さく身震いした。次第に、鋼の瞳が潤み始める。士郎に導かれる快楽に慣れた体が、ともすればそれを欲して燻りそうになるのを、アーチャーは懸命に耐えた。
 耳から離された舌が、首筋を辿ってざらりと膚を何度も舐め上げる。唾液で濡れた褐色の皮膚の上に、士郎は征服の証の歯を立てた。痕が残るほどの激しさで噛まれて、アーチャーは喉を反らせた。上がった顎の下にも咬みつかれて、歯形をつけられる。
「あ、うッ」
「好きだ。でも、次に会えるのが何時になるか、分からない。そう考えたら、お前を抱きたくてたまらなくなった。ごめん」
 表向きは、士郎と凛はロンドンの同じ大学に留学することになっている。だが、実際は魔術協会の総本部である、通称を『時計塔』という魔術師達の学府に行くのだ。
 だからこそ、どんなに好きで一緒にいたくとも、アーチャーを連れて行くことは出来ない。
 サーヴァントとは、既に死した英雄の魂を再現して、聖杯の力でもって現世に固定させた、いわば奇跡の具現化である。そんな神秘の塊の存在が聖杯戦争の終結後も存在しているなどと、時計塔の魔術師達が知れば、放っておくわけがない。ここ冬木で複数のサーヴァント達が、平気で普通の人間に混じって闊歩して生活していられるのも、協会の目が届きにくい、日本という極東の土地柄ゆえであり、管理者セカンドオーナーが他ならぬ遠坂凛であるからだ。
 しかし、協会お膝元のロンドンではそうはいくまい。下手をすれば、アーチャーの英霊エミヤとしての本質―本人自らが「掃除屋」と卑下する、抑止力、カウンターガーディアンという役目を引きずり起こして、目覚めさせかねない。そんな結末を誰が望む?
 だから仕方が無い。納得の上だった。その筈だった。
「……謝るぐらいなら我慢しろ、たわけが」
 大きく息を吐き、アーチャーは士郎の手を掴んで、何とか胸から引き剥がした。一時的にせよ、苛みから解放されたアーチャーは、上ずりそうだった呼吸を何とか整えて、文句を口にする余裕ができる。
「それこそ、これから何年離れているか分からないのに、今夜一晩くらい我慢できなくてどうする」
「見解の相違、ってやつだな。これから何年離れているか分からないからこそ、俺は今、アーチャーを抱きたい」
「前から思っていたが、お前は我慢という言葉の意味を知っているのか」
「知ってるけど、お前のことに関しては使う気が無い」
「――ああ、そうだったな。考えてみれば、お前は、オレとのこの手の『約束』を守ったたことなどなかったっけな」
「しょうがないだろ。お前、可愛すぎるし、エロすぎるんだよ」
「お前の感性がおかしいだけだ、知るか!」
 大体、士郎との言い合いになると、アーチャーは常の皮肉っぽい態度は何処へやら、互いに感情的かつ低レベルな言葉の応酬になる。
 平行線の主張。互いの目を睨みあうようにして、暫し見つめ合う。
 真っ直ぐすぎる琥珀の視線が、心臓に突き刺さるような気がした。いつもこの目に、「好きだ」という躊躇いも偽りも無い言葉に、アーチャーは、勝てないと思う。
 いや、剣を交えた末に敗北を認めて、そしてその揺るぎない信念に救われてからずっと、何時だって、アーチャーは士郎に勝ったためしがない。
 遠い過去に失った、エミヤシロウの理想。残酷な現実の前に、悔恨と妄執に塗れてしまったそれを思い出させてくれた、まだ道の途上にいる少年。眩しいほどに輝かしく、尊いほどに瑞々しい、正義の味方になるという夢。それを体現した衛宮士郎に求められて、アーチャーが勝てるわけがないのだ。
 やがて、はあ、と溜息の音。
「……つくづく本物の馬鹿だな、お前は。全く……」
 褐色の手が、士郎の頬に添えられた。
「だからお前は、小僧だというんだ」
「次に会う時は、絶対にそんなこと言わせないからな」
「ほざけ」
 憎まれ口を叩きながら、アーチャーから唇を重ねた。軽く吸う。すると、ねだるように士郎に舐められるから、アーチャーは応じて口唇を小さく開いた。入り込んできた士郎の舌が、アーチャーの口内を探って蠢く。
 自ら迎え入れた士郎の舌に、アーチャーは自分の舌を絡めた。そんなアーチャーの動きに誘われてか、士郎は思い切り、奥まで入り込む。そうして、士郎が自分の下にある長身を抱え込むようにして抱きしめると、アーチャーの腕も士郎の背に回された。
 きつく抱き合って、互いの口腔の熱と吐息を暴き、貪り、交わらせる。
 こんな風に唇を合わせていると、アーチャーは自分がゆったりと満たされていくのを感じる。渇いている、と自分では気付かなかった部分を。それを与えてくれるのはただ士郎だけで、その感覚をアーチャーは快く感じる。
 だからこそ、アーチャーは士郎に抱かれることを、心底からは厭わない。身体の充足以上に精神の充足を与えられて、幸福だとは、せめてもの意地として決して士郎には言わないが。
「……ふ……っ……」
 唇を離されると、二人の間を繋ぐ唾液の糸が、呼気に震えた。最初は頬にのみ生じていた熱が、徐々に全身に伝播していくのに、アーチャーは体の中の明確な意思を感じ取らざるを得なかった。
 背筋が粟立ってくる。抱いて欲しい。
 男の自分が同性である男に抱かれ、男に貫かれて悦びを得るなど、本当にみっともなくておかしいと思う。ましてや、相手の衛宮士郎は、過去の自身と同一の存在だというのに。自己愛もここに極まれり、といったところか。生前は、少しも自分自身を大事にしないと、よく怒られたものだが。
 けれど。
「……アーチャー」
 呼ばれて、アーチャーはいつの間にか閉じていた瞼を開いた。
 かつての自分と同じであって非なる顔が、血を上らせて欲情を露にしている。今の己も同じような顔をしているのだろうか、そんなことを考えながら、アーチャーは小声で言った。
「……たわけ」
 拒絶のためではなく、受け入れるために。
 偽りの英雄でしかない自分。ただの一度も理解されず、意味など無かった生涯。それらを全て肯定して、なおかつお前が欲しいと言う少年に求められて、心が密かな歓喜に震える。その想いだけは、紛い物でもなく贋物でもなく、真実以外何物でも無い。
 口で何と言おうと、どれだけ理性の部分で否定してみたところで、一方的に欲されるだけではなく、アーチャーが本能の部分で士郎に好意という名の情を抱いているのは確かだった。ただ、その感情の意味がよく分からないだけで、明らかに存在するもの。
 そうやって、アーチャーはいつも、求めてくる士郎に絆されて、許してしまうのだ。
「あ……、っつ……!」
 いきなり胸筋の上を強く揉まれて、アーチャーはその強引な肉への扱いに、痛みで顔を歪める。
「胸なんか揉むな、馬鹿! 女ではないのだから、痛いだけだと前から言っているだろう!」
「アーチャーって、胸、弱いよな」
「お前、人の話を……っ、や、あ……!」
 アーチャーの抗議をまるきり無視して、士郎はそれこそ女性の乳房にするように、柔らかく胸に手を置いて揉みしだく。先ほどから度重なる加虐を受けて、赤く色づき立ち上がった突起の先端を、指で押し潰されたアーチャーは、堪らずに声を上げた。
 改めて、手で触れられていない方の尖りを、濡れた口内に含まれる。
「は、あっ……」
 吸われて舐められて、唇で押し潰され、舌で突かれる。指の腹で擦り上げられて、爪で軽く引っかかれ、捻るように揉みこまれる。
 小さな場所に容赦無く与えられる感覚に、アーチャーは次第に呼吸の糖度と荒さが高まっていくのを自覚して、淡く身動ぎした。熱が、どうしようもなくわだかまってくる。心臓の鼓動が早まってくる。
「……っ、しろ……う……、うッ……」
 張り詰め尖ってくるその箇所への愛撫を休めずに続けながらも、士郎は空いているもう片方の手をアーチャーの下肢へと滑らせた。スラックスのボタンを外し、ジッパーを下ろして、下着の中に潜り込んだ手が、白い茂みの下、アーチャーの変化しつつある欲望を緩く握り込んだ。
「や……嫌、だ、たわ、け、こん……な……、あ、あ、ああ……ッ!!」
 びくり、とアーチャーは背を引き攣らせて、身悶えする。敏感な二箇所を同時に攻め立てられる危機感に、アーチャーはもがこうとした。しかし、士郎はそんな往生際の悪さは却下だとばかりに、アーチャーの着衣を全て取り去り、性器を大きく上下に扱き始めた。
「っあ……っ、んんッ、士郎、し……ろ、う……!」
 アーチャーの手が、布団ごとシーツを掴む。相変わらず胸に吸いつかれながら、陰茎を擦りたてられて、アーチャーは普段は小揺るぎもしない鋼色の両瞳に、じわりと生理的な涙を浮かべた。
 性器の先端から、次々と溢れ出てくる透明な液体を指先で掬い取られて全体になすりつけられると、くちゅりと淫猥な水音と共に、士郎の手の動きが滑らかになる。アーチャーは、こればかりは同性同士であるが故に欺瞞のしようがない強い快感に、断続的に喘ぎを洩らす。
 このまま高みへ押し上げられ、逐情させられるのかとアーチャーは思ったが、不意に呵責がやんだ。何を、と訝しげにアーチャーが士郎を見上げる。
 一旦、士郎はアーチャーの上から身体を起こした。そして、自分の衣服を脱ぎ捨ててアーチャーと同じく全裸になった。既に、その体の中心部は情欲に猛りを見せている。
「アーチャー……」
 ひたすらに愛しいと、感情を声音に込めて、士郎はその名を呼ぶ。上気した頬に接吻を落とすと、抱きつくようにして、再び自分よりも大柄な褐色の肢体に覆い被さる。
「うあッ……!」
 士郎の体の脈打つ核心が、アーチャーの熱の根源に密接する。そのまま士郎が腰を揺らすと、ずる、と赤裸々な昂ぶり同士が刺激し合って、ひどく粘性の強い、濡れた音を立てる。加えて、手が伸ばされて、擦られる。アーチャーは、その行為にもたらされた信じ難いほどの悦楽に、何度も身を捩った。
 互いを摩擦することにより、秘奥を抉られているような激しい快感を与えられて、アーチャーは理性を削り取られていき、次第に自制を失っていく。士郎の背を抱き寄せて、縋りついた。それで余計に密着の度合いが高まり、更なる快楽へと導かれる。
「くっ、あ、あ、う……あああああ!!」
「アーチャー、凄い、気持ちいい……!」
 熱に荒れた士郎の声が、彼もまた限界に近いことを知らしめる。
「士郎……! っ……!」
 アーチャーがびくん、と大きく仰け反って達するとほぼ同時に、士郎も射精した。
 部屋の中を二人の荒い呼吸だけが支配したのも束の間、士郎は白濁に濡れた手を、アーチャーの背後に回した。
「ぁ……」
 窄まりを探り当てた指が、周囲を慣らしてから入り込んでくる。微かな声と共に、アーチャーが小さく背をしならせた。いつもならばもっと、異物に潜り込まれることに抵抗を示す後孔は、意外なほどあっさりと綻んで士郎の指を飲み込んだ。それは、昨夜も士郎に抱かれたせいで、体が意思とは別に受け入れやすくなっているのだと思い至り、アーチャーは手放しきれない羞恥に赤面した。改めて、自分の淫乱さを突きつけられたような気がして。これでは、士郎のことなど言えた義理ではない。
 そんなアーチャーの思考を奪うかの如く、士郎は奥に指を突き込んだ。
「……なあ、アーチャー。もっと、お前の声、聞かせてくれよ」
「ひっ、あ……!!」
 やや性急な指の動きに、アーチャーの喉が仰のく。そのまま、中で曲げられた指が内壁を緩く引っかいて、関節が擦り付けられるから、思わず内側を食い締める動きを、身体が勝手に行う。
 狭まった器官をぐるりとかき回されると、不意に腰に疼きが訪れた。入り込んだ指で内側を捏ねられて、アーチャーは白い眉を寄せ、浅い呼吸を繰り返す。
「あ、はあ――」
 埋め込まれた指が一度抜き出されては、また入ってくる。入り口を広げるための抽挿を繰り返されて、少しずつ、しかし確実にアーチャーの体が開かれる。
 すると、体内へ侵入する指が増やされた。二本の指はほとんど気侭に蠢いては、アーチャーを翻弄する。柔らかい壁を押されて、びくと腰が跳ね上がった。
「あッ――士郎……」
 自分の声が甘ったるく溶けて、震えているのを自覚するが、もうアーチャーには、自分の意思でそれをどうにかすることは出来なかった。ただ、士郎の背をかき抱いた手が、爪を立てないようにするだけで、精一杯だった。
「アーチャー……好きだ。お前のこと、全部」
 士郎が囁く。たったそれだけで、体の中の熱が膨れ上がった気がした。掌の下、まだ青年への過渡期にある、少年の体にしがみつく。
「や、ああ」
 そんなアーチャーの反応を見極めてか、咥え込まされた指が、また増えた。ひくつく秘部が攪拌されて、抜き差しされる速度と激しさが増すが、アーチャーは痛みよりも痺れに似た快感を得ていた。さらわれてしまいそうだった、押し寄せてくる官能の波に、ただひたすら。
 長い脚が、士郎の体に絡みついた。士郎は、汗ばんだ褐色の肌のあちこちに啄むような軽いキスを降らせて、アーチャーの体の前面を、内側から強く擦り上げた。同時に、一度、解放したにも関わらず、萎えずに硬くしこったままの自身を、筋肉が美しく緊張したアーチャーの内股になすりつける。
「う……あ、……っん、ああ……!」
 もはや、身も世も無い風情で、アーチャーは頭を振り乱した。白銀の髪がばらばらと乱れ散る。開いた唇から発せられる言葉は何もなく、洩れ落ちるのは潤みきった喘ぎだけだった。
「いい、か。アーチャー」
 交わろうとする時、士郎は律儀に、アーチャーに意思の確認をしてくるのが常だった。アーチャーもまた、口癖のような嫌だ、は言わずに素直に頷く。