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Act 3 たった一つの答え 後編


 そんな風にして、自分の部屋まで辿り着くと、士郎は畳の上にそっとアーチャーを下ろした。
「……?」
 てっきり、そのまま組み敷かれるのかと思っていたアーチャーは、眼を瞬かせる。士郎は押入れを開き、布団を敷き始めた。
「畳で背中擦れたら、痛いだろ」
 余裕を見せ付ける士郎に、アーチャーはもはや、脱力したように何も言えない。認めたくはないが、彼我の勢力が六年前とは完全に逆転していることは、どうにも明らかだった。悔しいというよりも、複雑な気分が如何ともし難い。
「アーチャー」
 士郎は、アーチャーの手を引いて、布団の上まで導いた。抱き寄せて、唇を重ねる。アーチャーは一切の抵抗もなく、それらの士郎の行動を受け入れた。
 今では疑いもなく、分かる。本当は待っていたから。この手を。士郎だけが与えてくれるものを。
 薄めだが柔らかい唇を舌でなぞると、閉じられていた口がそろそろと開かれた。士郎は、舌をアーチャーの口腔に差し入れる。
 自分の口蓋を探り始めた舌に、アーチャーは自分の舌を絡め、軽く吸った。すると、より深い結合を求めて、士郎が呼吸も出来ないほど激しく、奥へと押し入ってきた。何度も繰り返して角度を変え、アーチャーの舌を執拗に吸い、唾液を絡ませ合った。さながら、アーチャーの中の熱を探り、暴き立てるように。
 鼻から息が抜ける。濡れた粘膜が淫蕩な水音を立てる。飲み下しきれない唾液が、口角から顎を伝う。アーチャーが、微かに悩ましい吐息を零した。
「……んっ……」
 存分に口内を貪りきって、名残惜しげに間に銀糸を伝わらせながら、口唇が外される。
 腕の中に囲い込んだ、褐色の肌と鋼色の瞳を持つ愛しい人に、士郎は笑いかけた。
「六年ぶりに今夜は、もう死ぬってほど、愛してやるからな」
「……たわけ、が」
 アーチャーは憎まれ口を叩きながらも、無意識にか口許は小さく笑っていた。まるで、望むところだ、と言っているようだった。
 士郎が、アーチャーの服に手をかける。一つずつ、丁寧にシャツのボタンを外していくと、アーチャーも士郎の上着をたくし上げる。そうやって、互いに互いの着衣を脱がし合い、生まれたままの素裸になると、もつれ合うようにして布団の上に倒れこんだ。
 内股の際どい辺りを撫で上げられて、アーチャーが息を呑んだ。アーチャーの記憶の中にあるよりもずっと大きな掌が、ゆっくりと太腿全体を愛撫してくる。体の中心に至りそうになっては膝の辺りまで戻る士郎の手の動きはひどく優しくて、それがかえって疼きを与えてきた。
 アーチャーは、士郎の背をかき抱いて、耳の輪郭に沿って唇を這わせる。耳殻を舌で舐めると、ぴくり、と士郎の肩が上下した。
「……アーチャー、お前」
 琥珀の眼が銀灰の眼を覗き込み、褐色の頬に軽い口づけを落とした。
「いいのか、そんなに俺を煽って? 優しく、出来なくなるかもしれないぞ?」
「……構わん」
 気遣わしげに士郎は言うが、アーチャーはかぶりを振った。それから、少し躊躇するように視線を彷徨わせて――目元をほの赤く染めながら、ぼそりとした声を洩らす。
「欲しがっているのが、お前だけだと思っているのか」
 阻むもの無しに直に触れ合う素肌の熱の下、心臓の鼓動が伝わる。士郎の鼓動も、アーチャーの鼓動も、同じくらい早かった。同じくらいに、互いを求めていた。
 士郎が微笑する。
「辛かったら、ちゃんと言えよ。六年ぶりなんだから、な」
 アーチャーの首筋から喉元の辺りまでを、士郎は緩く唇で辿った。鎖骨の形を舌でなぞる。発達した筋に覆われた肩の線を指の腹で撫でて、その滑らかな肌触りを楽しむ。腕の付け根の窪みから、そのまま胸に手を滑らせた。
「あ――」
 先ほど、中途半端に刺激を与えられた箇所は、軽く触れられるだけで、電流にも似た痺れをアーチャーにもたらしてきた。声に、甘さが滲む。
 明確に立ち上がっていく胸の先端は色づいて、そこを口に含まれると、鳥肌が立つほどに感じる。
「っは、……ぁ……ん……」
 次第に凝り始めた突起を舌先で転がされて、アーチャーは喉を反らせる。士郎は、余分な脂肪の一切ついていない腹部を撫で下ろし、脇腹を揉むようにして掴んだ。
 吸い上げられ、軽く歯を立てられる。びく、と背を震わせたアーチャーは、士郎の頭に手を回し、赤銅色の髪を撫でた。柔らかい仕草で。
 アーチャーの手の動きに促されたように、士郎は舌先で口の中の乳首を押し、甘噛みした。
「あっ、ああ……」
 褐色の身体がそよぐ。弄られていない方の胸の飾りも、片方に与えられる刺激に過敏に反応し、張り詰めてひとりでに尖りを見せてくる。
「……士郎……」
 舐められ、吸われ、擦られて、じわじわと焦がされる六年ぶりの快楽の感覚に、アーチャーは全てを委ねていく。
 もっと触れて欲しい、と思ってしまう。それも、ごく自然に。抱かれたいとか、抱いて欲しいとか、アーチャーがそんな風に想う相手は士郎だけで、これが愛しいという感情なのかと、改めてその言葉の持つ意味を噛み締める。
 六年間、知らずに餓えていた。渇いていた。寂しくて。だから多分、そのせいだ。折に触れては、士郎のことばかり考えていたのは。それこそが本心であると思い込んでしまうほどの建前に、あまりにも厳重に覆い隠されていたために、自分でも気付かなかった本音は、心身の渇望を満たされつつある今、もう否定のしようもない。
 求められることの幸福と、求めることの幸福。その両方が、施される愛撫以上に、全ての神経を昂ぶらせてくる。精神と肉体と、両方で感じる愉悦。
 荒くなってくる呼吸の下、アーチャーは、逞しくなった士郎の体に縋りつく。
「ほんと、可愛いよな、お前って」
 胸から顔を上げて、士郎は言った。その声も、濡れていた。以前は、業腹だった士郎の言う「可愛い」も、今では奇妙なほどに反発を感じない。それは士郎の成長のせいか、アーチャーの心境の変化のせいか。
「しろ、う……」
 そのまま、士郎の頭が、アーチャーの下肢へ向かって下りていく。途中、臍の窪みに戯れに舌を押し入れると、アーチャーが小さな息を吐いた。
「っ……」
 褐色の脚の付け根に触れ、士郎は二本の脚の間に自分の身体を割り込ませる。
 既に情欲に反応して、アーチャーの体の中心は、ほとんど勃ち上がっていた。先走りを零しつつある性器を舌で掬い上げるようにして、士郎は口に含んだ。
「ぁあ……! っや……」
 アーチャーは、思わず脚を閉じようとしたが、それはかえって、士郎の頭を脚で挟んでしまう行動になってしまった。内股の皮膚に、士郎の髪が擦れる。硬めの髪の感触が、妙に性感を引っかいてきて、アーチャーは身を捩った。
 ぬめる、熱い感触。舌が、全体に絡みついて動いてくる。滲み出てくる粘性の高い液体を吸い上げるようにして、士郎は久方ぶりに抱くアーチャーの体を、丹念に味わう。
「ん……あ……」
 アーチャーが小刻みに震える。脚の間で、夕焼けに似た赤銅色が自分を咥えたまま上下するのが見えてしまう。片手が根元を揉みしだいてきて、裏筋を撫で下ろす。眼が眩みそうな強すぎる感覚に、アーチャーはぎゅっと瞼を閉じる。そうすると、すすり泣くように上ずった、自分の呼吸がやけに聞こえてきた。
 周りをぐるりと巡った舌が、先端に戻って窪みの辺りをくじるようにちろちろと舐める。唇と舌で、余すところなく擦り扱かれて、アーチャーの顎が上がった。腰から全身に甘い痺れが広がって、体が強張った。
 鈴口を強く吸われる。腰が砕けた。
「あっ……駄目だ、士郎……、も……う……!」
 出るから、とアーチャーは士郎を引き剥がそうと、眼は閉じたまま、手探りで髪を掴んだ。だが、唇は離されることなく、逆に士郎は喉の奥深くまで先端を吸い込んだ。解放を促されて、逆らえない。大きく、アーチャーの体が跳ねた。
 士郎の口内に熱を放ったアーチャーは、夜の暗がりの中でも、はっきりと分かるくらいに褐色の顔を真っ赤に染め上げた。初めての生娘でもあるまいに、とは思うのだが、羞恥で血が沸騰しそうになるのを止められない。
 視界を開くと、士郎が自分の放出したもので白く汚れた、指と唇を舐め取っているのが見えた。いささか気まずい心地で、アーチャーは眼を伏せた。
「アーチャー」
 半身を起こした士郎が、アーチャーの脚を折り曲げて開かせる。布団を敷いた時に用意したらしい小瓶を手の中で温めて、中身の液体を掌に傾けた。アーチャーの秘地に丁寧に塗布し、入り口と、それから自分の指をたっぷりと濡らす。
「な、にを……」
 士郎の行動に戸惑ったように、腹筋の力で上体を持ち上げたアーチャーが訊く。
「ただの潤滑油だから、心配するなよ」
 答えた士郎が、探り当てたアーチャーの後孔に指を押し当てた。周辺を何度か撫でた後、油の力を借りて、ゆっくりと人差し指をアーチャーの中へと潜り込ませていく。
「ッア! く……う……」
 固く閉ざされていた秘所に侵入してきた指は、士郎の身体の成長とともに、アーチャーのものと同じくらいに節が高く長くなっていた。士郎とアーチャーが一番似ている箇所は、恐らくこの手指だろう。それが摩擦無しであっさりと関門をすり抜けてきたのに、アーチャーは知らず体に力を入れて、士郎の指をきゅっと締め付けた。
「痛いか?」
 アーチャーの表情を探りながら、士郎はぬめる指を徐々に沈める。性急になって、アーチャーを傷つけないように注意を払いつつ、根元まで埋没させる。
「いっ……痛くはない、が……」
 分泌物とは異なる、液体によるぬるぬるとした感触が気持ち悪いのか、アーチャーは僅かに眉を顰めた。それでも、女性とは違って濡れない身体を持つ自分の負担を軽減するためだと分かっているから、意識して懸命に慣れようとする。
 かつては何度も暴かれながら、六年間、誰にも触れずに触れられることもなかった体を解していこうと、士郎は無理のないように、閉じられた場所を掻き分ける。
 熱く狭い内部、押し返そうとする内壁の抵抗をかわして入り込んだ指を、士郎はゆるりとかき回してみた。ひく、とアーチャーが反応する。
「大丈夫か、……アーチャー?」
「……ああ……」
 喘ぎじみた頷きに、士郎は指をもう一度回してから、入り口近くまで後退させて、また中に戻す。焦らずに繰り返していると、当初は違和感に異物を吐き出そうとしていた内部がうねって、次第に絡みついてくる。
「ん、く、あ、ふ……っ」
 段々と、抽挿が滑らかになる。熱い肉を掻き混ぜながら、探るように何度か壁を押すと、アーチャーは内側からの刺激に艶かしい声を上げて白い髪を揺らし、士郎の指の動きに応えた。
 潤滑油に湿らされた体内は、濡れた音を響かせて、指による攪拌を受け入れる。士郎は、アーチャーの身体の前面を強めに擦った。
「ひ――」
 かすれた悲鳴と共に、アーチャーの四肢が強張った。爪先まで緊張しながらも、一度、熱を吐き出して収まっていたものが、再び立ち上がる。
 それを確認し、何度も、士郎が同じ箇所を往復して撫で上げてくる。更に、手が伸びてきて硬くしこったものを包み込まれた。前後を同時に刺激され、アーチャーの身の裡から、炸裂しそうな快感が絶え間なく沸き起こった。
「あ、ああ、あ、しろ、う……! うあッ、や、……あ、……んッ……!」
 強烈な官能を与えられて、アーチャーは甘い痺れに悶える。皮肉屋の弓兵の姿はそこにはなく、褐色の肌を紅く染めて、淫らに乱れ喘ぐ、士郎の大切な人だけがいた。慎ましやかな蕾が、徐々に綻びを見せてくる。
 指がもう一本入ってくる。抉るように押し広げられ、それでもアーチャーは痛みではなく快楽を得た。
 潤滑油のもたらすぐちゅぐちゅと卑猥な音と共に、二本の指がアーチャーの中を蠢く。締め付けようとしていた力が少しずつ緩んで、広げられて赤い媚肉が垣間見えた隙間に、三本目の指が飲み込まれる。
「はっ……ん……」
 その感覚を率直に感受し、アーチャーは背を反らせた。
 久しく愉楽を忘れていたアーチャーの身体は、濡れた音を響かせて、快を与えてこようとする士郎の愛撫に開かれていく。熟れた肉が柔軟さを増して、後孔から液体を滴らせる。
 アーチャーの嬌声に、痴態に、士郎は六年間も自分の中に押し込めていた愛しさが、溢れ出てくるのを感じる。何もかも全てが欲しい、と思う熱病のような恋情は、当のアーチャーを目の前にして、飢餓感を煽るのではなく、もっと愛したいという、いたわりに似た感情をもたらしてきた。
 英霊となってから、美しいものに目を向けることは許されず、醜さと汚さだけを見せ付けられてきた鋼の瞳。多くの人を救いたいと願いながら、人を殺すことでしかその願いを叶えられず、人類の守護者という名の道具として、ただ世界のために力を揮わされるしかなく、磨耗していく心。堕ちた理想、自分殺しに走らずにいられないほど、ずたずたに傷つけられた末の絶望。
 一緒に笑いたい。幸せだと、微笑ませてやりたい。悲しかったら、俺の前では素直に泣けばいい。愛しているから、俺は何時だってお前の味方でいてやるから。この錬鉄の英雄の傍にいられる強さを得るために、六年間も離れていたのだ。
 だから、一緒にいよう。これから、ずっと。共に居られる限り。ここにいるお前は〝世界〟のものじゃなくて、俺のものだから。
「アーチャー」
 呼ぶ。
 潤んだ鋼色の双眸に、その持ち主とよく似ていて何処か違う、士郎の顔が映る。
「愛してる」
 ありったけの心からの感情をこめて、士郎は囁いた。何度言っても、きっと言い足りない。
 アーチャーは、答える代わりに、士郎の肩に両腕を投げかけた。
「ン……あ……」
 蠕動する内壁が、指に擦られてやわやわと絡む。深々と埋め込まれた指が中を拡げつつ、半ばほどまで抜き出されては再び奥を目指して進む。指の抜き差しは速度を増していき、その反復によってアーチャーの体が開拓されていく。
 そこから這い上がってくる喜悦に溺れかかり、ふと、アーチャーは気付いた。
「士郎」
 自分を抱く男は、もう、随分、辛いのを我慢しているのではないだろうか。時々、脚に触れる士郎の体が、ひどく熱い。それに。
「……もう、いい、から……」
 震える唇から、何とかして言葉を絞り出す。
「いい、のか」
 確認されて、アーチャーは頷いた。
 士郎を喜ばせてやりたいし、早く来て欲しい、と思うのも事実だった。この身体で、士郎を全て受け入れたい。共に、快楽の頂点まで登りつめたい。
 アーチャーの反応を見たからか、中から指がずるりと引き抜かれ、熱を持った入り口をこねるようにして撫でられた。次の段階の法悦を待ち焦がれるそこは、士郎を誘うように盛んにひくひくと蠢いた。
 優しく出来なくなるかもしれない、などと言いながら、決して自分を乱暴に扱おうとしない士郎に、アーチャーは笑いかけた。
「……入れてくれ、お前……を」
 士郎が、軽く瞠目した。が、すぐにアーチャーと同じように笑った。
「ああ、……俺の、アーチャー……」
 強く硬く脈打つものが、アーチャーの脚の間に押し当てられる。士郎だ、と理解する。本当は、アーチャーがずっと好きだった男の、体。背筋が粟立った。
 本当は、知らずにずっと待っていた熱だ。喜びが、ゆっくりと胸郭を満たしていく。
 士郎を受け止めようと、アーチャーは息を吐いた。
 体重をかけられ、ゆっくりと熱い先端が埋め込まれてくる。ほとんど忘れかけていた引き裂かれそうな痛みに、体が竦みそうになるが、逃げ腰になるのを意思の力で押し留め、アーチャーは士郎の背を抱いた。
 限界まで拡げられた秘所は、かつて何度も熱塊を受け入れた感覚を思い出してきたように、徐々に士郎に恭順の意を示し始める。また、丹念に塗りこめられた潤滑油の力も借り、意識してアーチャーと呼吸を合わせながら、慎重に身を進めた士郎は、肩や胸、鎖骨に唇を触れさせた。歯を食いしばり、苦痛を散らしていこうとしているアーチャーの気を、痛みから逸らせようとする。緩く揺すりつつ、アーチャーに出来る限り無理をさせないように動いた。
「あ、あッ……、ああぁ、あ……!」
 一番太い部分が通り抜けると、残りは滑り込むようにしてアーチャーの中に一気に埋没していく。溶かされるのではないかと思うほど、熱すぎる内襞に包み込まれる極上の心地良さに、思わず士郎は溜息をついた。
 ぐちゃん、と一際大きな濡れた音を立てて、士郎とアーチャーは完全に一つに体を繋げる。
 ただ一人にしか触れさせたことのない最奥まで入り込まれたアーチャーは、合わせた肌の温みに安心するようにして、浅かった呼吸を少しずつ落ち着け、自分の上に圧し掛かる士郎を見上げた。
「……動いても、構わないんだぞ……士郎」
 腹と腰を一杯に占領されて、身動きもままならぬというのに、そのままではお前が辛いだろうと、あくまでも相手を思いやるアーチャーの眼差しに、士郎は早鐘を打つ心臓を押さえ切れない。
「アーチャー……」
 褐色の長い脚が、士郎の腰を抱え込むようにして絡められる。互いの望みが、完全に合致していることを知らしめてくるアーチャーに、士郎は応える。
「あ、ん、う、あ……あ……」
 ゆっくりと体内を掻き混ぜるようにして、士郎がゆるりと動き始めた。愛撫に近いような、ゆったりとした抽挿は、やがて強く突き上げるものへと変化していく。
 突き入れられ、抜き出される度、懐かしくすらある熱に、アーチャーは仰け反る。濡れた音に重なって聞こえる士郎の乱れた呼吸音が、今、自分と快楽を共有しているということを証明していて、それが無性に嬉しかった。
「……っ!?」
 不意に、浮いた背中へ手を差し込まれて、アーチャーは体を起こされた。繋がったままの体を士郎の膝の上に抱えられ、信じ難いほど深く、士郎と結びつくことになったアーチャーは、甘い悲鳴を放つ。
「あああああああッ!!」
 繋がりあった箇所が淫靡な粘ついた水音を立てて、擦れ合う。
「あ……、っく、は……!」
 埋め込まれた芯が、狭い体内に突き立てられ、アーチャーの弱い箇所を抉ってくる。ぞわぞわとした快感に、アーチャーは上半身を捩った。
「きついか」
 心配そうな声が訊いてきた。いつの間にか目を固く瞑っていたアーチャーは、瞼を開いて首を振った。
 そして、笑ってみせる。
「へ、いき、だ」
 士郎に与えられる感覚であれば、今は何だって受け入れても構わなかった。アーチャーは士郎の首にしがみついて、強く貫かれる体勢のままに快楽を享受する。
 汗に艶めく褐色の体を抱き締めた士郎は、乱れ落ちた白いアーチャーの髪を片手で撫で付けた。アーチャーの表情が、よく見えるように。
 すっかり溶けきった鋼色の瞳は、荒い呼吸と共に甘く潤んでいる。同様に、アーチャーの体の内側も潤んでいて、それで士郎は自分の体と相手の体が溶けて馴染んでいるのを感じる。
 アーチャーの背に回した手で、しっかりした骨格と背筋を辿ると、士郎は律動を再開した。
「ン、んッ……! あ、は、あ、あああッ……!」
 腰を浮かせ、少しずつ角度を変えて、士郎はアーチャーの中を探るように動く。腰骨の辺りを掴み、下から打ちつけると、収縮を繰り返すアーチャーの内壁が、貪欲に士郎を飲み込んでいく。
 深々と突き刺さった肉棒が抜き差しされ、粘膜を擦られたアーチャーは体を反らせて喘ぐ。もはや意地も矜持も何も無く、ひたすらの快楽に身を任せる。士郎に乱れきった様を晒すことに、羞恥や躊躇いは一切無かった。
 揺さぶられ、体の中にある熱の塊が、硬さと質量を増してくる。それは紛れもなく、士郎がアーチャーの身体に愉悦を感じている証拠だった。自分に向かって、愛してる、と限りなく偽り無い情を注いでくる男に、例え淫楽ではあっても、何かを返してやれるのだと、アーチャーは自分の全てを士郎に開き、晒して、与える。
 先端で予想もつかない場所を抉られて、寒気に似た感覚が脊髄を上ってくるのに震える。結合部からひっきりなしに奏でられる淫らな音が、更にアーチャーを追い立てる。
「んっ……あ、あァ……」
 汗の粒が散る。士郎の上に跨るようにして抱えられたアーチャーは、首を振って啼く。違う箇所を突かれては、これ以上は無いというくらいに高みへと押し上げられていくのに、まだまだ強くなる快感に、アーチャーは両瞳から雫を零しながら、悲鳴のようにして叫んだ。ただただ、愛しいと認めた男の名を。
「しろ、う……士郎……士郎、士郎、士郎、士郎、士郎ッ……!!」
 明らかに己を求めてくるその声音に、士郎は身体に与えられる愉悦を増加させられる。
 ―渇きなのか飢えなのか、焼きつくような感覚に、喉が鳴る。俺は本当の意味でアーチャーを手に入れられたんだと、眩暈がしそうだった。
「アー……チャー……!」
 狭い器官の中を楔が目一杯に膨張して、肉がぴっちりと食み合っている。抽挿の度に絶妙な強さで食い締められて、士郎は荒々しい息遣いと共に、更なるアーチャーの奥へ押し入る。
「あ……っ、……し、ろう……、あ、いい……!」
 アーチャーが甘い息を吐いた。絶頂に至る階段に足をかけて、いかせて欲しい、と声に出さずにねだる。
 自らも限界に近い士郎は、アーチャーをしっかりと抱えて、立て続けに杭打つ。淫らな内壁が、まるで士郎を逃すまいと、もっと更なる刺激を与えて欲しいといわんばかりに盛んに絡んでくる。
 粘膜が収縮し、飲み込んだ屹立を締め付けると、揺さぶりと共に、一番アーチャーが感じる場所に欲望が突き立てられる、熱い刺激となって返ってきた。
「ひッ、あ、ああ……、う、ん……!!」
 アーチャーは士郎に縋ったまま、身を捩った。
 肌と肌がぶつかる感覚が短くなり、繋がりがより深くなり、士郎はアーチャーの最奥を抉るように突き上げた。
「……アーチャー!!」
「は……ッ……あ、……ああぁ……士郎!!」
 互いに名を呼び合う。総毛立った。
 熱い精が放たれる。アーチャーの中で弾けたそれは、六年ぶりに供給された魔力の渦となり、消えようと考えて魔力の吸収を極力抑えていた体に、活力を与える。それによって、アーチャーもまた頂へと押し上げられて、熱を吐き出した。褐色の身体が、白い体液に汚される。
「アッ――」
 長く尾を引く声が発せられた。泣き声のような、喘ぎ声のような、溜息のような。
 アーチャーは、自分と同じくらいに逞しくなった士郎の首筋に腕を巻きつけて、繋がったままの身を寄せた。体に満ちた熱い余韻は、こうしてぴったりと寄り添っていると互いの間を行き来して、なかなか冷めない。
 士郎の息が、アーチャーの首筋にかかる。アーチャーを抱き締めたまま、士郎は囁きかけた。
「愛してる、アーチャー」
 ぴく、とアーチャーの背が震えた。
 その、たった一言が、今やどれだけオレを捉えることが出来るのか、こいつは分かっているのだろうか。身動きも出来なくなるほどに捕まって、離れられなくなる。
 士郎にもたれかかったアーチャーは、
「え……」
 押し倒される、というにはあまりにも優しく、アーチャーは後方へと身体を横たえられた。同時に、交わりを解かれて、隘路を埋めきっていた士郎の体積が抜き出された。それを追うように、潤滑油と精液が入り混じった液体が脚を伝っていく感触にぞくりと身震いする。
「士郎……?」
 怪訝そうに、アーチャーは士郎を見る。今まで、一回で終わったことなど無かったのに、と言いたげに。士郎は、褐色の頬を撫でて笑った。
「これ以上お前を抱いてると、抑制がきかなくなりそうで、さ」
 だから、と士郎はアーチャーの上から身を起こそうとした。
 だが、士郎の腕は、褐色の手に強く掴まれた。
「……お前は、自分で言ったことを忘れたのか」
「アーチャー?」
「オレがもう死ぬというほど、愛してくれるんだろう?」
 微かに頬を染めながらそう言うアーチャーは、士郎にとってあまりにも凶悪な魅力に満ちていた。ずきん、と自制を軽々と振り切る疼きが腰に起こる。
「いいんだな、徹底的に啼かすぞ」
「……望むところだ」
 アーチャーの脚を抱え上げた。しとどに濡れきった秘所に、爛れそうな熱が触れる。
「あっ」
 小さく、艶かしい声が零れた。
 痙攣しつつも、柔らかく開かされた蕾から差し込まれた剛直を、内壁は色よい返事で歓迎する。
「あ……あ……、ふっ、ん、あ……ん……っ」
 切なげな嬌声を上げながらも、アーチャーの唇は微かな笑みを含んでいた。
 幸せだ、と言う風に。