真夏のひかり

03


 連日、今日の最高気温をニュースで聞いては、改めて暑さにうんざりする。
 もっとも、その日は、夕食も終わった宵の頃合い、遠雷の音が聞こえてきたと思ったら、あっという間に雨が降り出した。
 形容するなら、まさしく「バケツをひっくり返したように」、激しく叩きつける夏の雨、だった。この雨に当たったら、痛みを感じるのではないだろうか、と思うほどに強い。家の中に雨が吹き込んでこないように、風を呼び込むために開けてあった家中の窓を、アーチャーとセイバーは手分けして閉めて回った。士郎はまだ、遠坂邸から帰ってきていない。
「ゲリラ豪雨、というのでしたか、こういう雨を」
 夕立どころではない、熱帯雨林のスコールのように、猛烈な勢いでガラス戸を濡らす雨に、セイバーがテレビで見知ったのだろう単語を口にした。
「ああ、地球温暖化の影響とか言われるが……」
 昨今の世界中で起こる異常気象は、人間の手による地球全体の環境破壊のせいだと、警鐘を鳴らされる一方で、地球は氷河期に向かっているという学者もおり、何が正しいのかは、判然としない。
 ただ、エゴに満ちた考えであるのは充分承知の上で、それでもアーチャーは、士郎が天寿を全うするまで、この世界は平和であって欲しいと思う。大勢から、正義の味方が欲される世界は、決して幸せな世界とはいえないのだから。
 そこへ。
「おーい、アーチャーかセイバー、悪い、雑巾とタオル持ってきてくれ!」
「士郎!?」
 突如として、激しい雨音に紛れ、そんな声が玄関先から聞こえてきた。聞き間違えようもない、士郎の声だ。
 こんな雨の中を帰ってきたのかと、慌てて士郎に言われたものを用意して、アーチャーが玄関に向かうと、肩の雨粒を払っている、全身濡れ鼠の士郎が立っていた。
「お前……」
 赤銅色の髪からは、ぽとぽとと雫が落ちている。水も滴るいい男、などという冗談は、この場合、いささか寒い。いくら、士郎の顔立ちが整っているといえども。濡れた服の裾を強く握ると、布地に吸われた水が絞り出される。
「いや、参った。帰ってくる途中で、急に降り出してさ。ひどい雨だよな。跳ね返りも凄いし、傘があっても役に立たない」
 まあ、傘持ってなかったんだけどなと、士郎は脱いだ靴を逆さまにした。中に水たまりが出来ていたように、雨水がこぼれ落ちる。
「うわ、こりゃ酷い」
「シロウ、お風呂を沸かしてきますね」
「悪いな、セイバー」
 気を利かせて、セイバーが風呂場に向かう。
「こんなものは通り雨だろうに。少し待っていれば、やんだだろうが。いくら夏とはいえ、風邪でも引いたらどうする」
 アーチャーは呆れながら、手にした雑巾とタオルを士郎に渡す。豪雨でぐしょぐしょに濡れた足を雑巾で拭き、頭からタオルを掛けた士郎は、悪びれずにあっさり言った。
「仕事終わったら、少しでも早く帰りたかったんだ」
 足を丁寧に拭き終わって、わしわしとタオルに髪の水分を吸わせながら廊下に上がった士郎は、アーチャーの鋼色の双眸を真っ直ぐに見た。
「お前の顔を、見るためにさ」
「……、た、たわけ……」
 その視線から、アーチャーは逃れられない。口で悪態をついてみても、正直な意識は、士郎の琥珀色の目に釘付けにされる。
「愛してる、アーチャー」
「……っ」
 告げられて、自然に頬に朱が上った。誤魔化せるわけがないが、アーチャーは強引に話題を変えた。
「夕飯は」
「遠坂に勧められたけど、断って帰ってきた」
「まったく、お前は……」
 濡れた全身を拭きつつ、やはりあっさり言う士郎に、アーチャーは再び呆れた。一方で、そこまで想われて、嬉しい、という感情も湧き起こる。
「……用意しておいてやるから、風呂が沸いたら、入ってこい」
「ああ、サンキュ」
 風呂に入る準備をするために、士郎は自室に行った。
 外の強烈な雨音は止んでいた。これで少しは涼しくなるだろうかと、アーチャーは暗くなった窓ガラスの向こう側に目を向ける。
 冷凍保存しておこうと、あらかじめ多めに料理を作っていたことが幸いして、さほど時間をかけずに、士郎用の食事は準備できた。ちょうど、士郎がさっぱりした、と風呂から上がってくる頃合いを見計らったかのようだったのは、ある程度はアーチャーが時間を計算していたからだが、こういうところがまた、二人のことを知る周囲(主に凛など)には「新婚夫婦」と揶揄されるのである。
「士郎、出来ている」
「うん、ありがとう」
 居間に戻ってきた士郎に、アーチャーは言った。士郎は礼を述べ、胡座をかいて座った。
「いただきます」
「ああ」
 座卓の上に用意された湯気の立つ食事に、士郎が手を合わせる。士郎が食べ終わったら、食器の後片付けをするつもりで、アーチャーは自分の茶を淹れて、いつもの定位置に腰を下ろした。一人での食事も味気ないだろう、という気遣いもあった。
 他愛ない世間話など交えながら、アーチャーは士郎の食事に付き合う。
 全部綺麗に平らげると、士郎はごちそうさま、と律儀にまた手を合わせた。
「では、片付けるからな」
 と、立ち上がろうとしたところを、腕を引かれた。いきなりのことでバランスを崩して、アーチャーは後ろ向きに、士郎の膝の上に乗り上げてしまった。
「な、にを……」
 するかと、戸惑いがちに咎める前に。
「……アーチャー」
 背中から抱きしめられた。名を呼んでくる声が、果てしなく優しい。
「あ……」
 風呂上がりだという以上に、夏の暑さ以上に、士郎の体温を熱く感じる。どきり、と自分の胸が高鳴る音を、アーチャーは聞いた。
 ああ、オレは心の底から、この男のことが好きなのだと、実感する。誰よりも眩しいくらいに真っ直ぐで、誰よりも幸せになって欲しい、誰よりも自分を愛していると言ってくれる、この、男が。絶望の闇の中にいた自分に、希望の光を見せてくれた、衛宮士郎。声に出しては伝えないけれど、きっと、お前を愛してると言われるのと同じくらいに、愛している。
 士郎の腕の輪の中で、アーチャーは身をよじった。それは、拒絶するためにではなく、愛しい恋人に向き合うためだった。
「……士郎……」
 そのまま、アーチャーは、士郎の両頬に掌を当て、自分から口づける。士郎の上に座る形になっている分、アーチャーが僅かに俯く形で。士郎もまた、否やなどあろうはずも無く、アーチャーに応じる。
 軽い接触から、徐々に深まる結合。重ね合わせた唇の熱に、少しずつ溶かされていく。
 歯と歯の間から互いの舌を絡め取り、吸い合う。口内を舐め、唾液を交換する。
「っん……」
 微かな声をアーチャーが漏らし、ぴくりと背を震わせて士郎にしがみつく。士郎はそんなアーチャーを強く抱きしめながら、息継ぎを繰り返して深く強い接吻を続けた。
 ぞろり、と体内に蠢く衝動が、それにつれて激しくなる。士郎との行為の度にアーチャーを忘我へと押し流して溺れさせる奔流が、勢いを上げて全身に広がる。
 その名を、欲情という。
 背筋を這い上がる官能に、アーチャーは陶然と身を委ねる。士郎以外、他の誰にも感じることのない、恍惚だった。
 膝が砕けそうだ。無我夢中で、アーチャーは味わうように士郎と唇を重ね続けた。
「ふ……ぁ、……は……っ」
 歯列をなぞり、舌の裏側を掬い、ひたすら粘膜を貪る。
 充分以上に唇を堪能し、目を見交わして浅い息をついて離すと、銀の糸が名残惜しげに二人の間を繋いだ。
「アーチャー」
 呼ばれる。士郎の意図は明らかで、また、アーチャーも全く同じことを考えていた。
 士郎は、アーチャーを抱きたい。アーチャーは、士郎に抱かれたい。お前が欲しい、と。心身で感じる、渇望だった。アーチャーは頷いた。
「後片付けが、……済んだら」
 それでも、律儀な性質のために、何もかも放り出してこのまま交歓に耽るわけにはいかないと口にすると、士郎も当然のように承諾する。
「……ああ、俺の部屋に」
 音を立てて褐色の頬にキスをし、士郎はアーチャーを一時的に解放した。
 逸りそうになる気持ちを抑えて、食器を下げ、手早く洗い物を済ませたアーチャーは、士郎の後を追って部屋に向かう。
 入り口の障子を開けると、アーチャーは、待っていた、と言わんばかりに士郎に抱き寄せられ、中へ迎え入れられた。
 それから、二人して延べられた布団の上にもつれ倒れる。何度も何度も口づけをしながら、服を、下着を脱がし合う。その際の衣擦れの音さえ、情欲を煽り立てた。
 唇を食み合わせ、愛してる、という言葉を直接口の中に流し込まれる。
 生まれたままの姿で、暫しじゃれ合うようにして、抱き合う。素肌をついばみ、脚を絡ませ、戯れに掌を胸に当てると、通常よりも早い心音が伝わってくる。
 目眩く、快楽への期待に。
「士郎……」
 やがて、逞しく精悍に成長した士郎の身体に、アーチャーはついと指を滑らせた。それは、明らかな意図を持って体の輪郭を辿り、脚の付け根まで下ろされる。
「……っ、アーチャー……!」
 下方へと降りたアーチャーの手が、もう固くなっている士郎の核心部分に、そっと触れ撫でる。愛しいというように。そのまま、アーチャーは絡ませた指を、二、三度上下させる。
 既に、ほとんど勃ち上がりつつあった士郎の熱の根源は、それで完全に上向いた。
「今日は……まず、オレにさせてくれ」
 根元の辺りに手を添えたまま、アーチャーは一度熱い息を吐きかけ、士郎の分身を口に含んだ。
「は、……アー、……チャー……」
 たちまちのうちに、アーチャーの口内で体積が膨張する。それにも構わずに受け止めて、アーチャーは張り出した先端に口づけ、甘く吸った。裏筋を伝い降り、周囲をぐるりと舐め、また先に戻っては、くすぐるように舌先を遊ばせる。指で全体を擦り上げつつ、括れの部分にゆっくり舌を這わせる。
「アーチャー、……すごい、気持ちいい」
 荒い息と共に、吐き出される士郎の声。その言を証明するかのように、男として見慣れた、また、今までに数え切れないほど、アーチャーの体内に突き入れられた肉棒は、充血して血管を浮き上がらせ、どくどく脈打っていた。
 己の奉仕によって、士郎が快感を得ているのだ、そう思うと、アーチャーの口淫に一層の熱が入った。もっと、士郎を悦ばせたい。ただ愛されるだけでなく、自分でも愛したい。精神と肉体、両方での愉悦を、共に感じ合いたい。
 生前のアーチャーには、異性経験はあっても、男性経験は無かった。だが、同じ男同士、しかも、同じ衛宮(エミヤ)士郎(シロウ)同士だ。どうすれば士郎が感じてくれるかは、いつも士郎が自分にしてくれるようにすればいい。
 士郎への真情を自覚するまでは、こんなこと、考えもしなかった。アーチャーにとって、初めての男。
「ん、しろ、う……」
 一度、深く喉まで咥え込んでから、ぬるりと引き出す。
 それから一旦唇を離し、横から咥え直して唇を滑り下ろす。陰嚢まで辿り着くと、転がすように舐めた。同時に、手で袋の部分を柔らかく揉み込んだ。
 先走りの熱い液体が流れ落ちる茎をしゃぶり、棒付きの甘い飴のように舐め回す。舌で全体の形をなぞるように、余すところなく屹立を辿る。控えめに、先の割れ目をくじり、ちゅっと音を立てて吸った。
「……ふ、……ん、ん……」
 性器を頬張ったアーチャーの息が、鼻に抜けて、途切れ途切れの、やけに艶めいた音になった。まるで、自分の方が愛撫を受けているかのようだ。それがまたいたく士郎を刺激して、モノが更に大きく、硬度を増した。
「あ、……大き、く……」
 呟きが漏れる。その声は、何処か嬉しげだった。
 アーチャーは亀頭部分を咥え、唇で扱く奉仕を、激しくする。一緒にリズムでも取るように、器用な手が動いて竿の部分を擦り立てる。
 ぴちゃ、くちゅ、と淫らな音が絶え間なくアーチャーの口元からこぼれ落ちていた。
 閉じられぬ口腔に溢れる唾液が士郎の肉に絡んで、アーチャーの動きがより滑らかになる。それによって更に肉茎から腺液が溢れるのを、アーチャーは吸い上げて何度も飲み下す。魔力によって現界するサーヴァントにとっては、魔術師の精は何よりもの供給源だ。そして、それ以上に、アーチャーにとっては、士郎の―愛しい男の、体液である。これ以上の甘露、これに勝る美酒があるだろうか。
「っは……」
 舌を大きく出して、丹念に舐め上げる。頭頂の部分に纏わりつかせ、しゃぶりつくのを繰り返す。アーチャーの唾液と、士郎の腺液が口の中で混じり合い、溢れ出して、つうと褐色の顎を伝う。びくん、と士郎の性器が、本人とは意思を持つ別の生き物のように大きく動く度に、アーチャーの口唇は熱を増し、離すまいと舌を絡みつかせる。
「……アーチャー……」
 伸ばされた士郎の手が、アーチャーの白い髪に触れ、慰撫するように梳いてきた。
 交わるときは、士郎に触れられた箇所、全てがアーチャーには性感帯同様になる。アーチャーは思いもかけずに、ぞくぞくとした。士郎を昂ぶらせる一方で、自分もまた、快感に飲み込まれる。腰の辺りにわだかまる、甘い熱。
 身体が、濡れている。そこにはまだ触れられていないのに、明らかに形を変えて熱を持っていた。
 無意識に、アーチャーは太股を擦り合わせた。自分の身裡を貫くことになる陰茎に、食いつくようにむしゃぶりつき、根元から側面を撫で上げる。士郎を悦ばせるためだけでなく、自分もこれが欲しいのだと。貪欲に、士郎に奉仕を続ける。
 時折、手で胴部を握りながら、口の中に導く。アーチャーの頭が前後に動いて、髪が乱れ揺れた。
「く、ふ……っ」
 軽く歯を立て、先端を頬の内側の粘膜に強く擦りつけた。士郎が、もう完全に張り詰めきって、いつ弾けてもおかしくない破裂寸前であることは、体の強張りを見なくても分かる。これ以上はもう無理だと、そそり立って膨れ上がり、びくびく震える屹立が、アーチャーの口内でじゅぷじゅぷと濁りきった水音を立てた。
「出る、アーチャー……、……もう……!」
「……いい、から、……出して、も……」
 アーチャーは、士郎のてらついた雄の象徴を深く呑み込み、口内にすっぽりと包み込んで甘噛みして、解放を促す。口全体で吸い取るようすると、ぐっと士郎にアーチャーは頭を抑えられて、熱塊を喉の奥まで突き込まれた。
 どくん、と弾ける。叩きつけ、爆発する勢いで。
「……アーチャー!!」
 塊じみて喉めがけて迸る、大量の白濁。それを、アーチャーは音を立てて飲み込んだ。射精の間、ずっとペニスを咥え込み、喉を鳴らして、ごくり、ごくりと嚥下する。
「……う、ん……、……あ、多い……、し、……濃い……な……」
 さも美味なご馳走だったといわんばかりに、うっとりと言ったアーチャーは、大きく息をついて、士郎から口を離した。
 アーチャーの口で受け止めきれずに零れた白い液体が、褐色の肌の上に散り、流れる。その色のコントラストが、目眩がするほど、淫らな芸術じみていた。
 アーチャーは、手にしたままの士郎の男根の先に、もう一度口づけしてから顔を上げ、恋人の顔を見る。
「……士郎、悦かった、……か?」
「当たり前だろ……」
「そうか、……なら、良かった」
 アーチャーは笑う。濡れた口元に浮かべられた、扇情的であるはずの笑みは、妙に可愛らしく見えた。士郎の指が、アーチャーの唇を拭った。それから、アーチャーの両手をそっと掴む。
「じゃあ、今度は、お前が気持ちよくなる番だ」
「あっ」
「セックスは、二人でするものだから、な」
 布団の上に押し倒され、アーチャーは士郎と上下の位置を交換された。脇腹を撫でられて、首筋に唇を受ける。
 士郎は、アーチャーの耳朶を軽く噛んで、歯の先で軽く弄ぶ。耳の裏を舐め、耳殻から耳孔に舌を差し込むと、アーチャーは濡れた音が鼓膜に近く聞こえてくるのに、小さく身を竦めた。
「……っあ……」
 その間に、士郎はアーチャーの皮膚の上に指を滑らせる。互いにじっとりと汗をかいているのは、暑さではなく、熱さのためだ。
 鍛え上げられた筋肉の感触を、士郎は楽しむ。汗に濡れているせいか、褐色の肌は艶めき、仄かに輝いているようだった。
 アーチャーの筋肉質でいてしなやかな肢体は、戦うときには強靱さを発揮するが、こうして肌を重ねるときには、色気しか感じられない。特に、腰から太股、脚に繋がるなだらかな曲線など、見事すぎる美しさすら感じる。
 その体の、肩や喉、鎖骨など、上半身のあちこちに、唇を落とし。
 やんわりと厚い胸筋を揉むと、広いその胸の上で、誘うように赤みを持って、つんと尖りを見せている飾りの部分に士郎は触れた。鋭敏な、粒立った弾力のある手応えが、指に伝わってくる。
「……好きだろ、アーチャー。ここ、触られるの」
「ぁあ……っ」
 親指と人差し指との間にきゅっと摘まれて、アーチャーが背を小さく反らせる。
 指でくりくりと転がされ、口淫の影響もあり、すっかり敏感になっているアーチャーは、特に弱い箇所を弄られて、あられもなく嬌声を上げた。
「あ、ああ……、ん、あ」
「可愛いよ、俺のアーチャー……」
 アーチャーの反応を喜ぶように、士郎はなおも乳首を擦り立てる。ぷつりとしたそこを指の腹で擦ってやると、アーチャーの口から吐息が零れた。
 吐く息すらが悩ましいと、士郎は芯を持って凝り始めているそこを、軽く押し潰した。
「……っあァ……」
 潰されても、一層の赤さを増して、更に立ち上がる突起。
「ん、は……あっ」
「……アーチャー、イイ、声……」
 生前に、声帯を傷つけられた影響で、変わってしまったというアーチャーの声は、士郎よりも低い。その声が、糖度を含んだ時の艶めかしさといったら、ない。もっと、快感に喘ぐ声を聞きたくなる。
 士郎は、張り詰める突起を爪の先で軽く弾き、その刺激に喉を仰のかせるアーチャーの胸を舌でなぞってから、指で触れていない方を口に含んだ。
「あっ……や、ぁ、んっ……!」
 普段は乾いている箇所を、濡らされる。アーチャーの心臓の音が、士郎に近い。
 アーチャーのこの体は、魔力で形作られた、仮初めの肉体。けれど、そんなことは関係ないくらいに、アーチャーの肌は熱くて、心臓はとくとくと早い鼓動の音を立てている。人間とサーヴァント、衛宮士郎とエミヤシロウ。こんな関係、本当ならあり得ない。
 それが何だ。この、胸の中に抱く感情には、嘘偽りなんかない。愛してる、愛している、愛している。
 まだ柔らかさを保っている肉芽に、士郎が吸い付く。緩やかに舌で転がすと、アーチャーは首を振って、体をうねらせた。
「ぁうッ……、んあっ……」
 白い髪が、散らばる。ねっとりと舌を這わせられ、軽く歯で挟まれて、アーチャーは思わず士郎を抱きしめた。そうすると肌同士が密着して、士郎のものがアーチャーの内股に触れた。  一度、熱を吐き出した筈のそれは、また頭を擡げている。アーチャーを欲しいと、訴えるように。
乳首を吸われるもう一方で、すりすりと擦られる。苛む手は止めないまま、痛いほどに張り詰めてくるそこを、士郎が音高く吸った。
「アーチャー、……愛してる。俺の……、俺だけの、お前」
「あ、……士郎……」
 熱っぽく浮かされた鋼色の目で、アーチャーは士郎を見た。その表情は、蕩けて潤んでいる。
 士郎は、それに押されて更に乳首を唇で愛撫しつつ、じっくり味わうように舌で舐める。手の方も、休むことなく勤勉に動かし続ける。
 ちょん、と舌先で頭部を突くと、アーチャーは顕著な反応を返した。
「ああ!!」
 ぎゅう、と士郎にしがみつく手に力がこもる。
 確かに、この場所を触れられるのは気持ちが良い。もっともっと、触って欲しいと思う。しかし、これだけでは物足りないという、新たな欲求も湧いてくる。
 そんなアーチャーの様子を見て取った士郎は、突起を吸い出すように強く吸ってから、体を起こした。
 肌の上にあった愛撫が急に失われて、アーチャーは、目を瞬かせる。それも束の間のことだった。
「……っあ」
 アーチャーは、脚を大きく割り開かされ、持ち上げて士郎の肩に掲げられる。この体勢では、アーチャーの何もかもが、士郎にさらけ出されて丸見えだ。ふるふると震えて透明な液を含んだ、白い茂みの下の反り返ったアーチャー自身も、明らかに士郎を求めて蠢く、秘蕾の奥の媚肉も。通常、アーチャー自身も目にしたことのない、士郎だけが見ることの出来る所。
「……し、ろう……」
 何をされるのかアーチャーは理解して、半ば羞恥、半ば期待にわなないた。
「もっと、気持ちよくしてやるから、な」
 士郎を受け入れ、快感を覚えるようになった今では、むしろ、アーチャーの性器はこちらだろう。慎ましやかな蕾が、綻ぶ時を待って、飢えるようにひくついていた。犯されたい、と。
 ちゅ……と音を立てて周りの皮膚を吸い、穴を指で広げさせてから、士郎は舌を伸ばして中に侵入させた。
 最初は浅く、それからゆっくりと少しずつ深く。
「あああっ!」
 ぎくり、とアーチャーが背を強ばらせる。密やかに色づく、鮮やかな紅をした肉を、士郎は舐めた。すると、きゅうっと内側が締まり、アーチャーが喜びを得ている、と知らしめる。
「……っく、ふ、あ……」
 アーチャーが熱心に士郎のモノを愛撫したように、士郎もまた、一心にそこに舌を這わせた。たっぷりと唾液を注ぎ、濡らして壁を舐める。
「ひゃっ……!」
 舌の感覚が堪らないのか、アーチャーは細かく小刻みに、身を震わせた。体の熱が、どんどんと上がっていく。もっと、とせがむように、アーチャーは細く引き締まった腰を揺らした。
 士郎はそれに応え、更に紅唇の奥へと、舌をねじ込んだ。襞を伸ばすようにして、中で動かす。
「は、あぁ……、あ……あ、ああああっ……!」
 アーチャーの中は熱く、蠕動を繰り返していた。ひくつく内壁を丹念に舐める士郎に、アーチャーは絶え間ない喘ぎを聞かせる。
 いい、気持ちがいい、凄くいい。背筋をぞくぞくと、戦慄が上がっていく。本当ならば、排泄器官に過ぎないアナルを広げられて中を舐められるなど、屈辱的な行為の筈が、気持ち良くて仕方が無い。溶け出していきそうな快感が、アーチャーを支配する。
「……あ、ぁあ……ん……」
 士郎の肩の上で、開脚させられたアーチャーのつま先が、曲げられてびくびくと震えた。
 アーチャーの蕩け具合を見た士郎は、熱い秘所から舌を離して、代わりに指を差し込んだ。ここに入るためには、もっと解さなければ。
「あ」
 突き込まれた指に、媚肉が絡む。熱く狭い感触を、士郎の指に伝えてくる。
 再奥まではさすがに届かないが、アーチャーとほとんど同じ大きさになった士郎の手は、当然同じくらい指も長く、かなり奥まで入り込める。中で指を曲げると、壁を軽く擦られたアーチャーが、陸に揚げられた魚のように、跳ねた。
 士郎が、指をぐるりと回す。体内を攪拌されたアーチャーは、羽毛のような白い睫毛を震わせた。悲鳴じみた声が、甘く溶ける。
「は、……っ……う……」
「アーチャー……」
 内壁を擦りながら、指を引き出す。抜かないで、と言わんばかりに肉がきゅうきゅう締め付けてくるのを、また中に押し込む。入り口に指先を引っかけるようにして、抽挿を繰り返した。
 最初は緩かった動きが、徐々に大胆になる。つられて、アーチャーの腰も動く。
「や、……いい……」
 士郎に指で秘部を愛されて、アーチャーが感じている、という証左に、中心部には触れられていないのに、それは天を向いて、鈴口から淫液が零れていた。陰茎を伝い、尻にまで流れる。
「やらしい、アーチャー。……でも、凄い、……可愛いし、綺麗だ」
「し、ろ、う……」
 ぬるりと指を引き抜いた士郎は、アーチャー自身のぬめりを掬い取る。その潤滑を得て、再び秘口に指を差し込んだ。今度は、二本同時にだった。
「っああああ! あ、は……!」
 二本の指をばらばらに動かして、士郎は内側を捏ね、入り込んでぐちゃぐちゃに乱す。体内に貯蓄される一方の快感は熱い息を吐いても逃がしきれず、内側からアーチャーを焦がしていくばかりだった。
 こり、と士郎の指が引っかかる箇所に触れる。アーチャーが、鋼と同じ色の目を見開いた。そこは、アーチャーの最もイイ場所だと、士郎は知っていた。炸裂する強烈な官能に、アーチャーの全身が甘く痺れる。
「あ、ん、あ、や、そこ……いいっ! あ、ああっ、いい、いいから……もっと……!!」
 士郎の鼓膜まで毒するような艶声を上げて、アーチャーは身悶えした。淫らな声と共に、口元から赤い舌を閃かせる。生理的な涙が瞳の端から零れて、流れた。そこへ、士郎はもう一本指を増やし、少し力を加えて、アーチャーが快楽を訴える場所に置く。
 凄まじいほど愉悦に狂うアーチャーの痴態に、士郎も興奮の度合いを高める。呼吸は荒く、下半身に熱が溜まっていく。
「……ああああああああ――!!」
 三本の指で、一番感じるところを抉るように擦られたアーチャーは、ぶるっと一際大きく震えて、精を放つ。その様は、明らかに彼が達した状態であることを伝えた。
「ん……」
 ため息をついて、弛緩した体をアーチャーは布団の上に投げ出した。だが、上から士郎に覗き込まれるまでもなく、分かっていた。今までの快楽は、まだまだ前戯でしかないことを。
 ついさっきまで、アーチャーを狂喜させていた士郎の指は、既に抜かれている。
 アーチャーは、士郎の股間に目をやった。
 先ほどからの、アーチャーの体の感触と嬌態に、士郎の昂ぶりは、完全に強さと力を取り戻していた。それを見ると、アーチャーは、もっと強い刺激を欲して、自分の中の疼きがずくん、と大きくなるのを感じた。
 アーチャーは、手を伸ばした。火照った体を持て余すように、そそり立って脈打つ士郎の欲望を、自ら手に取って秘所まで引き寄せて導く。
 散々に濡らされて開かれた、アーチャーの下の口は、今にも挿入を待ちわびて、開閉を繰り返している。
 士郎無しではいられないこの体の熱さを、士郎自身で貫いて埋めて、絶頂まで連れて行って欲しい。士郎と繋がって、一緒に、法悦の極みを得たい。
 サーヴァントには魔術師の精が有用、など、そんな理由では無く、ただ、士郎と、もっともっと気持ち良くなりたい。それは、士郎でなければ、意味が無い、満たされない。
 好き、だから。愛、しているから。
 士郎だって、きっと。そうでなければ、性器を、またこんなに大きくしているわけがない。
「……アーチャー」
 しかし、士郎は、アーチャーの求めている箇所ではなく、手に熱を、擦りつける。それで、アーチャーの飢餓感がどうしようもなく煽られた。
 ほとんど飛びかかっている理性の欠片が、こういう時に士郎がいつも言わせたがる言葉を、かろうじてアーチャーに思い出させた。
「士郎、士郎、入れて、くれ……! お前の……これ、ここに……欲しっ……い!!」
 ほとんど哀願するように、アーチャーは叫んでいた。
「ああ……」
 士郎が笑う。アーチャーとの性交の時にだけ見せる、獰猛に全てを食らい尽くす、貪欲な牡の笑いだった。アーチャーの艶冶さを士郎だけが知っているように、士郎のこんな表情も、アーチャーだけが知っていた。
「お前は丸ごと、俺のもの。……俺も、お前のものだ、アーチャー」
 士郎は、綺麗に筋の張った、アーチャーの脚の間にぐい、と身を進めた。勃起した士郎の男根に添えられていたアーチャーの手を取って、指を絡める。
 目と目が合う。
「挿れる、……ぞ」
「……士郎っ……」
 肉の先端が、アーチャーの秘所をみちみちとかき分ける。包み込むように歓迎してきたそこに、士郎の肉棒が埋め込まれていく。あまりにも身に覚えのありすぎる硬度、太さ、形――それが、アーチャーの中に押し入ってくる。
 真っ赤に充血した蕾は熱に爛れ捲れて、鮮やかな花弁を見せつけた。
「あ、……ぐっ……」
 ただ、これだけはどうやっても避けられない、狭いところを限界までこじ開けられる痛みに、アーチャーがぎゅっと目を瞑り顔を顰める。
「……アーチャー、辛かったら、俺の背中に、爪、立ててもいいんだぞ」
 その苦痛を少しでも和らげようと、士郎は耳元で囁く。しかし、アーチャーはそれは嫌だ、と首を振った。
「……そんなこと、したら、……お前に、穴が、開いてしまう……」
 自分の辛さをよそに、恋人の身の方を案じるアーチャーが、いじらしい。だから、痛みをなるべく長引かせないようにと、士郎はアーチャーの様子を見ながら、慎重に挿入を続ける。自身のものが、アーチャーを傷つける、凶器にならないように。
 アーチャーは力を抜いて、士郎に全てを委ねている。この、内臓を押し出されるような圧迫感は、士郎と一つになるためにどうしても必要なことだと、分かっている。それに、初めてではないのだから、士郎への順応に努める。男としての矜持など、ねじ曲げてしまっても構わない。己が唯一人のみと選んだ相手と求め合う幸せは、それほどに得難く愛しいものだからだ。
 とろとろに蕩かされた蕾でも、最も膨れ上がった雄芯の先端には、ぎちりと軋む。それでも、異物を押し返す動きはなかった。アーチャーが、意識して体を開いているのだ。
 アーチャーの体内が、士郎のものに密着する。鬩ぎ合う肉壁が、士郎に鋭い快感を与えてきた。
 ずずず……と音を立てて、士郎の杭がアーチャーの中に沈んでいく。
「ああっ……士郎……!」
 腰がずり上がりそうになるから、アーチャーは士郎に自分の脚をしっかりと絡めた。士郎が腰を進める動きに合わせて、息をは、は、と短く吐く。
「あ、は――」
 浮いたアーチャーの背を追いかけるように、体重をかけられた更なる突き上げが来た。
 痛みを快感にすり替えようと、アーチャーは切れ切れに喘いだ。合わせた肌が、士郎の温みを伝えてくるのに、少し安心する。
 受け入れる、このまま、士郎を。抱かれて、隙間無く中を士郎の肉棒で埋めて、満たして。
「アーチャー……、お前の、中、……最高だ」
半分ほどアーチャーに入れた士郎は、熱い声で言った。
「熱くて、よく締まって……」
「ん、ぅ、士郎……」
 アーチャーの中はきついが、士郎に痛みは与えず、やわやわと蠢く内壁が溶けそうに熱くて、気持ちが良い。外側は鍛え抜かれた筋肉に覆われていて硬いのに、何て対照的な。心地よさを味わいながら、士郎は結合を深める。
 士郎が動く度に、固い楔が、アーチャーの身体に士郎を縫い付けていく。
次第に、アーチャーの呼吸が落ち着いてきた。苦痛の色は和らいで、少しずつ恍惚とした表情が浮かび始める。粘膜同士が擦れ合って、その愉悦に、アーチャーの中で士郎の剥き出しの欲望が育つ。
「あっ……、士郎、の、大きいっ……!」
 ひく、とアーチャーが喉を震わせ、重ね合わせた手に力を入れた。
 灼熱が、腹の中を突き進んでくる。腰を一杯に占拠しながら、ずぶずぶと深く、士郎がアーチャーの内部へと埋没していく。
 やがて、奥まで到達した。
 最大の苦役を終えたと、アーチャーは固く閉じていた瞼を開いた。瞳に映ったのは、顔を赤く上気させながらも、優しく自分を見ている、士郎の顔だった。
「アーチャー、……愛してる」
 士郎が、アーチャーの乱れた髪を撫でる。
「……士郎」
 手を伸ばして、アーチャーは士郎の首筋に顔を埋めた。士郎も、アーチャーの背を抱き留める。ぴったりと、これ以上ないくらいに士郎に身体を寄せたアーチャーは、少しかすれた声で言った。
「もう少し、……このまま、で」
「ああ」
 士郎が笑う気配が、アーチャーに伝わった。
 そのまま、暫く抱き合う。そうすると、少しずれていた鼓動の音が溶けて、一つになっていくようだった。遠い日に失った赤銅色に、アーチャーは指を絡めた。硬すぎず柔らかすぎずの士郎の髪は、身体の熱に関係なくて、少し冷たい。
 満たされたまま抱きしめられているのは、快楽とは違う、甘い感覚だった。幸せだ、とアーチャーは心から感じる。士郎の体温に包まれて、安らぐ。
 士郎の溜息が、耳元で聞こえた。士郎も、同じように感じてくれているのだろうか。
 それとも――。
「士郎」
 呼んでみた。何だ、と応える声音が、僅かに熱に荒れた風に聞こえた。士郎に堪えさせるのは、アーチャーの本意では無い。それに、愛しい相手に心底から希求されるのだって、幸せだ。
「動いて……いい」
 膝で士郎を挟んだまま、アーチャーは内股を腰骨の辺りに擦りつける。問いかけてくる士郎が、微かに息を呑んだ。
「いいんだ、……な」
 確認に、頷きを返した。
 止まっていた士郎の身体が、動き出す。腰が引かれて、アーチャーの中に収まっていた性器が、半ばほど抜き出される。そのまま、ぐっと再度深く貫かれた。
「ん、はぁっ……、や、あ……!」
 アーチャーの内部は一切の抵抗なく、士郎の抽挿を受け入れる。熱い肉茎が前後に動き、相変わらず絡みつくアーチャーの内壁の襞に突き立てられる。
「いい、士郎、凄く――いい」
 アーチャーは喘ぐ。まだ、上がる身体の熱。
 突き入れては引かれ、また穿たれる。アーチャーの熱い媚肉は、収縮して士郎の性器を喜んでもてなした。
 より、雄の欲望を、それは刺激した。
「……アーチャー……!」
 士郎の手が、アーチャーの腰を掴む。
「ア―はあ、あっ!!」
 最奥まで、一気に士郎はアーチャーの中に突き入れる。ずんっ、という重い衝撃に、アーチャーの体が弓なりにしなった。
「あ、……奥っ、士郎……!」
 そのままぐりぐりと奥を攻められて、悲鳴じみた声をアーチャーが上げる。そして、強く士郎を締め付けた。
「っ……!」
 士郎は、返されてきた反応に、歯を食いしばる。それほどの強烈な快感だった。
 それで、互いに箍が外れる。
「し、ろう、士郎! 士郎、士郎、士郎!!」
「アーチャー、……アーチャー、アーチャー……!!」
 アーチャーの身体にぶつかるように、士郎が激しく動く。予想もしなかった奥深くを連続して突かれ、アーチャーは苦痛に至るほどの快楽を必死に受け止めた。
「あッ!! あ、は、あぁ、ああ……あああっ!」
 快感に応じ、絞り込むように締まるアーチャーの内部を、士郎は開くように打ち付ける。
 肌同士が音を立て合う。絶頂に向かい、緩急をつけて叩きつけられる。硬く熱い性器全体で擦られ、抜き差しされてはまた奥まで突き上げられる。
 誤魔化しの一切無い、真っ正直な求愛に、アーチャーは脳髄を蕩かされそうだった。
「あ、……んッ! ……あ、は、あ、や、あ……!」
ぐいと引き寄せられ、深く入ったまま揺すられて、抉るように突かれる。もはや区別さえ判然としないほど溶けた下肢を、士郎は思う存分かき混ぜる。アーチャーの良い場所を、狙って抉る。
 アーチャーは声高く啼く。熱と快感に意識を犯され、士郎のこと以外、何も考えられない。
「ひ……ぁ! あぁ……、ん、は……!」
 きつすぎる快楽。目の前が明滅する。四肢が砕け散ってしまいそうな快感に叩き落とされたアーチャーは、激しく悶えて喘いだ。
強い波が襲い来る。それに、アーチャーは何もかも持って行かれる。がくがく震える身体、ひくつく奥を強く抉られ、高みへと押し上げられる。
「ア――!!」
 一際強く、深く抉られて、体内に感じる熱い奔流。大量に流し込まれてくる灼熱。それを一滴残らず搾り取るように、アーチャーの入り口と内部がきつく収斂する。極まった啼き声を上げて、アーチャー自身も逐情した。
 あまりもの快楽に朦朧としそうな意識の中、士郎が愛してる、と言う声だけは、はっきりとアーチャーの耳に届いた。


 何度も何度も交わり、疲れ切った身体を、二人して布団の上に横たえる。行為の真っ最中にはあまり感じなかった暑さを、じんわりと感じる。
 それでも、士郎もアーチャーも、握った手を離そうとはしなかった。
そうしていると、安らぐから。
「なあ、アーチャー」
 呼ばれて、視線だけでアーチャーは士郎を見た。
「今度さ、遠坂が夏休みくれるって言うから、旅行でも行かないか」
「旅行、……か」
 悪くないな、とアーチャーは返す。
「何処行きたいか、考えておいてくれよ」
 そう言って、士郎は笑った。
 ああ、本当に、士郎は、アーチャーにとって真夏の光。何処までも強く、何処までも明るく、何処までも烈しく、……何処までも眩しい。
 この光が傍にある限り、アーチャーは二度と、絶望しないだろう。
「じゃ、……もう、寝ようか」
「……ああ」
 士郎の体温を隣に感じながら、アーチャーは目蓋を閉ざす。その唇には、微笑の形が刻まれていた。
 それは、紛れもない、幸せの証だった。

真夏のひかり : Fin.