ロケットパーンチ! マジンガーZ対暗黒大将軍アトミックパーンチ!


〓 〓◇1974年7月25日公開◇〓 〓
■STAFF■
 ○製作/登石雋一 ○脚本/高久 進 ○演出/西沢信孝 ○作画監督/角田紘一 ○美術監督/辻 忠直
 ○企画/有賀 健、旗野義文 ○音楽/渡辺宙明 ○主題歌「空飛ぶマジンガーZ」「グレートマジンガー」歌/水木一郎

■CAST■
 ○兜 甲児/石丸博也 ○剣 鉄也/田中亮一 ○弓さやか/江川菜子 ○兜シロー/沢田和子 ○ボス/大竹 宏
 ○弓弦之助/八奈見乗児 ○暗黒大将軍/小林清志 ○兜 剣造/大塚周夫 ○ゴーゴン大公/加藤 修
‡‡STORY‡‡
 その夏、ボス、ムチャ、ヌケの三人組は、海辺で遊んでいた。突然の雷雨に見舞われる中、彼らは、雷に照らし出される崖の上に、謎のロボットの姿を見る。落雷に気絶した三人が目を醒ますと、折れた廃船の舳先に、白髪をなびかせた人物が立っていた。その人物は、「この世の終わりを告げる預言者」とボス達に告げた。「間もなくこの世の終わりが来る。墓場から死者が甦り、全世界に不幸を撒き散らすであろう」

 そして、預言者の言葉どおり、世界各地の都市が巨大ロボットに襲われる。ロンドン、パリ、ニューヨーク、モスクワ……。壊滅的な大打撃を受ける各都市。ボスの言葉を信じなかった甲児たちだが、その報がもたらされ、次の標的が東京だと推測し、甲児はマジンガーZで出撃する。光子力研究所の上空をかすめ、東京に現れたロボット軍団の前に、立ち塞がる鉄の城、マジンガーZ。

 しかし、この正体不明の敵たちは、機械獣に似て、機械獣よりも遥かに強かった。ジェットスクランダーの翼を溶かし、超合金Zで固めたマジンガーのボディーを傷つけていく敵達。苦戦するマジンガー。

 一方、光子力研究所も敵の攻撃を受けていた。さやかがダイアナンAで迎え撃つが、歯が立たない。破壊されていく光子力研究所。避難する途中で、兄甲児への誕生日プレゼントを置き忘れてきたことに気付いたシローは、プレゼントを取りに戻り、崩れてきた瓦礫の下敷きになってしまう。

 辛うじて、敵を倒して帰還した甲児は、シローの命を助けるため、自分の血を輸血することを申し出る。かつてないほどに傷ついたマジンガーZ、廃墟と化した光子力研究所。そこに、再び預言者が現れる。預言者は、マジンガーZの前に現れた敵は、ミケーネ帝国の暗黒大将軍、彼の率いる七つの軍団の戦闘獣だと言う。「暗黒大将軍が世界を征服するとき、天と地は暗く、マジンガーZは死の苦しみを味わうに違いない」と預言者は言い残して消える。

 滅亡したはずの古代ミケーネ人は、地下に逃げ延び、生き続けていたのだ。再び、太陽の光を取り戻すために、暗黒大将軍は獣魔将軍に命じ、地上への総進撃を開始する。

 その知らせを受けた甲児は、マジンガーが修理が済んでいない上に、大量の輸血をして君の体は弱っている、今出撃したら死ぬ、と止める弓教授を振り切る。「戦って、戦って、それでも敵わないときは、マジンガーZと共に死ぬだけです!」マジンガーと共に死ぬ覚悟を固める甲児に、さやかはシローからのプレゼントを渡す。オルゴールを受け取り、傷だらけのマジンガーZで甲児は出撃する。

 必死に戦うマジンガーZ。しかし、恐るべき戦闘獣軍団は、マジンガーZを完膚なきまでに叩きのめし、破壊していく。マジンガーのあらゆる武器が、まるで歯が立たない。翼を折られ、片目を潰され、放熱板を溶かされ、アイアンカッターを砕かれ、装甲を傷つけられ、ジェットパイルダーの風防を割られ、身体を串刺しにされ、満身創痍のマジンガーは、遂に追い詰められる。

 その時、預言者が遂に正体を現した。「マジンガーZが倒れる。見殺しには出来ん。ブレーンコンドル!」それは、マジンガーZの開発者・兜十蔵博士の息子、死んだはずの甲児の父、兜剣造の姿だった。「剣鉄也、時は来た! グレートマジンガーを出動させ、暗黒大将軍の七つの軍団を叩き潰せ!」
 飛び立つブレーンコンドル、「マジーンゴー! ファイヤー・オン!! スクランブル・ダーッシュ!!」ボス達が見た謎のロボットこそ、剣造博士が、ミケーネ帝国に対抗するために密かに開発していた、グレートマジンガーだった!

 今まさにマジンガーZに止めを刺さんとする戦闘獣の前に、偉大なる魔神グレートマジンガーは、雷鳴と共に現れた。「サンダーブレーク!!」圧倒的な強さと武器で、次々と戦闘獣を屠っていくグレートマジンガー。甲児もまた、マジンガーZの最後の力を振り絞って、グレートマジンガーから投げ渡されたマジンガーブレードを手に、戦闘獣と戦う。
 マジンガーZとグレートマジンガーは力を合わせて、ブレストファイヤーとブレストバーンで、獣魔将軍を葬り去る。

 鉄也は、自分のロボットはグレートマジンガーだと言い、甲児にマジンガーZの兄弟だと語る。多くを語らぬまま、グレートマジンガーは去って行く。
 衝撃と震撼のヒーロー交代劇。この映画は、それに尽きる。一言で終わらせてどうする。しかし、この一言に凝縮されているのだ、実際。

 見るも無惨、ボロボロに破壊されていく、無敵のはずのマジンガーZ。また、このマジンガーの破壊されっぷりの凄まじいこと。本当に、容赦なくマジンガーがボロボロにされるのである。当時の「子供達」のトラウマになるほど。そして、弟の命を救うために大量の輸血をし、弱った体の甲児くん。「今度こそ、出撃するのが怖い」と弱音を吐きつつ、それでも傷ついたマジンガーで出撃する。次々と襲い掛かってくる戦闘獣、追い詰められたマジンガーZ、絶体絶命のピンチ! それだけに、そのマジンガーの危機に颯爽と現れる、「偉大な勇者」グレートマジンガーのケレン味たっぷりのカッコ良さといったら!

 やや形を変えてはいるが、『スーパーロボット大戦α』でも、このエピソードが挿入されている。が、是非、「本物」を味わっていただきたい。ちなみに、戦闘獣ダンテとTV版の鉄也の声が同じ云々、などとロボット図鑑で書かれていたりするが、この映画に限っては、『デビルマン』で不動明を演じた田中亮一氏が、鉄也の声を担当しているのである。野田鉄也と一味違う、田中鉄也、ちょっと熱血風味が強い気がします(笑)。後、それとなく若々……(以下、検閲削除)(野田氏の声がおっさんくさいと言うわけではないです念のため)。で、また、鉄也がデビルマンと同じ台詞「また会おうぜ」と言い残して去っていくあたり、深い(んなわけねーだろ)(ちなみに、『デビルマン』最終回の敵、妖獣ゴッドの声を当てていたのが野田圭一氏、これも深いとか言ってみたりして)。ちなみに、暗黒大将軍、所長こと兜剣造博士の声もTVとは違う。TVでは暗黒大将軍は緒方賢一氏、兜博士は柴田秀勝氏が担当。

 しかし、『マジンガーZ』最終回「デスマッチ!! 甦れ我等のマジンガーZ!!」は1974年9月1日、『グレートマジンガー』第一話「大空の勇者グレート・マジンガー」は1974年9月8日放映で、この映画は一ヵ月半もテレビに先駆けた内容になってるわけで。何ちゅうか、そのある意味、素晴らしい思いっきりの良さには「凄え」と感服。


 勿論、ロボットアクションだけではない、人間のドラマも実に濃密。
 甲児くんの誕生日が7月25日、というのは、この映画が公開されたのが7月25日で、「今日は甲児くんの誕生日でしょ」というさやかさんの台詞のためらしいが。
 テレビ14話で、自分の誕生日には何もくれなかったお兄ちゃん(苦笑)のため、プレゼントを渡そうとするシローちゃん。そのために大怪我をして、生死の境をさまよう羽目に。甲児くんの血液型は、『グレンダイザー』で実はAB型だと判明するのだが、ともかく、シローちゃんと甲児くんは血液型が同じなので、大量の輸血をする。
 マジンガーはかつてないほどに傷つき、甲児くんが初めて感じる「死」への恐怖。おじいさんとお父さんの写真に語りかける、この独白が、また泣かせるんですよ。「お父さん、おじいさん。暗黒大将軍の七つの軍団が、いよいよ攻めて来ました。それも、マジンガーZは傷ついています。しかし、このままじっとしているわけにはいきません。マジンガーZは暗黒大将軍の野望を打ち砕くため、出撃しなければならない……。……正直言って、出撃することが怖い……! でも僕は、マジンガーZと共に、命をかけます。生死の間をさまようシローを残して、わがままを、……許してください」
 弓教授の制止を振り切って出撃する甲児くん、そして甲児くんの決意が分かるだけに、何も言えないで涙を流すさやかさん。ここの盛り上がり、もう、見ているこっちも涙涙、である(そういや、シナリオと絵コンテでは、甲児くんとさやかさんのキスシーンがあったそうだが、実際の画面ではオミット。勿体無い!)。

 そんなシリアスなドラマ展開を和らげてくれるのが、ボス。冒頭でも泳ごうよ、と誘うムチャとヌケに、赤フン着用で「こんでーしょんが悪いんだよ、こんでーしょんが!」と言ったり、バルコニーで踊る甲児くん達を尻目に、「この暑いのに踊るアホウの気が知れないわよ」とか、何だかおっさんくさいですが(笑)。
 前作『マジンガーZ対デビルマン』は、二大ヒーローの共演、新たなる武器の登場、とイベント性の強い、陽性の物語だったわけで、必ずしもお笑いを挿入する必要は無かった。“お祭り”だったんだから。しかし、今回の『マジンガーZ対暗黒大将軍』は違う。

 未知の新しいヒーロー・グレートマジンガーの登場とは、とりもなおさず我らがマジンガーZの退場を意味する。それまで、(苦戦はしても)無敵のヒーローだったマジンガーZが、謎の敵達にボロボロにされていく。そのため、その謎の敵を次々に粉砕していくグレートマジンガーの強さというのは、とてつもなく著しく際立つわけだ。そんなわけで、グレートは登場時から「完璧すぎた」という物語上の弱点を持つのだが、これはこれで別の話。
 そういう“ショック”を中和する、物語の緩衝材としての、ボスの存在は大きい。予言どおりに空飛んで、甲児くんも助けたしね。……預言者の言った「弾丸となって空を飛ぶだろう」はどっちのことだったんだろう……。
 それにしても、ダンテ、ボスのそのロケット突撃でホントにやられるとは……(苦笑)。「え? あれ? マジでやられちゃったのダンテ?」って思わず目を凝らしてしまったよ!

 ここで描かれている物語は、終末の物語である。オイルショックを始めとする情勢不安定、何処となく忍び寄ってくる終末観。21世紀となった今でこそ、『ノストラダムスの大予言』など笑い事で済むが、小学生くらいの時に、この手の本を読んで怖い思いをしたことはないですか皆さん?(私の前後世代限定。ちなみに年は聞いちゃ駄目)
 そして訪れる、マジンガーZの最期。預言者に扮した、死んだと思われていた兜剣造博士の登場も相俟って、まさに「この世の終わり!」な雰囲気がむんむん(嫌な表現するな)。そこに、救世主たるグレートマジンガーが現れる。これは正に“奇跡”の物語だ。


 絵的には。
 やはり、遠慮なくボロボロにされていくマジンガーZの描写が凄い。もう、「ここまでやるか!」ってぐらい徹底的。装甲が傷付けられ、骨組みが剥きだしになり、原型を留めないくらいに破壊されていくのだから。そして、ジェットパイルダーの風防が叩き割られたことで、もろに電撃のダメージを食らう甲児くん……。

 その分というか、火山の噴火と共に火口から飛び出したブレーンコンドルが、広い画面を横切って飛び、鉄也の「マジーンゴー!」の声に海から俯瞰からあおりでせり出してくるグレートマジンガー、ファイヤーオンでドッキング、の一連のグレートの“お目見えシーン”の、カッコイイこと! そして、何と言ってもグレートを象徴する「雷」と共にマジンガーZの前に現れる姿といったら、文句なしの勇壮さである。
 で、マジンガーがまるで歯が立たなかった戦闘獣が、いともあっさりグレートに倒されていくのが、いっそ清清しい。特に印象的だったのは、バルマンが指先から発射したミサイル手裏剣を、左掌で弾き返すところ。あれだけで、グレートの「強さ」が十二分に表現されてたんじゃないでしょうかと、個人的には。そんでまた、サンダーブレークに始まって、ネーブルミサイル、アトミックパンチ、グレートブーメラン、グレートタイフーン、ブレストバーン、ありとあらゆる必殺技を惜しげもなく披露してくれるのも凄いですな。
 そういや、鉄也の顔というか容貌をはっきりとは見せてないところなんかも、心憎い。

 顔……といやあ、『マジンガーZ』本編において、キャラクター設計を手がけた羽根章悦氏は、19話を最後にシリーズを離れ、以降は森下圭介氏が作画の中心になるわけだが。その流れで、森下氏が『グレート』を手がけるわけだが。
 森下氏は、羽根氏よりも、まあその、「ごつい」絵を描かれるので、この映画の甲児くんも、初期甲児くん、あるいは同じ角田紘一氏が作画監督を手がけた前作の映画『マジンガーZ対デビルマン』と比較しても、ごついですな、顔(主に鼻周り)……。頭身も上がってるし。さやかさんは、主に奥山玲子氏の担当だろうか、全体的に可愛いと言うよりも美人だー。

 それにしても。戦闘獣は、古代ミケーネ人の魂が封じ込められている設定、ということで外見的には機械というイメージよりも、生体的。ぶっちゃけ、どっちかっていうとデーモンのようだ。暗黒大将軍がゴーゴン大公に「見よ!」って言ってるところで、ナチュラルに「これって、デーモン族の群れ……?」と思ったし。生体部分がやられると、アウトになるせいもあるかも。


 小道具としてのオルゴールの使い方、「上手いなあ」と。シローちゃんがこれを取りに戻ったために重傷を負い、マジンガーが串刺しにされた時に微かに鳴り響き、グレートのサンダーブレークで倒された戦闘獣が爆発した閃光を蓋の鏡が反射して、その光で気を失っていた甲児くんが意識を取り戻す……。
 ちゃんと「意味のある」小道具の使い方がされているのが、単純に素晴らしいです。


 前作『マジンガーZ対デビルマン』が、実写出身の勝間田具治氏らしい、実写を意識した画面作りだったとすると、この『マジンガーZ対暗黒大将軍』の西沢信孝氏は、アニメ映画らしいケレン味たっぷりの画面作りである。戦闘獣達が世界の各都市を破壊している間、都市と都市の画面切り替えに使われる、響く低いドラム音とミラーボールの中に閉じ込められたような中で、動く単色の人影。このセンス! これ、青い方が甲児くんで、ピンクの方がさやかさんなんだけど、破壊されていく世界の都市と、何も知らない甲児くん達、との対比が。


 この映画、勿論最大の「売り」はマジンガーZ→グレートマジンガー、へのヒーロー交代劇ではあるが。主役はタイトル通り、あくまでもマジンガーZ。グレート登場まで、散々いたぶられていたマジンガーも、最後は決める。
 グレートタイフーンによって、自らの吐き出した炎を逆に浴び、火達磨になった獣魔将軍が落下してくるところに、マジンガーブレードを掲げているマジンガーZなんて、カッコイイじゃないですか。そして、片方だけ残された放熱板で、グレートのブレストバーンと共にブレストファイヤー!


 こうして、傷ついたヒーローは、遠からずテレビからも去ることを暗に予告する。新しいヒーローは決して多くを語らぬまま、次なる新たな敵・暗黒大将軍との戦いが始まり、その戦いは自分が代わることを言外に告げる。あまりにも「燃える」展開での、鮮烈な退場とデビュー。あえて繰り返すが、これはまさに“奇跡の物語”である。


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