ジェットスクランダー装着マジンガーZ マジンガーZ対デビルマンデビルマン


〓 〓◇1973年7月18日公開◇〓 〓
■STAFF■
 ○製作/登石雋一 ○脚本/高久 進 ○演出/勝間田具治 ○作画監督/角田紘一 ○美術監督/浦田又治
 ○企画/有賀 健、勝田稔男 ○音楽/渡辺宙明、三沢 郷 ○主題歌「空飛ぶマジンガーZ」歌/水木一郎

■CAST■
 ○兜 甲児/石丸博也 ○不動 明・デビルマン/田中亮一 ○弓さやか/松島みのり ○兜シロー/沢田和子
 ○Dr.ヘル/富田耕生 ○あしゅら男爵/柴田秀勝・北浜晴子 ○魔将軍ザンニン/小林清志 ○妖獣シレーヌ/里見京子
‡‡STORY‡‡
 今日も、世界で唯一の光子力研究所を狙ったDr.ヘルの機械獣と、マジンガーZの激闘が繰り返されていた。空飛ぶ機械獣に苦戦しながらも、機械獣軍団を全て退けた甲児とさやかは、地の底から響く不吉な笑い声を耳にする。

 それは、復活を遂げたデーモン族の妖獣・マダムシレーヌの哄笑だった。街を襲い、飛び去るシレーヌ。バイクで街を走行中、シレーヌの姿を見た不動明は、デビルマンに変身し、その後を追う。

 Dr.ヘルは、あしゅら男爵の報告により、デーモン族実在の事実を知る。飛行要塞ナバローンで、デーモン族の故郷ヒマラヤに向かうDr.ヘル。機械獣マントスK9を使い、デーモン族を氷から掘り起こし、テレパシー装置を打ち込んで、Dr.ヘルはザンニン、シレーヌ、ブゴ、の妖獣達を支配下に置く。その様子を、デビルマンが影から窺っていた。

 光子力研究所に帰還する途中の甲児たちの前に、明が現れ、「これが音に聞こえたマジンガーZかい。まるで独活の大木だぜ」「何だと!」「その心は、形ばかり大きくて何の役にも立たない! ハッハッハッハッ!」と、甲児を挑発。マジンガーを馬鹿にされて怒った甲児は、明とバイクで勝負をすることに。

 激しい勝負の末に、二人は互いの実力を認め合うが、明はマジンガーへの言葉は取り消さないと言う。「マジンガーZは空からの敵には弱い。俺なら、マジンガーZを空から攻めるね」そう言い置いて、明は走り去る。

 明の言葉が耳に残る甲児に、弓教授がマジンガーZの翼・ジェットスクランダーの完成を告げる。遂にマジンガーが空を飛ぶ! 喜ぶ甲児だったが、研究所に潜んでいた妖獣ブゴにより、その事実がヘルに報告される。スクランダーを破壊するよう、デーモンに指示するヘル。

 その夜。シレーヌが研究所を襲い、スクランダーを壊す。爆破こそされなかったものの、甲児たちはブゴに襲われ、成す術もなくさやかとシローをシレーヌに拉致されてしまう。見せしめに、二人を処刑しようとするザンニンだったが、デビルマンの手によって救出される。
 さやかとシローを探す甲児は、二人と、その傍に佇む明を発見。ヘルやデーモンの事情に詳しい明に、甲児は明の素性を不思議に思う。そこへ、ブゴが現れ、甲児をかばった明は、甲児の目の前でデビルマンに変身する。「そうか、彼がデビルマンだったんだ……!」

 ブゴを追って海中に飛び込んだデビルマンは、機械獣バルバドスF7の電磁ネットに囚われる。そのデビルマンの危機を救ったのは、マジンガーZ。
「デビルマン、君は何故、命を懸けて妖獣と戦うんだ」と訊く甲児に、明は「それが俺の宿命だからさ」と答える。そして、共にこの優しい故郷――美しい愛、限りない夢と希望がある人間の世界を守ろう、と兜甲児と不動明、二人は固い握手を交わす。

 Dr.ヘルは、遂に機械獣・妖獣を使い、光子力研究所に総進撃を開始した。マジンガーZは機械獣を食い止めるため、デビルマンは光子力研究所を守るため、激しい戦いを繰り広げるが、デビルマンが妖獣達に捕らえられ、雲の上に連れ去られてしまう。氷の十字架に磔にされ、拷問を受けるデビルマン。空飛ぶ手段を持たぬマジンガーは、デビルマンの苦悶の声をただ聞くだけで、何も出来ない。
 甲児は弓教授に通信を開く。「教授、スクランダーは発射できますか」テストの終わっていないスクランダーだったが、「構いません、発射して下さい。デビルマンを見殺しには出来ません! もし発射してくれないと、一生、教授を恨みます!」甲児やさやか、シローの声に、弓教授はジェットスクランダーを発射! スクランダークロスに成功したマジンガーZは、遂に紅の翼で大空へはばたいた!

 間一髪、処刑されようとしていたデビルマンを救出し、マジンガーは妖獣、機械獣、飛行要塞ナバローンを全滅させる。マジンガーとデビルマンは、互いの力を讃えあい、それぞれの戦いの世界へと戻っていくのだった。
 原作者が同じである、以外に何の共通点もないこの両者を「共演」させようだなんて、まったくよく思いついたものだ。それも、永井豪のロボットヒーロー代表・兜甲児と、超能力ヒーロー代表・不動明、夢のコラボレーション。超ビッグネームの二大ヒーロー揃い踏み。もう、燃えるな、というほうが無理な組み合わせ。何て豪華なんだ! しかも、シネスコサイズでの『デビルマン』は、これでしか見られないぞ!

 と言いつつ、いきなり興醒め発言を書くと、これは「マジンガーZの映画」であって、デビルマンはあくまでも「客演」扱いである。人気うなぎ上り、の『マジンガーZ』と、放映終了した『デビルマン』では、致し方ない、か(『デビルマン』は同年の3月31日に放映終了)。だから、ミキちゃんもタレちゃんも出ない。デビルマンの敵ボス・魔王ゼノンも。ピンポイント出演で、ポチ&アルフォンヌは出てるけどね(笑)。たったあんだけの出番でEDにクレジットされる、アルフォンヌ恐るべし。
 この映画の主題は、空を飛べないマジンガーZが、ジェットスクランダーという翼を得て、空を飛ぶこと。最初の方にも、思わせぶりにスクランダーが映し出される。その主題を最大に盛り上げる役割が、デビルマンに割り振られているわけである。デビルマンは、自分の背にデビルウィングを持っている。最初っから飛べるんで、マジンガーの弱点を指摘できる。そんなデビルマンの絶体絶命のピンチを救うため、是が非でも、テストが終わっていなくてもジェットスクランダーを発射してもらわねば、とスクランダー完成単体でも充分成立するイベントを、非常に映画向けに贅沢に演出しているんですな。ちなみに、スクランダーはこの映画のみのデザイン。

 そんなわけで、テレビでもほぼ毎回、相当痛めつけられていたデビルマンだが、遂に磔にされ、拷問されてしまう羽目に(で、ここがまた小松原一男氏の色気ある絵で、攻め立てられて苦痛に悶えるデビルマンの声が相乗効果で……! ていうか、磔にされたデビルマンの足元から、舐めるようなカメラ移動がその以下自粛)。テレビ以上。でも、ザンニン様の毛のふさふさ度はダウンして、テレビ以下。その代わり何か能力が増えていたか。口から針吐いたり目からビーム出したり。余談。
 これだけ見てたら、強さがデーモン<機械獣、に見えんこともないが、いかんせんデーモン族は生身だからね……。そういや、些細なツッコミだが、デーモンを見たあしゅら男爵、「Dr.ヘル、なんと醜悪な顔でございましょう」って言うんだが、あんたが言うか。そんでもって、Dr.ヘルとあしゅら男爵、総帥と幹部が、わざわざ自ら飛行要塞を操縦するのって、どうよ。小ネタだが、あの切り離し化の司令室機って、『魔王ダンテ』の戦闘機よね?

 基本的にこのシリーズ、タイトルに「対」とはついていても、本当に対決してるのは、『グレンダイザー対グレートマジンガー』のみ(暗黒大将軍は前線には出てこないからねー)。看板に偽りあり? 何の何の、誰もそんなどっちが強いか、の潰し合いなんて望んではいない。夢のヒーローの共演ですよ、見たいのは。これは、宣伝コピーとしての、掛け値なしに最高の「あおり文句」なのだ。
 そんな中で、あえて「対」らしいシーンを上げるとすれば、甲児くんと明君のバイク勝負。この時、バイクでなくて肉体的な喧嘩だったら、明君が絶対有利だからなあ、多分。『デビルマン』5話での、明君と氷村の勝負を何とはなしに思い出しましたが。この時、スプリットスクリーンの手法を多用して、“両雄顔合わせ”が効果的に演出されてる。特に、画面を斜めに仕切って、明君と甲児くんの目元のアップで、互いに視線を見交わすところ。

 スプリットスクリーンもそうだが、全般的に、この、横長のシネスコ画面を最大限に生かすための、絵作りのこだわりが素晴らしい。デビルマンの最初の変身も、画面を斜めに使い、テレビでは見られなかったあおりアングル。「デビィィィール!」とポーズをとる明君を右に小ーさく描き、ぐーんとその場で左上に向かって、「巨大化」する表現。よく見ると、明君の服だけでなく、ベルトも弾け飛んでます。要チェック。ところで、デビルマンの巨大化サイズは、マジンガーとほぼ同じの、18メートルくらいのようです。でけえ。
 また、街を襲うシレーヌも、魚眼レンズを通したみたいな映像で、覆いかぶさるように見せてて素敵だ。こういう実写っぽい絵作りが、実写出身の勝間田氏ならでは、という感じ。また、「あおり」カットが多用されるのも、勝間田演出の特徴。マジンガーを明君が真下から見上げるシーンなんて、マジンガーの「巨大さ」を否が応にも引き立てている。

 シレーヌといえば、2話の時よりも、原作版に近いデザインにリライトされてる。で、時々、ぐばーっという顔になるんだけど、この顔、角田紘一氏の絵のせいか、11話のラフレールを連想させるなあ(笑)。声も同じ里見京子さんだし。また、光子力研究所の屋根に止まって、風を起こし、原作の名台詞「美しき月よ、そなたはこれから起こることを見ないほうが良い」と言うシーンなんて、サービス満点である。最期は、スクランダーに片羽を切り落とされるのも、何となく原作ぽい。百舌の早贄状態で絶命するのは、そういう方法でさやかさんとシローちゃんを殺そうとした、因果応報ってやつですかね。
 シレーヌといえば、テレビのときから気になっていたんだが、マダムシレーヌって何だよ! 誰のマダムなんだよ! カイムか!?

 マジンガーのアクションシーンも、こだわりの見せ方。冒頭のブラッガーS1、ザウルスF1(はじめ、デーモンだと思っていた……よく見ろよ!)戦も、山の傾斜を利用した絵作りをして、飛ばされたアフロダイの腕、倒れたマジンガー、奥に小さくブラッガー、と三段階のパース使いなんて素敵。ブレストファイヤーで倒されたデモンガーJ5の、落下感(何語)も。そして、やはり終盤のマジンガーZと機械獣軍団との戦闘が燃える。例えば、トロスD7とゴーストアームV10戦、展開は原作のトロスD7とゴーストファイアーV9戦と同じなんだけど(マジンガーに穴は開きませんが)。
 画面を縦に見立て、トロスの角で空高く放り上げられるマジンガー、マジンガーを画面全体を使った三角形のパースの頂点になるように描いて、「高さ」の間合いの表現とか。これもセルを引いて、簡単に処理するんじゃなくて、ちゃんとカットを割って描いてある。ゴーストアームの鎖に両腕を絡められつつ、大きくジャンプするマジンガー、トロスに串刺しにされたゴーストアームを、広い画面一杯にぐんぐん振り回すマジンガーも爽快さ溢れる。ていうか、マジンガーの動きって、結構俊敏なんだよ……? ぶつぶつ。
 とにかく、「広い画面」を最大限に使った画面設計、さすが劇場映画主体だった、東映ならではのつくり。ディテールにこだわった、画面の隅々まで堪能しよう! 海の波が受ける光の表現も、実写っぽくて、今見ても遜色ないと思いますアレ。

 絵といえば、個人的には、マジンガーの顔は、若林哲弘氏の描くマジンガーが、ハンサムで(笑)好きなんですが。角田氏が、まだテレビで一回しか描いてなくてこなれてないせいか、たまに、「あ、このマジンガーいまいち!」と思うカットがあるのが残念かな。その点、デビルマンはキャラクター設計の小松原一男氏本人が原画参入しているだけあって、絵的には非常にハイクオリティ。あ、ところどころデビルマンは、もろに白土武氏の絵と分かる顔だったりするが(笑)。

 両作品ともに、随所に原作を意識した場面が見られるのも、映画ならではのサービスか。海中でのバルバドスF7の熱線対ブレストファイヤーも、場所もあり、グロッサムX2戦を髣髴とさせる。「熱い! 俺の体が溶けそうだーっ!」なんてね。明君がデビルマン=自分を「ヤツはデーモンハンターなのさ」と言ったり。


 しかし、何と言ってもクライマックスは、デビルマンの危機に、ジェットスクランダー発射する場面。パイプオルガンのBGMが鳴り、響き渡るデビルマンの絶叫。クラッシック曲を使う手法は、『デビルマン』最終回や(31話のキルスキイの弾くパイプオルガンは微妙だ)、『マジンガーZ』でも、故・芹川有吾氏の演出された32話に見られるが、これ、普段のBGMとは違う、独特の緊迫感をもたらす効果があると思う。スクランダーのテストは終わっていない、失敗するかもしれない、しかし。
 そして、遂に発射されるスクランダー。発射口から飛び出して、画面を横切って小さくなり、画面切り替えで点のようなスクランダーがこっちに向かって飛んでくる。「よーし、頼んだぞ!」ロケット噴射したマジンガーと、紅の翼ジェットスクランダー、スクランダークロス! 燃えますぜ、もう。

 お話的には、テレビ版よりも明君が大人っぽい感じを受けました。やんちゃするにも、まあ相手がいませんが……。全体的に、甲児くんの兄貴分みたいな扱い? コミカルなところも、テレビ版の明君は魅力なんですが。これは仕方ないか。メインは甲児くんだし。ちなみに、明君が知った「美しい愛」とは、非常に限定的な愛だと思われます。ミキちゃん限定。
 んで、ヒーローはヒーローを知るってな感じで、明君はブゴの攻撃から甲児くんをかばい、ためらいなく甲児くんの目の前で変身する。デビルマン=不動明の事実は、甲児くんが知るのみ。いや、明君は名前は名乗らないので、甲児くんはずっと、明君に「デビルマン」と呼びかけるんですが。そして、分かり合い、認め合う男の友情。がっちり握手。「俺で良かったら、いつでも力を貸すぜ!」「ありがとう!」そして、ラストのデビルマンの台詞、「マジンガーZがとうとう空を飛んだな……。見事だった! いかしていたぜ!」……最高。

 テレビ的に、この時期は『マジンガーZ』はまだ前半。だもんで、ポロッと、甲児くんは「スクランダーに比べれば、ガールフレンドなんて!」と言い、「フン! どうせそうでしょうよ!」と、さやかさんを怒らすんだが、これがテレビ後半だったら、そりゃあもう激しい喧嘩してるだろうなぁ……(笑)。「あーごごごごめん、さやかさんの方がずっといいよ!」「今更言っても遅いわよ!」「いや、そんなこと言わないでさぁ」「嫌よ!」微笑ましい一幕が、一転してデーモンによる研究所の襲撃、という危機になる、ドラマのメリハリ見事。

 また、本作の魅力は、異業種タッグマッチであるため、マジンガーZ対妖獣、デビルマン対機械獣、というそれぞれの作品では絶対に見られない戦闘も見所の一つ。「眼を一つずつ焼き切る」ことでしか倒せないブゴなんかどうすんのか、と思ってたら、ルストハリケーンか……、なるほど……。最初っからやれよ! などと言ってはいかんのである。何より、きっちり、光子力ビームがザンニンの胸で跳ね返されるのがグッド。そして、ナバローンに浴びせられる、ブレストファイヤーの凄まじい火力も見よ。これぞヒーローもののカタルシス。

 BGMも、両作品から場面に合わせて選曲されている。結構、違和感ないもんだ。選曲は、『マジンガーZ』の賀川晴雄氏ではなく、『デビルマン』の宮下滋氏。で、SEや台詞の、音作りもやはり奥行き感があるので、出来れば大きい音のスピーカーで聞きたいもんです。……ウチ、画面右側のラジカセから聞こえてきます音。


 フィナーレ、夕陽を浴びて佇む二大ヒーロー。別れを告げるデビルマン、送るマジンガーZ、共に大空へ舞い上がり、両雄ランデブー。主題歌「空飛ぶマジンガーZ」は、この映画のみのバージョン。マジンガーとデビルマン、ほぼ同じポーズで飛んでるのが心憎い。そして、デビルマンはマジンガーに右手を上げて別れの挨拶をして、去っていく。恐らくは、東京へ、彼を待つ人・牧村ミキの許へ。そして、新たなるデーモンとの戦いのために。さやかさんの言うように、「これからも正義と勇気をもって、あたし達の心に生き続けるんだわ」(正義はちょっと疑問だけどネ。さやかさん達は、明君のやんちゃぶりを知らないからしょーがないさ)。『デビルマン』的には、そういう「その後の不動明」への「想像の余地」を与えてくれた作品である。
 勿論、『マジンガーZ』的には、これからも続いていくDr.ヘルとの戦いのために、弱点を克服し、パワーアップしたマジンガーの更なる活躍をお楽しみに! である。

 ともあれ、今作が、全くの異作品同士でも「夢の共演」が出来る、それを可能にした、「偉大なる」パイオニアであることは疑いない。不滅のヒーロー達に喝采を!


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