◇REVIEW◇

DEVILMAN

 1972年11月4日 放映
第十七話 「切手妖獣ダゴン」 
脚本/辻 真先 ■ 演出/しらどたけし ■ 作画監督/白土 武
▼STORY▼

 タレちゃんに頼まれ、明とミキは公園のグラウンドで、町内野球大会のコーチをしていた。もっとも、当のタレちゃんは明の放った場外ホームランを追って行った先で、ミヨちゃんと話すのに夢中になっていたが……。

 そんな夕暮れ。明達の住む町に、自転車に乗って紙芝居屋がやって来た。打ち鳴らされる拍子木の中に混じる不審な金属音に、明は聞き覚えがあった。
 駄菓子ではなく、小銭と引き換えに切手を配る紙芝居屋。ミキに誘われて紙芝居に訪れた明は、紙芝居に描かれた妖将軍ムザンの姿に目を留める。その講じる紙芝居は、立体式で動き、デーモンを題材にしたものだった。ムザンが、配下の妖獣ダゴンに、「デーモンの命は人間よりはるかに長い。大人たちは放っておいても必ず死ぬ。大人よりも先に子供を片付けろ!」と命じるのだ。

 見入る明に気付いた紙芝居屋は驚愕し、発生した霧と共に姿を消す。紙芝居屋を追う明。霧の中、紙芝居の中から起き上がったダゴンは筋書きどおり、子供達を殺すと明に告げる。走り去っていく自転車を追いかける明だが、自転車の凄まじい速度に追いつけずに逃げられてしまう。「やれるものならやってみろ! 子供達は俺が守る!」

 その夜。ダゴンの魔力を懸念する明、その一方で、子供達が持ち帰った切手から、次々と描かれた妖獣が出現する。子供達を襲い、夜の街の中へと飛び出していく妖獣達。デーモンの姿に怯えた子供達は、半狂乱となって、次々と病院へ搬送されていく。
 ミヨちゃんからの電話で、異変を知った明は、タレちゃんを乗せてバイクでミヨちゃんの家に急行する。そこで、妖獣に出くわした明は、その後を追う。

 空き地で妖獣に追いついた明。その明の前に、ダゴンが姿を現す。歯を鳴らす音で、ダゴンは幻を操っていたのだ。幻の妖獣に怯えた子供達は、あるいは死に、あるいは半狂乱となると、ダゴンは言う。「貴様も子供達の後を追わせてやるぞ、デビルマン!」切手から実体化する幾多の妖獣達を前に、明はデビルマンに変身する。
 デビルキックでダゴンの歯を叩き折り、デビルマンはダゴンの幻を操る力を打ち破る。霧に視界を遮られながらも、デビルアイでダゴンの姿を捉え、霧の及ばぬ上空へとダゴンを掴み上げるデビルマン。デビルカッターはダゴンの甲羅に阻まれるが、デビルビームでダゴンは焼き尽くされる。

 一夜明けて、ミヨちゃんに一緒に登校しよう、と誘うタレちゃん。夕べ、妖獣を見た友達が皆、入院させられたことを「本当のことを言って叱られるなんて、世の中間違ってるよねぇ」とぼやく。
 明のクラスでは、入院したはずの東大寺が登校してくる。この文明国日本に、妖獣などいる筈がない、と言う東大寺をからかう明だった。
 
 切手妖獣って、武器が切手みたいだ……と思いつつ、あながち間違いではないかもしれないサブタイトル。
 切手、紙芝居、と「時代だなあ」と感じる小道具の使われた回。ところで、紙芝居はミキちゃんが「懐かしいものがまた流行り出したのね」と言っていますが、全盛期って何時頃だったんだろう。ちなみに私は、本物の紙芝居屋を見たことはありませんが。その逆に、切手は結構周期的に流行してるような気がする。記念切手とかは普遍的か。
 んで、サブタイトル画面では、ばーっと舞い散る切手、そしてデビルマンとザンニンが画面右と左に出てくるが、何で今頃(失敬)ザンニンなんだ……。

 ということで、今回の敵であるダゴン。棘の生えた亀型デーモンで、顔の上に、もう一つ目があるというデザイン(擬態の目か顔についてるのは)で、ちょっと“精鋭”には見えない外見だが、自称だからいいのか。亀型デーモンといえば、原作のジンメンが思い出されるも、このダゴンはジンメンほどに憎憎しくはない。そして弱い(身も蓋もないな!)。
 実際、ダゴンの「能力」というのは、戦闘能力ではなくて、切手から幻のデーモンを呼び出して、実体化させる、というのがメインなわけで。霧を吐いて、デビルマンの視界を遮ったり、棘だらけの甲羅で、デビルマンに攻撃してはみるものの、大したダメージも与えられずに、「よぅし、デビルマンの威力を見せてやる!」なんて、あっさりと笑われてデビルビームではい、おしまい。どーでもいいが、デビルマンの威力って何ですか。デビルマンの力、あるいはデビルマンの技の威力、なら分かるけど……。
 まあ、「デビルマン、貴様はこの街に住んでいたのか」と言ったように、ダゴンはデビルマン討伐に来たのではなく、紙芝居の通りに、子供達を殺しに来たわけですよ。だから、勇士デビルマンには全然敵わなくても仕方が無いんですが。ダゴンを倒したデビルマンの目がロンパってるのが、ちょっと気になったが(一言余計)。

 この回、二話から作画監督を務めている白土武氏が、「しらどたけし」名義での初演出を手がけている。しらど演出の特徴と言えば、他の演出家の回に比べると、キャラクターの動きや表情が非常にコミカルであるのと、戦闘パートがやや短めであることだろう(19話のアダルも、実に簡単にやられておる)。。まあ、今回が初演出、のせいもあるだろうが、ヒーローものとしての『デビルマン』の一つの売り(の筈)である戦闘シーンが、ややテンポが悪いというか。こなれてない感じがする。どちらかというと、「日常」を生き生きと描くのがお得意な様子。
 前半の野球場面なんか、テンポも良くていい感じ。タレちゃんが練習さぼって、ミヨちゃんと店番している所を、明君たちに見つかって、タレちゃん「未成年者にはお売りできない事に、なっております……」明君「ふざけんなっ!!」(ゲンコツ)タレちゃん「ご、ごめんなされ……」さりげないけれど、何だか「間の取り方」が凄く好きなシーン。

 しかし、ミキちゃんがへそ出しにホットパンツ着用なのは、お色気仕様ですか? 白土氏は、女の子のパンツルックがお好きなのか、ミキちゃんの冬服もパンツだし、『マジンガーZ』でデザインしているさやかさんの私服もパンツだなあ。
 それにしても、案の定と言うか、子供相手にも手加減が出来ない明君。打つ球打つ球、片っ端から場外ホームランじゃ、ボール代が馬鹿にならない(ミキちゃん談)だけじゃなく、そもそも練習にもならないのでは……。明らかにコーチの人選ミスですね(そこまでは)。


 この回非常に、『デビルマン』の裏テーマである、硬直した大人社会への皮肉、が痛烈に表に出ている。デーモンの姿を目の当たりにした子供達の言うことを信じず、「気が狂った」と決め付けて、病院に入院させる大人たち。自分もデーモンを見たのに、それを「悪い夢」と言って、認めないミヨちゃんのおばあちゃん。
 それをストレートに、タレちゃんが「大人って、イマジネーションに乏しいんだね」と、どっか突き放したような反応。これだから、凝り固まった「常識」でしか物事を測れない、大人ってヤツは……、の辻真先節が炸裂である。


 第二クールに入り、それまでは裏切り者・デビルマンを倒すことを優先し、そのためにミキちゃんとその家族をピンポイントで狙ってきていたデーモン族が、14話でザンニンが語ったように、方針を転換したわけです。人間界征服優先。原作での明君が「『あなた』も例外ではない。『あなた』も参加するのです」と言う感覚に似てるかも。で、前回のサイコジェニーに続き、狙われたのは子供達。そりゃあまあ、子供と大人と比べたら、先行きでは子供の方が長いわな。後、子供を狙う方が、視聴者に与える感情としては、より“残酷”なため、デーモン族の残酷さを表現するのに分かりやすいか。
 そんなこんなで、牧村家以外のサブキャラクターが、存在感を出し始めるわけですが。シナリオの書かれた順番では、今回が初登場のミヨちゃん。わけても、この子が非常にキャラ立ちしている。女の子のほうが、早く大人になるというが、相当にしっかりした小学生である。ていうか、しっかりしすぎですよ、この子……。


「俺は子供達を守ってみせる!」
 明君の台詞ですが。明君がこんなに堂々と、正義のヒーローっぽい台詞を言うようになったのも、大きな変化ですな。初期のスタンスに則るなら、大人だろうが子供だろうが、男だろうが女だろうが、ミキちゃん以外は大同小異、全部「滅びようがくたばろうが知っちゃこっちゃない」だった、人間達を「守る」とな。
 その一方で、今日ぐらいは宿題をやってきたんでしょうね、という東大寺に、「勿論、お前のを写させてもらうさ。い〜いだろお、気違いにもなれない秀才さんよ!」と足をぐりぐり踏みつけてからかう辺り、明君はやっぱり明君、なのですが(笑)。

 東大寺といえば、この回、結構、彼に関する小ネタには事欠かなかったような気がする。勉強中に仮面ライダーの落書きをしてるなよ、とか(笑)。「僕は入学以来、無遅刻無欠席で通してるんです。唯一の僕の誇りなんです!」他に誇ることはないのか委員長、とか。うだつの上がらない亭主に辟易して、子供にはいい学校→いい会社に行かせたい教育ママ(死語?)の賜物でがり勉(だから死語)に育った家庭事情とか。学歴信仰が衰退して久しいと言われる昨今ですが、未だにお受験が盛んなのを見ると、こういうママ、まだまだいらっしゃるんじゃないでしょーか。
 しかし、ラストの教室のシーン、あそこだけ見ると、名門学園、男子校になったみたいです。急に詰襟の学生服だらけになるし。  
REVIEW TOP  DEVILMAN TOP