◇REVIEW◇

DEVILMAN

 1972年10月21日 放映
第十五話 「妖獣エバイン 千本の腕」 
脚本/辻 真先 ■ 演出/落合正宗 ■ 作画監督/尼寺一美
▼STORY▼

 明、ミキ、タレちゃん、ミヨちゃんは、買い物帰りのバスで衝突事故に遭う。それは、運転手がミラーに女の幻を見て、自分でハンドルを叩き壊す、という奇怪なものだった。

 次の日、その事故報道を告げるニュース番組中、女性アナウンサーが、突如自分の首を絞める怪死事件が起こる。明には、それらの事件の原因が分かっていた。鏡の中に潜む、妖獣エバインの仕業だ。「今度、俺の近くに現れたら、最期と思えよエバイン!」

 事件はなおも続き、暴走したバイクのクレーンへの激突事故を目撃した明は、バイクのミラーが割れているのを見てエバインを探すが、エバインは既に去った後だった。

 名門学園、廊下の鏡を覗き込んだアルフォンヌは、エバインの姿をそこに見る。「幽霊ではない、私はエバイン。お前の腕が欲しい」すると、アルフォンヌの腕は、本人の意に反して、勝手に伸びて動き出す。明は、エバインが学校に現れたことを悟り、エバインを探しに教室を飛び出す。

 その頃、タレちゃんとミヨちゃんも、それぞれトイレの鏡でエバインの姿を見ていた。二人同時に同じ女性の幻を見たことを不思議がるが、お互いにひとりでに動く手によって、首を絞め合って倒れてしまう。
 そこに駆けつけた明。タレちゃんを抱え起こすと、気絶している筈のタレちゃんの腕が伸び、明の首を締め付け、ミヨちゃんの腕が明の脚を掴んで転倒させる。明たちを見下ろす鏡に、エバインの姿が映る。明は、ベルトを抜き放ち、鏡を叩き壊す。すると、エバインは鏡の中から追い出され、デーモンの本体を現した。馬の脚を持つエバインは、明を振り切って鏡の中へ逃走する。

 エバインの妖力は、鏡の中でこそ発揮される。鏡を割られると、鏡に逃げ込まなければならない。元ゼノン親衛隊にいたデビルマン=明は、その弱点を知っていたのだ。そこで、妖将軍ムザンはエバインに、人間を鏡の世界に閉じ込める鍵を与える。

 その夜、タレちゃんの爪で首につけられた傷の具合を見ていた明の前に、エバインが現れる。鏡を壊す明だったが、鍵が差し込まれて、鏡の世界に閉じ込められてしまう。明の絶叫を不審に思ったミキが、明の部屋の扉を開けると、部屋の中の全てが何もかもがなくなっており、明の姿も消えていた。
 鏡の世界でのエバインは、万能にして無敵。巨大なエバインの角による攻撃をかいくぐり、明はデビルマンに変身する。

 巨大化したために、首の傷が悪化したデビルマンに、更にエバインが鏡を見た者から奪った、千本の腕が襲い掛かり、押さえつける。「腕の無いあたしには、千本の腕がある。レスラーの手、ボクサーの手、兵士の手、死刑執行人の手、お好みのままに取り寄せよう。しかし、お前を殺すのに人間の腕は要らない」身動きの取れないデビルマンを、エバインは串刺しにしようとする。

 デビルウィングを出して、腕を弾き飛ばしたデビルマンは、エバインにデビルキックを浴びせる。なおもデビルマンを串刺しにしようとするエバインだったが、デビルマンはそれを許さない。エバインは、再び腕を呼び出し、デビルマンの動きを封じようとする。デビルマンはデビルビームを放つ。デビルキックによって罅が入っていたエバインの角がビームで折れ、エバイン自身に突き刺さる。エバインの魔力は破れ、千本の腕は逆にエバインに掴みかかる。

 ミキが両親を連れて明の部屋に行くと、明も部屋も元に戻っていた。明の足元に落ちていた鍵に、ミキが気付くと鍵はたちまちのうちに燃え尽きた。「あばよエバイン、鏡の中がお前の墓場。デーモンらしい最期だったな」
 
 何食わぬ顔で、以前の日常に戻っている明君である。が、それはデーモンの人間界への侵攻から、ミキちゃんを守るためであるからして。問題は何も無いのである!

 さて。いきなり、サブタイトル画面の背景に古びた門。何事!? と思うと、切り飛ばされる赤い腕、鎧武者の絵が回転して――実はそれは、タレちゃんの読んでいる、渡辺綱の羅生門の鬼退治のお話。
 そんなわけで、今回のキーワードの一つ、「腕」。

 ある日突然、自分の腕が自分の意思と無関係に動き出し、自分に害を加えてきたら? ……考えてみりゃ、非常に怖いなこりゃ。このアニメ、何気に「あからさまに怖い」だけでなく、こういう「考えてみたら凄い怖いぞ!」感覚が何気に放り込まれているのが……単純にお子様向けじゃないな、と思うわけです。

 そんでもって、もう一つのキーワード、「鏡」。鏡というのは、昔から洋の東西問わず、「魔術的」「呪具」として使われてきたアイテム。日本でも、天皇家の皇位継承権を示す“三種の神器”の一つが鏡でしょ。この世にあって、この世のものを映す出す鏡、しかし当然ながら、映し出されるものは左右逆。そんなわけで、鏡には、何処か神秘的な、不可思議な世界を作り出す、異界への扉的イメージがある。『鏡の国のアリス』とかね。他にも、アレはホラー映画だったっけ、11時59分に鏡を見ると、悪魔が映るってーの。

 そんな「鏡」に潜む、「腕」の無いデーモン、エバイン。女の上半身に馬の下半身、耳の代わりに生えた巨大な角、と何とも異形な姿。紀世彦爺さん曰く、「う、馬じゃぁ、人間じゃぁ、りょ、両方じゃあ!」人間の姿をしているときも、やっぱり腕は無い。
 ……作画的には、こういうフリーキーなデザインのデーモンは、個人的には、森利夫氏の作画のが合ってるような気もするんですが。ロクフェルみたいに。ローテーションだから仕方ないが。
 タレちゃんの手に、明君が首を絞められるシーンなんかは、みょーっと手が伸びて、こう何というか、妙に漫画チックで緊張感が無かったというか……。アルフォンヌ先生の腕が伸びるのは構わんのですよ、ギャグ的シーンだから。でも、ここはそういう場面じゃないからねえ……。描き方で変わるんじゃないかと思うと、勿体無い。それと、エバインが姿を現したとき、説明的台詞を吐くのは、止めてくださいよ明君(苦笑)。そういや、この鏡の破片が飛び散るところでは、破片が襲い掛かってくるのかと思いましたが。

 絵的に言えば、バスがトラックにぶつかる場面もちょっと……だった。迫力不足とゆーか。……もー絵の方はしょうがないわな。貶してばかりではなんなので、見所をば。

 やはり、「鏡」というアイテムを用いた、幻想的な画面作りが印象的。明君に鏡から追い出されたエバイン、校長室の鏡に飛び込んで、ムザンを呼ぶ。何処にあるのかわからない空間の中、うっすらと滝の水が流れ、その奥に巨大なムザンの姿。そんで、ふーっと息を吹くと、水が割れてエバインがムザンの前に現れる。ザンニンに代わる、妖将軍ムザン初登場。シナリオ順では、17話の方が先だったということで、タレちゃんとミヨちゃんのくだりは前後している感は確かにあるのだが、ムザン登場に関しては、紙芝居のアレよりは、この回の方がインパクトあって良かったんじゃないかと。デビルマンには敵わない、と弱音を吐くエバインに対して、「よしよし、このムザンが手伝ってやろう」なんて、あらザンニン様と違って、部下思いなのねムザン様。見た目はザンニン様の方が可愛いけど。

 ムザンの鍵がドアに差し込まれて、閉じ込められてしまった明君。割れた鏡の向こうを覗き込むと、巨大なエバインの角によって、何処が天とも地ともつかぬ、不思議な鏡の世界に落下。鏡の国のデビルマン(違うし)。一体何処に「着地」したんだろう、明君。立ち位置が明君とエバインとでは違って見えるのは、きっと気のせいだ。
 こういう「空間」の「不可思議さ」は、同じ落合正宗氏作画の10話にも通じますな。やっぱり、10話の「鈴木実」は落合氏なのかな。

 で、鏡の中でなら、エバインの天下、というのを表現するのが一つ、明君のままの時はともかく、デビルマンに変身してもなお、見上げんばかりの巨大なエバイン。
 もう一つが、鏡を見た人間達から奪った腕を操る能力。普段、人間は骨格に備わった本来の力を、無意識に制御しているのですが、何本もの腕に押さえ込まれたデビルマンが身動き取れないのは、腕「だけ」がエバインの支配下にあり、その制御から放たれたせいか。そういう能力を持ち、腕が無いせいか、あんまり肉体的能力は高くないっぽい。デビルチョップで苦しんでたし。

 しかし、あんまりにもエバインが巨大なもんだから、さて、どうやって倒すデビルマン? 実はデビルキックを食らわせたとき、エバインの角には罅が入っていた。デビルビームで倒すことは出来なかったが、ビームのおかげで角が折れて、エバインに突き刺さり、万事オーライ結果オーライ。ま、そういうのはともかくとして、割と落合氏の演出の回っつーのは、現実と幻想、その狭間の不可思議感覚が結構表現されている感じ。ただ、これで、もう少しデビルマンがカッコ良く描かれてたらなあ……。


 今回のツボ。バスがぶつかったのが、魚配送のトラックなので、横転したバスにぶちまけられる魚。魚を咥えて憮然と座り込む明君。プッと魚を噴き出して、「まったく、この世は何が起こるか分かりゃしねえや」と言うのが、妙に可愛かったり。他にも、「面白くなかった、明兄ちゃん?」とタレちゃんに訊かれて、「あー面白い面白いよ! ヒヒッ、ヒヒヒーッだ!」なんてわざとらしーく笑って見せたり。じーっと鏡を見てるのを、ミキちゃんに「明君、そんなに二枚目?」って言われて、「ん? ああ、自分でも見とれるぐらいな」なんて、田中亮一氏の「茶目っ気の利いた」演技がよろしゅうございました。

 しかし、東映ビデオは「当時のまま」収録してくれるので、今ならば放送禁止用語のポチの台詞、「キ○ガイ」もまんま。これがバンダイ発売なら、ビープ音が入るか、変なカットの仕方されるか、だろうなあ……。
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