◇REVIEW◇

DEVILMAN

 1972年10月14日 放映
第十四話 「氷の国への挑戦」 
脚本/辻 真先 ■ 演出/鈴木 実(明比正行) ■ 作画監督/邦原真琴
▼STORY▼

 救急車で病院に搬送される、瀕死の重傷を負ったミキ。そのミキを見つめながら、明はデーモンへの激しい怒りに拳を震わせる。そして、ミキの流した血に誓う。デーモンの国へ行き、ゼノンを血祭りに上げ、自らの命の続く限り、デーモン達を殺しつくすことを。ヒマラヤを覆う氷を、デーモンの血で赤黒く染めることを。

 ミキの手術が始まり、明はミキの身を案じつつも、ミキがこうも命の危険に晒されるのは、自分が傍にいることが原因だ、と己を責める。(ミキ、かわいそうに。俺がお前のうちに来てから、まったくロクな事がねえな。俺に……、俺なんかに会わなきゃ良かったんだ)

 明の脳裏に、今までミキを襲ったデーモン達の姿が甦る。ヘンゲに始まり、シレーヌ、ベトラ、ロクフェル、ズール、イヤモン……。ミキを殺し、裏切り者デビルマンに制裁を加えようとしてきた妖獣達。そして、遂にミキは、デーモンの手によって、生死の瀬戸際に立たされてしまった。(すまないミキ。俺が……お前の傍にいたのが間違いだった。ミキ、俺は約束するよ。俺はデーモンの国に行く。もう二度とお前に会うこともねえ。俺さえいなきゃ、お前は安全なんだから。……その代わり、死ぬんじゃねえぞ……死ぬなミキ。死ぬなよ! 死ぬなよーッ!!)

 怒りと悲しみで気持ちが昂ぶり、柱時計の振り子を叩き壊す明。そんな明を、耕作が「明君、静かに。ミキは今、生きるか死ぬかの瀬戸際なんだよ」と、なだめる。しかし、明には、ミキが死ぬかもしれないことを認めることが出来なかった。明は、ミキと過ごした日々を思い出し、「殺したって死ぬようなタマじゃねえ。死ぬか生きるかなんて……そんな縁起でもねえこと、言わねえでくれ!」そんな時、手術室のランプが消え、ミキの手術が終わる。

 ミキは助かった。大喜びする明。そして、明は病院を後にする。「ミキ、俺はもう振り返らないぜ。俺はデーモンの国へ行く」ヒマラヤに向かうために、明はバイクを飛ばす。人目の無いことを確認し、バイクを蹴り、デビルマンに変身する明を、氷村がトラックから見ていた。

 氷の国への帰還を果たしたデビルマン。しかし、デビルマンの挑戦に答える者は、誰もいない。デーモンの国は、もぬけの殻と化していた。訝るデビルマンに、「教えてやろう、不動明!」と呼ばわる声がする。そこにいたのは氷村巌だった。氷村は語る。ゼノンをはじめ、全てのデーモンは、世界各地をデーモンの領地にするために散っていったと。そして、氷村は、デーモンの本性であるヒムラーの姿を現し、ザンニンの命令で明を見張っていたこと、明を傷付けることが任務だったと語る。
 デビルマンと対峙するヒムラーだったが、デビルマンには到底敵わず、ザンニンを呼ぶ。氷の中から現れるザンニン。

 ヒムラーの発する黒煙の中、ザンニンの胸を利用してデビルアローを跳ね返し、ヒムラーを倒すデビルマン。デビルカッターで傷ついたザンニンの眼を見て、デビルマンはそこがザンニンの急所だと悟る。デビルマンのデビルキックを浴び、クレバスへ落下するザンニン。ザンニンは、今にデーモンに征服され、人間達は皆死んでいく、ミキも例外ではない、と今わの際に言い残す。ザンニンを飲み込み、クレバスの裂け目は閉じる。

 デビルマンは、デーモンの企みを、全力で阻止することを決意するのだった。 
 
 ローカル局版前回の予告では、BGMも無く、意識不明で救急車で病院へと運び込まれるミキちゃんと、デーモンへの復讐を誓う明君の独白、というぎょっとするようなものでした。そう、13話・14話は一話完結ではなく、続いた内容。ミキちゃんが助かるのかどうか、そして、自分が傍にいることがミキちゃんを危険な目に遭わせる原因になる、と嫌でも気付いてしまい、ミキちゃんの傍にいたい、でもいられない、というジレンマに苦しむ明君……。それだけに、ラストは「上手く纏めたなあ……」と、ある意味ほっとしましたが。

 Aパートはほぼ、第一部総集編、といった態で、バンクの嵐である(ただ、バンクなんだけど、ロクフェルの所だけは、その度にタレちゃんの台詞が微妙に変わっていますな)。何たって、崖から落ちるミキちゃんのシーンなんか、冒頭と作中で二回だ。この回で、怒涛の「鈴木実」攻撃は終わるので、ロックアウトの関係で、相当作業がおしていたんだろう、と想像。
 何せ、絵のバラつきが凄い。頭を抱える明君の顔、小松原一男氏の絵だと思ったら、角度が変わると白土武氏の絵になっている、といった具合。カット毎にバラで発注かけられたようだが、この辺の推測は、DVD封入の解説書を参照されたし。ちなみに、この回の原画は、小松原氏と白土氏と、……後誰だろう。他の回では、あんまり見覚えの無い顔の明君なんですが。森利夫氏の描く明君は、もっと髪が長めだし、眼の描き方が違う(割と眸が大きい)。何せ、演出の「鈴木実」だけでなく、作画監督から原画から、全員ペンネームだし、この回。ここまでの作画的混沌の回は、後にも先にもこの一本だけ。……よく繋がったなあ、一本に……。

 明君やミキちゃんの顔もそうなんだけど、デビルマンの顔も、作画監督によって相当違うからなあ。小松原氏の描くデビルマンは、顔も身体つきも丸みがあり、端整な顔立ちだし。森氏の描くデビルマンは、三白眼で全体的にシャープ、鋭角的。白土氏のデビルマンは、割とワイルドで野性的なイメージ。そういう風に、カット毎に「あ、これは小松原さんの絵だ」とか見るのも、楽しいかもしれない回である。空手のよーな構えをするデビルマンが、ちょっぴり気にもなってみたりしたが。やたら顔も身体も、直線的な絵柄のデビルマンもいるなあ、今回。……それはいいんだが、ザンニンが「貴様の大好きな、牧村ミキもな」と言うところでのミキちゃんのイメージ、……おたふくはないよぅ。せっかくなんだから、もっと可愛い顔にして欲しかったよ……。

 バンクは多いが、その間間の明君の血を吐くような独白が、とても痛々しい。切々とした台詞を言う、田中亮一氏の演技が、まさに熱演。もう本当に、ミキちゃんが大好きで大切で仕方なくて、生きるにせよ死ぬにせよ、もう全部ミキちゃんのためなことを、ごく自然に決めている明君の「感情」がこれでもか! と表現されている。さりげなく、明君の「一目惚れ」シーンも新たに描き起こしで挿入されていたりして。「初めて知った人の愛、その優しさに目覚めた男」であるからして。前回のラストで「俺の命と取替えっこしてもよ……」とまで言ってるように、もう自分は死んでもいい、ミキちゃんが助かれば、である。
 だもんで、ミキちゃんが助かって、もう大喜びしてうるうる、お礼のタコチューをする明君、バク転する明君を、「うんうん、良かったね、明君」と微笑ましく見守ってしまうのだった(この医者、おっさんだと思ってたら、実はおばさん……。騙された!)。
 んが、そこでゼノンを血祭りだ、デーモン達を皆殺しだ、の激しい報復思考に走る明君は、やはり「デーモン族の勇者」なんだね……。


 さて、Bパートは打って変わって、戦闘パートである。いつもより、デビルマンの戦闘が長めにとられている感がある。なかなかアングルが凝っていて、面白い。ヒマラヤに向かうデビルマンが、戦闘機と並んで飛んじゃったりするんだが、あれ、てっきりレーダーを見て操縦士が驚くのかと思った。どうやら、デビルマンの飛行速度の比較だったらしい。

 そんなこんなでヒマラヤの氷の国に帰還したデビルマン。ここで遂に、今まで思わせぶりだった氷村が、視聴者にはバレバレだった、デーモンの正体をデビルマンに明かす。しかし、同じ蝙蝠モチーフのデーモンでも、人間タイプのデビルマンと違い、もろ蝙蝠なヒムラー。同じモチーフを使っても、こんなにカッコ良さが違うもんだ……。しかも、ヒムラーって、複数の意味で蝙蝠男……。デビルチョップを避けて、ツララにぶら下がったはいいが、デビルマンにゆさゆさ柱を揺すられて苦しみ、堪らず飛んだところを、すかさずデビルキックかまされて、べちっと氷壁に叩きつけられて、そのままべちっと落下して、血反吐を吐きつつずるずる身体を引きずりながら、「ザ、ザンニン様ぁ……!」かかかかカッコ悪ーっ!!
 しかも、ザンニンと謀って、デビルマンを挟み撃ちにしようとでもしたのか、デビルマンの背後に回ったものの、すっかりデビルマンに読まれて、跳ね返しデビルアローでどかーん。初登場時の威勢と比べて、あんまりといえばあんまりにも……、でトホホーな末路でありました、氷村。最後の仕事は、トラックの砂利を落として、明君の左腕(しかし、角度的には右腕じゃないのかアレは)を傷付けたことでした。合掌。

 ところで、明君=デビルマンは一見しても、氷村をデーモンとは見抜けなかったわけである。企画書では、「デビルアイ」は「この眼が光ると、人間に変身したモンスターの影が映し出される」能力があることになっているが、本編では透視能力・視覚増大能力にとどまっている模様。今回でも、サーチライトみたいな使い方してるし、デビルアイ。デーモン達が、明君を見てすぐに、「デビルマン」と認識している(人相書きでも出回っているんでしょーか)のとは違って、明君が知らない気付かない方が、ぶっちゃけて言ってしまえば、サスペンスになるからだろうか。メグにしろ、ドランゴにしろ。

 1クールの区切りは、番組的にも色々区切りである。この後は、デーモン側はとりあえずデビルマンは置いておいて、まず人間界征服を優先させることになる。そんなワケで、デビルマンに対して敵意の強かった中ボス入れ替え、今回でザンニン様、ジ・エンド。が、やはり最初の中ボスということで、印象的だったせいか、映画『マジンガーZ対デビルマン』で、華麗なる(?)復活を遂げるが。余談ながら、映画のザンニン様は毛のふさふさ度がダウンしていて、個人的にちとがっかりです。
 ザンニンにデビルキックをお見舞いしながら、氷の天井をぶち抜いて地上に出る、ここ、カッコイイです。ザンニンには超能力を跳ね返す胸があるんで、ではどうする? 答えは達人も鍛えられない目、でした。何故か最後に目玉が出来るザンニン様。とどめもデビルキックで、今回は、やたらキックを多用するのが印象的なデビルマンでした。

 それにしても、人間の世界に恐怖をもたらすために出た氷の国。その故郷を滅ぼすために、裏切り者として舞い戻ったデビルマン。「出迎えはどうした。貴様らと戦うために、帰ってきたんだぞ」というシーン、何となく、不思議な喪失感を受けるのは、見る側の勝手な感傷なんだろうが。「もうこれで帰れない さすらいの旅路だけ」。

 デビルマン自身にとっても、ある種の転機となる回。ザンニンが言ったように、デーモンが人間を滅ぼす=その人間の一人であるミキちゃんも、死んでしまう。だったら、俺は人間を守る! ようやく、悪魔の力身につけた正義のヒーロー誕生の瞬間、でした。
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