◇REVIEW◇

DEVILMAN

 1972年9月30日 放映
第十二話 「火焔妖獣 ファイアム」 
脚本/辻 真先 ■ 演出/鈴木 実(及部保雄) ■ 作画監督/森 利夫
▼STORY▼

 全身を炎で彩られた、火焔を操る妖獣ファイアム。このファイアムに、ゼノンの召喚が下される。「デビルマンと戦うんですね?」と意気込むファイアムに、「貴様のようないたずら者にそのような大役が務まるか」と、ゼノンはアギュラーをザンニンの元まで届ける任務を与える。
 遊び半分の気分のファイアムは、アギュラーを曲乗りしながら、コンビナートを炎上させる。そうして遅くなりながらも、アギュラーを送り届けるものの、軽口のせいでザンニンに鞭打たれる破目になる。辛くもその場を逃げ出したファイアムだが、腹が立って仕方が無い。

 アギュラーの力で、家を壊し、ビルを壊し、飛行機を壊し、新幹線を壊すザンニン。それを見ていたファイアムは、ザンニンへの意趣返しを思いつく。

 ファイアムは、ザンニンの拠点である洞穴に忍び込んで、アギュラーを繋いでいた鎖を炎で焼き切り、アギュラーを連れ出す。その際、アギュラーが尾で壁面を叩いた衝撃による洞穴の振動で、ザンニンに気付かれる。
 追ってきたザンニンに、ファイアムは激しく折檻される。「ザンニンの馬鹿ぁっ!」怒ったファイアムは、雲の隙間から人間の街へと飛び込む。

 ファイアムが飛び込んだ先は、地下鉄の工事現場だった。ファイアムの炎によって、作業現場は焼かれ、道路は割れ、地表へと炎が噴き出す。丁度、歩道橋の上を歩いていた明達は、その炎に巻かれて、逃げ場を失ってしまう。ミキとタレちゃんを気絶させて、明はデビルマンに変身する。ファイアムを追っていたザンニンは、変身時に発生する稲妻で、デビルマンの存在に気付く。

 ミキとタレちゃんを安全な場所に避難させたデビルマンを、上空からのアギュラーの攻撃が襲う。攻撃を避けながら、自らも空へと飛ぶデビルマン。アギュラーにデビルキック、デビルアロー、デビルビームを浴びせるも、効果が無い。しがみついていたアギュラーから振り落とされ、尻尾を掴んだデビルマンは、不死身のアギュラーの唯一のアキレスの踵を思い出す。
 アギュラーの弱点・尻尾をデビルチョップで攻め、アギュラーを倒したデビルマンの前に、ザンニンが現れる。強敵の出現に、警戒するデビルマン。左腕をザンニンの尻尾の鞭で絡め取られたデビルマンは、ザンニンにデビルアローを放つも、攻撃はザンニンの胸で跳ね返され、逆に脚を負傷してしまう。

 ザンニンの胸でデビルカッターを跳ね返し、ザンニンの拘束から逃れるデビルマンだったが、脚の負傷のせいで反撃に失敗し、負傷箇所をザンニンに執拗に鞭打たれる。ファイアムは、「汚いわ、けが人を追い回して、魔将軍もないもんだわ」と憤り、ザンニンを驚かせるために、ガスタンクを倒そうとする。

 しかし、ファイアムの意図とは異なり、デビルマンがミキ達を避難させた方向に、転がっていくガスタンク。それに気付いたデビルマンは、必死に立ち上がり、ミキとタレちゃんを間一髪、救い上げる。デビルマンを追ったザンニンは、ガスタンクの爆発に巻き込まれ、その場を逃れる。

 ミキが気付いた時、明が覆いかぶさって倒れていた。燃え落ちた街の惨状に、愕然とするミキ。そして、地面にはデビルマンの形の影が落ちていた……。
 
 ザンニン様、久しぶりのご登場の回。毛のふさふさ度、心もちアップしているような(笑)。そりゃもう、ザンニンといったらふさふさでしょ、ふさふさ。そんでもって、筋斗雲で空を飛ぶんだね! お茶目さんである。

 今回のデーモン、ファイアムは「デーモン」というよりも、むしろシェイクスピア作品『真夏の夜の夢』に出てくる、妖精、つまり「フェアリー」のパックのようなイメージを受ける。ちなみに、パックとは「パックまたはプークはほぼデヴィルを意味し」(井村君江著・『ケルト妖精学』講談社学術文庫)という名なので、あながち私が受けた印象も間違いではないようだ。シェイクスピアの作品の元になった、アイルランドやウェールズのフォークロアに現在も伝えられる妖精は「アイルランドの異教の神々トゥアハ・デ・ダナーンが、もはや敬われず供物も捧げられなくなって、人々の想像の中で小さくなったのが妖精だ」(前掲書に引く、『アーマーの書』)、であるので、悪魔と同一視されてきた歴史もある。ともかく、ファイアムというのは「陽気なイタズラ」をする、ということで、悪魔よりも妖精に近いと思うのである。後、人間よりも体が小さく見える、女の子の姿、というのも。髪の毛が炎、というアイディアなんて秀逸。
 もっとも、「陽気なイタズラ」というのはクセモノ。そりゃあまあ、当人は自分の出す炎で、あちこち燃やして楽しいでしょうさ。でも、その炎で焼け死ぬ破目になった人間はたまらんですよ。あおり食って、明君もアスファルトの破片で怪我したし。そういう「無邪気な」迷惑。大災害。

 ま、そういうイタズラ者のファイアムであるので、役目というのは、いわゆる道化。物語を引っ掻き回す役。デビルマンは、ファイアムがいることに、最後まで気付かんかったんではないかと思うが。
 その道化だけに、ザンニンに向かって「ザンニンの馬鹿っ!」とか言ったり、仕返しを考えてみたり、歯向かったりと小生意気な態度ができるんだろうが。これってやっぱり、『デビルマン』の裏テーマである、権威主義的、硬直した大人社会への反発・揶揄、も込められているんだろうなあ。
 プラスして、ちょっとミーハーな視聴者視点。デビルマン対アギュラー、ザンニン戦、完全にギャラリーだもんな、ファイアム。アギュラーの攻撃から逃げるデビルマンに、「冴えないわねぇ、デビルマン」と言ってみたり、デビルウィングで飛んだデビルマンに「いいぞ、カッコイイ!」と言ってみたり。そんでもって、「だって、私もデビルマンファンよ」と来たもんだ。いやまあ、デーモン女にはもてた(る?)でしょうが、デビルマン。
 しかし、(一応は)上司の足を引っ張ってどうするファイアム……。

 ところで、テロップを見ると、原画は森利夫氏お一人の仕事だったようだが。アテレコに絵が間に合ってなかった? ファイアム、口パクと声が結構合ってない場面がちらほら散見。
 それと、決定的に変なのが、アギュラーを繋いでいた鎖の残骸を、ザンニンが発見した場面。何故かそこで、画面左隅に小さく、雲に乗って飛んでいくザンニンが……。何だアレは? 次の場面では「逃げおったか」と言って、飛び上がってるんですが。フィルムの編集ミスか? ちょっと面白いぞ。

 そこは変なんだが、アクションの画面作りは、森氏らしく、素敵だ。上空からのアギュラーの攻撃に、デビルマンが気付くとことか。デビルマンが身を躱す姿を映した、池の水面が衝撃波を受けて割れる。立ち上がったデビルマンを奥に配置し、水がざっと戻ってくるのを手前に見せて、水が画面いっぱいになると画面切り替え、というこの見せ方なんてカッコイイ!
 そういえば、「密着デビルビーム」は、今回が初出かな。森版デビルビームは、右腕を上に掲げるポーズが好きなんだけど。

 さて。サブタイトルである妖獣ファイアムは、そういうキャラであるからして、デビルマンと戦うのはアギュラーとザンニン。このアギュラーというのが、ちょっとイレギュラーな存在に思える。「知的生命体」である、デーモンではなさそうだ。吼えるばっかで喋らないし、デーモンに使役されるもののようだし。敢えて言うなら、人間にとっての家畜的存在なのかな。そういうのが他にもいるのかどうか、これ以降には出てこないから分からないけど。
 デビルビームでもびくともしない、頑丈な身体を持つ、この二本の首を持つ獣だが、こいつのことを知っているものには、洩れなく弱点も知れ渡っているらしい……。トホ。

 んで、その次は、久々登場のザンニン様が、いよいよデビルマンとの直接対決。魔将軍と呼ばれる実力者、その知られざる能力は、相手の超能力をことごとく跳ね返す胸。つうかあの位置は腹。でもやっぱり、「最大の武器」は事ある毎に振り回す、あの尻尾だと思うのですよ。
 ……そんでですね。
 この腐った眼が! 眼が! 近眼が! いやむしろ、視覚を処理する脳が腐っている。ザンニンに鞭打たれて、苦しむデビルマンに色気を感じました。ごめんなさい……。いや、だってほら、田中亮一氏の呻き声って、色気ありませんか(ストレートに言うとエロい)。私だけですかそんなこと思っているのは……。大体、あのシーン長すぎなんじゃよ(逆切れ)!

 ファイアムは、最後は池に落ちて、炎が消えてしまって、ジ・エンドだったようです。ある意味、自業自得と言えなくも無い結末。

ラスト、ミキちゃん達を炎から守って、気を失ったってのに明君、「ちょっと起きてよ明君、失礼ね!」なんて言われて不憫である。この時の、青空と焼け落ちた街の残骸との対比が、奇妙にコントラストを為して、街の惨状を際立たせている。そして、カメラが俯瞰視点になり、ミキちゃんには分からないが、視聴者にははっきりと分かる、地面に落ちたデビルマンの形の影。ちょっとシュールなラストです。


 この回、ファイアムのキャラがかなり強いおかげで、明君の出番はちと少なめでしたが。その分、学校での1シーンは、妙に印象的でしたよ。
 わざわざ枕を持参して居眠りする明君、妙に可愛くて良かった(笑)。そして、爆発音にも動じず、非常に暢気なマイペースで「あー、よく寝た」なんつって起きる、と。そんでもって、炎上してるコンビナートを発見、罅割れたガラスをものともせずに勢い良く窓を開け(ガラスの破片が、ちゃんとバラバラと落ちるのがまた細かい!)、「おっ、燃えてるー。景気いいじゃん!」とこれまた暢気に。本当に、ミキちゃんに害が及ばない限りは、物事に大雑把な人だね(笑)。
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