◇REVIEW◇

DEVILMAN

 1972年9月23日 放映
第十一話 「真紅の妖花 ラフレール」 
脚本/辻 真先 ■ 演出/鈴木 実(高見義雄) ■ 作画監督/津乃 一(角田紘一)
▼STORY▼

 ヒマラヤの氷の中を渡る影。ゼノンの呼び声に応じて現れた、悪魔の手を思わせる影は、美しい女性の容姿を持つラフレールへと変化。ゼノンは、ラフレールに、人間界に行き、ザンニンの指令を待て、と命じる。

 隅田川に現れたラフレール。その美貌で、橋の上を走行中のトラックの運転手を惑わし、川へ落下させる。そして、下水道を伝い、牧村一家の車の前に出現。その正体を看破した明は、マンホールの中に姿を消したラフレールを追う。
 三つの姿に分身したラフレールは、ザンニンの言いつけで、デビルマンを相手にするつもりは無い、と言う。水の中に沈んでいくラフレールを追おうと、デビルマンに変身する明。その時、明を心配した耕作がマンホールを降りようとして、デビルマン変身時に発生する雷に打たれ、重傷を負ってしまう。

 幸い、耕作の怪我は命に別状はなかったが、明はラフレールの真意が分からぬこともあり、苛立ちを押さえきれない。ミキが明を案じて部屋を訪れるが、苛々している明は、「てめえらに心配していただくほど、ヤワな出来じゃねえよ!」ミキに憎まれ口を叩いてしまう。ミキも怒り、「ひねくれ屋! 大っ嫌い!!」売り言葉に買い言葉で、二人は大喧嘩。

 感情を持て余し、家を飛び出す明。ボウリング場、ジャズバー、と明は街をさ迷う。大嫌いと言うミキの声が耳に甦り、明の心は追い込まれていく。その明の前に氷村が現れ、明に声を掛ける。実は氷村とラフレールの目的は、ザンニンの計略に従い、明を心理的に追い詰めることだった。「身体よりも心に受けた傷の方が、なお痛い。可哀相なデビルマン」

 川原で一夜を過ごした明は、せめてミキの姿を一目見ようと、ミキが通りかかるのを待つ。タレちゃんが、明が帰って来なかったことで、ミキを慰めているが、ミキは心配なんかしていない、と言う。それを見た明は、「これで用は済んだぜ。さて、行くか……。……行くって、何処へ行きゃいいんだい!」帰る場所も、行く場所も失ってしまったことに愕然とする。また、ミキに馴れ馴れしく接近する氷村の姿に、明のやり場のない苛立ちは激しく募る。

 氷村の予想に反し、明は教室に姿を現す。忘れ物、氷村との喧嘩のけりをつけるためだった。校庭で対峙する二人を、ミキが止めようとする。激昂した明が、氷村の襟首を掴み上げた時、氷村が左手を掲げ、同時に強い地震が起こる。右往左往する生徒達、氷村はそのどさくさに紛れて明から逃れる。

 プールの水が逆巻き、水飲み場が倒壊し、そこから三人のラフレールが現れる。怯えるミキを逃がそうとする明だったが、地面が罅割れ、ミキは地割れの底に落下してしまう。
 ミキを追って、下に降りる明。互いを気遣いあう二人に、ラフレールは「仲の良いこと」「ついでに仲良く、お墓にお入り」と、凍える息を浴びせかける。明は変身しようにも、ミキがいるため変身できない。やがて、ミキは眠ってしまい、明は眠気を覚ますために、岩で自分の腕を傷付け、デビルマンに変身する。

 デビルマンの姿に、逃げ出すラフレール。そして、ラフレールは醜い、巨大な正体を現した。デビルマンを髪で捉え、凍える息を吐きかけるラフレール。しかし、デビルマンは反撃のデビルアローでラフレールを倒す。

 ミキを助け起こす明に、ミキは夢現の中、デビルマンに助けてもらった、と話す。素敵だったわ、というミキの呟きに、何故か笑いが止まらない明だった。 
 
 綺麗な花には棘がある、とはよく言われることだが。珍しい、植物ベースのデーモン、「美しい容姿と数々の魔力を持つ」ラフレールの回である。っていうか、あれはラフレシアの花じゃないだろーか、サブタイトル画面の花は。そもそも、よく見りゃピンク地に赤の斑、っていう花弁の色使いも毒々しいし。名前もラフレシア+フレール(フランス語で花)、っぽい。デザイン的にも花をモチーフにしていて、花弁は襟、髪はメシベ、スカートはガク、胴は子房? 水を移動手段に使うのも、何となく植物っぽい。
 で、今まで出てきたデーモンの中では、非常に人間に近い、というか人間、といっても差し支えない容姿の、色っぽい綺麗なお姉さん系、と思わせておいて、本性はアレである。老婆のような紫色の巨大な顔、大きく裂けた牙の生えた口に、胴体はなくぶっとい棘付きの蔓が代わりに伸び、声までしわがれ声になるんだもんなー。ホントにデーモンというのは恐ろしい……。これが画面いっぱいのアップだもの。怖いですよ!

 この回は、『デビルマン』で唯一(混沌の十四話除く)、東映動画の社内班が手がけた回。映画『マジンガーZ対デビルマン』『マジンガーZ対暗黒大将軍』の作画監督で知られる、津乃一こと角田紘一氏の作画だが、ロックアウトの影響で、明らかに白土武氏(=赤土武士)の描いた絵も混在している。そのせいかどうか、ラフレールがデビルマンから逃げ出す場面、一度ラフレールが逃げてデビルマンが追っているのに、画面切り替わって、もう一度ラフレールが逃げ出す辺り、ちょっと変。デビルマンがラフレールに追いつくカットがあるなら、おかしくないんだが。
 ところで、明君のバイクのエンジン部がアップになって、「タイガー」という字があるのは、小ネタで笑った。こういう、自分とこのプロダクション名を入れるの、白土氏だけじゃなくて、小松原一男氏もよくしてる。人員募集してたりね(笑)。

 さて、手を変え品を変え、デビルマンを苦しめようとするデーモン族。この話では、デビルマン=明君の直情径行な、短気な性格を上手いこと利用した、ザンニン様のナイス作戦。まあ、短気というか、デビルマンというのは、何となくデーモンの中でも年若い「若者」って感じがします。後半出てくるようなデーモンに、小僧呼ばわりされてたりするんで。そういう「若さゆえの性急さ」を突かれた感が。大体、短気っちゃー、ザンニンも、絶対負けてないよね(笑)。ま、他人の欠点はよく分かるもんです。そういうもんだ。

 殊更に姿を見せ付けておいて、デビルマンと戦おうとしない、というのは九話のゴンドローマも使った手であるが。しかし少なくとも、ゴンドローマの場合は目的が分かっていた、でもラフレールは何のために? しかも、デビルマン変身のあおりを食って、牧村のおじさんは怪我をしてしまうし、でイライラ募る明君。
 これはもう、見る側の勝手な解釈ってヤツでしかないのだが、割と明君は、デーモンでも人間でも「大人」に隔意を抱いている所があるけれど、耕作おじさんには、結構好意的なんじゃないかと。初期企画の名残かな。おじさんも、明君に対してかなり優しいっていうか、信頼してるっていうか。その人が、自分のせいで怪我したら、まあ、面白くは無いですね普通は。
 それで、ついミキちゃんに突っかかってしまう明君。ミキちゃんにしてみれば、本当は文句も言いたかったろうに、それを堪えて明君を気遣ったのを、露骨に邪険にされてむっとくるのは当然。ここまでの喧嘩、後にも先にもこの時以外には無いよなぁ。何てったって、明君がミキちゃんにひっぱたかれるのを避けるんだもの。大体は、明君が次の日には折れちゃうのに。

 要するに、この喧嘩の原因は、直接には明君の変身に伴う事象。それはつまり、明君がデビルマンであることが、そもそもの根っこにあるわけである。番組通して、最後まで不偏の命題。だからこそ、挑発するためにラフレールは現れたんだし。
 それが、バトル後にミキちゃんが、デビルマンを「素敵だったわ……。ねえ、明君もデビルマンに助けてもらったんでしょ?」と言うことで、明君のちょっとした気持ちのわだかまり、面白くなさも氷解、完全仲直り。明君=デビルマンということは、「誰も知らない知られちゃいけない」んだけど(この時、EDの二番がBGMで掛かってるのが、心憎い演出だと思う。もうこれで帰れーなーいー♪)、自分の知られちゃいけない正体を、ミキちゃんが褒めたのを、明君、実は嬉しくて堪らない気持ちが溢れてます。「ああ、『デビール』なんつってよ。変なヤツだったな。でも、強かったぜぇあいつ」でもね、気持ちは分かるんだけど、最後の笑い顔、ちょっと凶悪だよ明君……。んでラスト、ミキちゃんをバイクの後ろに乗せてるのが、一人で飛び出した時の図と、非常に対比的ですネ。

 絵といえば、ラフレールへの気合入りっぷりは凄いッス。ロングバージョンのエンディングにも使われている、手の形の影がひゅるひゅると伸び、蕾が花開くように、髪がばっと開いてレオタードのような衣装に身を包んだ後姿がフラッシュとともに現れる。でも、画面が切り替わるまで顔は見せない。そして、髪が揺れると、その容貌をようやく見せる。
 どうですこの過剰なまでの演出。しかも、出てくるたび、いちいちモデルみたくポージングを決めて。
 で、そういう美女型デーモンでも、容赦なく醜い姿にしてしまうのは更に凄いですな……。髪の毛を武器にするデーモンは、この後も結構出てくるけど、ラフレールがその走りか。

 そうそう、ラフレールを追って入った下水溝、物音にはっとすると、それはネズミで、「何だネズミか」とでも言いたげな、ちょっと気合をそがれたような表情の明君、可愛い(笑)。

 現代の防災観念からすると、地震のとき、建物の中に入ってはいけません。避難にはなりません、広い場所に出ましょう。まあ、この時みたいに地割れが起こったら、何処にいても危険でしょうけど。しかしミキちゃん頑丈だなぁ(笑)。結構な高さから落ちたと見えるのに、足の怪我だけで済んでるって。

 それにしても、段々へたれていく氷村。あの登場は何だったのよ! 明君への対抗意識は何処へ行った! 詐欺だ!! 明君に喧嘩売られて、「話せば分かるじゃねぇか」って……お前は東大寺か!! ……失礼。いやいくらザンニンの指示だからって、氷村の何ともいえない凋落っぷりに、思わずトホホ、と……。


 今回の邪推の類。ラフレールの花びらを拾い上げ、「この仕返しは必ず」と言う氷村、ひょっとして、ラフレールとそういう仲だったのか……? と私は思いましたが。
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