◇REVIEW◇

DEVILMAN

 1972年9月16日 放映
第十話 「妖獣ガンデェ 眼が歩く」 
脚本/辻 真先 ■ 演出/鈴木 実 ■ 作画監督/落合正宗
▼STORY▼

「ガンデェ〜」「ガンダー〜」「ガンダガン〜……」デーモン達の呼び声が、ヒマラヤ山脈に木霊する。姿を現さないガン三兄弟に、ゼノンはデビルマン討伐の任を察して、人間界に向かったのだろう、と推測する。

 牧村家、留守番をしていたタレちゃんは、配達された明宛の小包を受け取る。曰くありげに帽子を目深に被り、ハンコも貰わず無言で立ち去る郵便屋を、タレちゃんは不思議に思う。牧村家の門外に出た郵便屋は、帽子のひさしを持ち上げる。その下には、巨大な一つ目があった。
 その一つ目に驚く子供。子供をたしなめる母親は、夫のアルフォンヌに同意を求めるが、アルフォンヌは妖艶な女性の姿に見とれていた。しかし、振り返ったその女性の顔も、一つ目だった。気絶する夫妻。

 タレちゃんは、明に届けられた小包の中身が気になって仕方が無く、無断で開けてしまう。蓋を開けたタレちゃんは驚く。箱の中には何も無かったからだ。「無い! 何にも無い! 無さ過ぎる……」底もなく、黒く広がる空間の向こうから、タレちゃんを見つめる、赤い光を放つ目……。タレちゃんは悲鳴を上げてひっくり返るが、その悲鳴に駆けつけたミキが箱を見たとき、そこにはただの空箱があるだけだった。その「目」は戸棚の戸の隙間に光っていた。

 帰宅してきた明は、自分の行動を見つめる視線を感じる。玄関に飾られた花瓶の影から覗く「目」。
 夕食の支度に取り掛かるミキ。ミキに目玉焼きを見ているように言われたタレちゃんが、フライパンを見ると、目玉焼きにさっきと同じ目が開く。だがやはり、目は明とミキが見たときには消えていた。

 夕食の席につく三人。ミキはタレちゃんを笑うが、明はデーモンの気配を感じ、その目の正体を警戒する。果たして、スープの中に出現する目。ミキとタレちゃんを外に逃がす明。姿を現したのは、妖獣ガンダガンだった。明は変身して、応戦する。デビルチョップ、デビルウィング、デビルカッターでガンダガンを倒したデビルマン、その死体を見ると目が消えていた。「ガンダガンには確か、兄と妹がいた筈」デビルマンは、不審を抱く。

 学校、試験中の明はまたも「目」の気配を感じる。現れたのは、アルフォンヌ夫妻が見た一つ目の女、ガンダー。ガンダーに挑まれた明は、デビルマンに変身し、デビルアローでガンダーを倒す。ガンダーの死体にも、やはり目が無かった。ガン三兄弟の意図を疑わずにはいられないデビルマンだが。

 明とミキとタレちゃんは、連れ立って、デパートに怪獣コンクールを見に行く。その中の一枚の絵に、明は見覚えがあった。それこそがガンデェ。実体化したガンデェ、明はミキとタレちゃんを逃がす。デビルマンに変身し、ミキとタレちゃんが乗ったエレベーターを、無事に下ろすと、デビルマンはガンデェと対決する。

 デビルマンの攻撃をことごとく予測するガンデェ。実は、その三つの目の一つ一つがガン三兄弟の本体で、目さえ残っていれば、何度でも再生可能なのだ。その能力を利用して、デビルマンを事前に襲撃し、能力を偵察していたのである。
 三対一、羽交い絞めにされ、武器を封じられるデビルマン。デビルビームとデビルアローの併せ技で、三兄弟の目を眩ませることに成功し、「その命、貰った!」それぞれの目を打ち砕いた。
 
 ……のっけから何ですが、ちょっとこの回の絵は苦手かな……。冒頭、ゼノンがいつものゆらゆらシルエットから、NG版、つまり原作に近い姿になるんだけど、イマイチ重厚感が無いっつーか、安っぽい感じがして。冒頭、ガン三兄弟を呼ぶデーモンは、まあいわゆる「小悪魔」「使い魔」レベルのデーモンなんだろうが、その戯画っぽい感じが、ちょっと「浮いてる」感があるのだが。ミキちゃんは、まあまあ結構可愛いか(結局それかい)(いや、とにかくミキちゃんは可愛くなくちゃ、でしょ)。あ、それと、線画のクリンナップの甘さが目に付いたのが、ちょっと。

 そんなこんなはともかく、今回はずばりサブタイトル通りの「目」の妖獣。八話のイヤモンの回では、象徴的に使われていた「目」だが、今回は目が本体のデーモンである。ひまわりみたいな顔周りのガンダガン、目の上に口がついてるガンダー、にょろにょろした触手上の先っぽに目がついたガンデェ。これは確かに、「大人のセンス」じゃなくて、子供の「自由な発想からくる奇抜さ」の産物かもしれん。質感がちょっとゴムっぽいと思った。ガンダーにデビルビームが効かなくて、絶縁体? と思ったせいかも(笑)。それと、体毛の無い感じが。むにょーんと伸びるし。

 そういえば、アニメの『デビルマンレディー』でも、不動ジュンが視線恐怖症になる話があったが。「誰が見てるか分からないけど、確実に見られてる」感つーのは、大人でも子供でも不気味なもの。それが、タレちゃんみたいな臆病な子なら、その恐怖は尚更である。ということで、導入からオチまで、タレちゃんを上手く利用している。

 よしゃいいのに(笑)、明君宛の小包を勝手に開けてしまうタレちゃん。余談ながら、牧村家は東京は練馬区にあるそうだぞ。で、箱の中はなーんにも無い、何も入ってないならまだしも、底も無い。ここで、視点はタレちゃんを見る第三者の目と、タレちゃんの視界との二種類になる。点滅する赤い光。「あれは何だ? 何だ?」と、画面いっぱいの暗闇からこっちをじーっと見つめる、黄色い目になる。タレちゃんが感じた恐怖を、視聴者にも否応なく見せつける仕掛けですね。
 その後も、隙間からじーっと窺う目、明君が視線を感じてきょろきょろするも、何処から見られているか分からない目。明君とミキちゃんが玄関から去ると、花がさっと倒れて、その向こうから見える目。もう、視聴者が「明君、明君、そこ! そこ!」と教えてあげたくなるシチュエーションである。

 にしても、ガンダガン・ガンダー共通なのだが、それまでは部屋だった場所が、飛び上がると突然に異空間になるのが不思議感。あれは完全に異世界だよなあ。食堂でデビルマンに変身したのに、頭つっかえてなかったのはともかく、デビルウィングで飛んでたし(笑)。特にガンダー戦なんか、岩山があったりして、「……ここ何処!?」などと、見てる方は思っちゃったりした。
 教室からジャンプしたら、何か異世界。で、普通はジャンプしながら変身する明君を見せるんだろうが、ここでは下半身からデーモンの姿になるガンダーを映す。で、ガンダーが「遅いじゃないか」と下を向くと、「何処を見ている、ガンダー!」と、更に上方で腕組んでるデビルマンの姿がある。この辺の演出なんかはスピード感があるかな。

 つーのも、ガンデェ戦、やたら「スローモーション」が多用されてるのが、どうかと個人的には思ったので。スローを使う手法っていうのは、ここぞ! という時に使ってこそ効果があるんじゃないかと。

 置いておいて。目の話である。
 ガンダガンの目のせいで、やたら怖い思いをしたタレちゃん。学校の授業中、美留久先生が黒目取り外したした眼球の模型にも悲鳴。「だって、僕、目玉大嫌い……」目玉単体が好きな人は、あんまりいないだろうねえ(笑)。いきなりここで、ドン! と目玉の模型を見せるのが、インパクトだ。そんで、立たされたタレちゃんに近寄ってきた男児の額に、またも目! これがふよふよと浮いて、しゃくとり虫みたいに壁を登っていくビジュアルがキモチワルイのであります。で、この後、目は明君の教室に移動、と。

 ガンダーの目に明君が投げつけた万年筆、刺さってタラ〜と流れるのが、血でなくてインクなのに、何か妙に痛そうだ。刺さった時の音のせいもあるかも。で、続いて明君が投げるのがコンパス。鋭利な先端のものばかり……。これは牙の生えた口ではっしと。もわもわ〜と立ち上る黄色い煙、有毒ガスみたいです。ガンダガンの時もそうだったが(一応、ガンダガンのはスープが蒸発していたらしい)。

 で、ガンダガン、ガンダー、とデビルマンの能力を偵察して、いざ本番。その前に。デビルマンがワイヤを掴んで、エレベーターをゆっくりと降ろしていくんだが、意識は目の前の敵よりも、ミキちゃんの安全最優先なのね、完全に(笑)。そんでまた、ガンデェが致命的になるような攻め方をせず、もう単なる嫌がらせのように、デビルマンを背中から蹴ったり殴ったりするのが、何だかなあ……(苦笑)。デビルマンの手元をアップで映すので、「うわ、これ絶対、手の皮剥くぞ!」と思ってたら、案の定、ずるっ、とワイヤが滑って紫の血が。いかにもデーモンらしい(?)嫌がらせだ。
 ガンデェは最初は三つ目で出てくるが、この左右の目がそれぞれ、ガンダガン、ガンダー。ふよーと目が浮いて、ガンダガンとガンダーの姿になり、デビルウィングを掴み、デビルカッターを出すベルトを押さえ……。目が離れたガンデェ、先っぽが細い鞭状になり、尻尾でデビルマンの腕を押さえ、羽交い絞めにしてぴしぴしと打つ。三者が三様の笑い声を立てながら。うわー嫌な絵……。しかし、本当にデーモンという奴らは、「すぐには殺さない」でじわじわいたぶる方法が好きだな。

 この三つ子の命は「目」であるからして、デビルマンがこいつらに勝つためには、目を潰すしかないわけだ。目を潰すには、強い光を放って目を眩ませる必要がある。それが最後のデビルビームとデビルアローの併せ技……デビルアローは超音波でないんか。ここんとこ、シナリオではネオン塔を爆発させて、その光で目くらましをさせる予定だったそうだ。画面上では、デビルビームとデビルアローの「光の相乗効果」に見えるが、とりあえず、「目を眩ませた」ことが分かればいい……んだ? ……いいんじゃないでしょうか。


 ラスト、ミキちゃん曰く、「タレちゃん、ノイローゼらしいわよ」明君「へー生意気に。どんな具合?」とタレちゃんの頭をぐりぐりすると、タレちゃん上方を見て口から泡。「……こんな具合」とミキちゃんが呆れ、タレちゃんの視線を辿ると、瞬きする目のオブジェがついた「辻眼科」の看板というナイスオチ(笑)。

 この回、上記の台詞もそうだが、食堂でのミキちゃんと明君のやり取りでの、明君のちょっと「トボケた感」の喋り方が、結構好きだったりする。

 ところで、この回ならではというと、やはりアルフォンヌ先生のご一家かな。七話とかで出てくる、アルフォンヌ先生の自宅を見てると、どーもしがない独身男にしか見えないんだけど。ちゃんと家族がいたんだね。一話で東大寺が「家庭では奥さんにいびられ」(それにしても、東大寺、この時『先生を守ろう』と言いつつ、かなり酷いこと言ってるよな。笑)と言っていた、アルフォンヌ先生の奥さんご登場。確かに、完璧尻に敷かれてるご様子。
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