◇REVIEW◇

DEVILMAN

 1972年9月9日 放映
第九話 「脳波妖獣 ゴンドローマ」 
脚本/高久 進(クレジットでは辻 真先) ■ 演出/鈴木 実 ■ 作画監督/白土 武
▼STORY▼

 魔王ゼノンは、脳波妖獣ゴンドローマを呼ぶ。ゴンドローマの能力を持って、人間界を混乱に陥れ、その混乱に乗じて、デビルマンの脳波をコントロールし、デーモンの世界に引き戻せ、とゼノンは命じる。ゴンドローマはいとも容易いこと、と答え、人間界へと赴く。

 タレちゃんに目をつけたゴンドローマは、ハツカネズミに自分の分身を宿らせる。ペットショップでそのハツカネズミを見たタレちゃんは、気に入って購入。
 ネズミ嫌いの牧村夫人は、捨ててきなさいと言うが、耕作がとりなして、タレちゃんはハツカネズミを飼うことを許される。ミキにじゃれつくハツカネズミが、少し羨ましい明。

 その夜、ゴンドローマの声を受け、ネズミが凶暴化、タレちゃんに襲い掛かる。すんでのところで、ネズミは明に殺されるが、ネズミが人を襲うことが信じられないミキは、明を「野蛮人!」と詰る。絶交を言い渡すミキに、明も「こっちこそ、君みたいなじゃじゃ馬と付き合うなんて、真っ平ゴメンだね!」と憎まれ口を叩く。

 ミキが明と喧嘩したことを聞きつけた氷村は、ミキに接近する。ミキが可愛いペットが欲しい、と言うのを聞いた氷村は、黒猫をプレゼントする。明に嫉妬させ、勝負を挑ませるためである。だが、この黒猫にも、ゴンドローマの分身が宿っていた。
 果たして、ミキが連れ帰った黒猫は、ゴンドローマに操られ、ミキに牙を剥く。右腕を引っ掻かれるミキ。ゴンドローマから指示された黒猫は、ミキの悲鳴に駆けつけた明を誘い出す。街外れの廃ビルで、黒猫に追いつきバイクではね飛ばした明。その前にゴンドローマが現れ、生物を操る能力を明に見せる。ペットを使って人間界を混乱させ、最後にはデビルマンの脳波をコントロールし自ら乗り移り、地獄の使者に仕立て上げてやる、とゴンドローマは明に語る。明はデビルマンに変身して、ゴンドローマを倒そうとするが、ゴンドローマは姿を消してしまう。

 ミキは、明の言うことが正しかった、と謝罪する。明は、氷村が何処から黒猫を連れてきたのか気になり、直接氷村に問い質す。明を倒したい氷村は、ミキが自分に気がある、と明を挑発するものの、明は今はそれどころじゃない、と走り去る。明が懸念するのは、ゴンドローマが動き出すときだった。

 その時が来た。ゴンドローマはありとあらゆる動物に自分の分身を乗り移らせ、人間を襲わせる。ペットショップの動物達が、カラスが、溝鼠の群れが、次々と人間に襲い掛かる。街には、警察によって外出禁止令が出された。

 この事態を打開するには、ゴンドローマを倒すしかない。明は、ミキ達が止めるのを尻目に、外に飛び出す。ゴンドローマを油断させるため、人間の姿で、ゴンドローマが潜んでいる筈の廃ビルへ向かう。

 そこには、ゴンドローマの罠が仕掛けられていた。明は拘束され、ゴンドローマの発する催眠光線を浴びせられる。催眠光線に耐えるため、明は落ちていたガラスの破片で、自らの足を傷付ける。
 催眠に掛かったふりをした明の前に、ゴンドローマが姿を現す。明はデビルマンに変身する。デビルマンの逆襲を受け、逃げ出そうとしたゴンドローマを、デビルマンはデビルアローで倒す。
 一夜明け、動物達はゴンドローマの催眠から解き放たれていた。
 
 さて、この回に登場する妖獣は、脳波をコントロールする能力を持つゴンドローマ。デビルマンを「倒す」のではなく、デーモンの世界にデビルマンを再び「戻す」ために、やってくるデーモン。
 脳みそむき出しみたいな頭に、第三の目を持って、獣っぽい下半身がミスマッチな、あんまり戦闘的ではないデーモンである。実際、腕組んで分身に活動させて、いざデビルマンと直接対決、となるとかなりちょろくやられている。デビルマンに催眠逃れの傷が無ければ、多分もっとあっさりやられてただろうね。

 ちょっと、脚本的に引っかかる箇所が、デビルマンを「悪の世界に引き戻せ」というゼノンの言葉。この「悪」というのは、人間からの概念であって、デーモンからすれば、デビルマンが裏切ったことのが「悪」じゃないのだろうか。正しきデーモンの道に戻せ、なら分かるが。デーモンというのは、人間とは違う生態、違う思考、違う倫理を持っている、人間とは全くの別種族であって、人間に害を為す行為というのは、デーモンにとって「悪」じゃないんじゃいかなあ。これはやっぱり、高久氏ならではの書き方なんだろうな。後の『マジンガーZ』のDr.ヘルみたいだよ今回のゼノン様。
 それと、これを言ったら、今回のお話が続かなくなるんだけど。道行くタレちゃんを見て、それだけでどうしてペットショップに行くと分かったんだゴンドローマ。

 ……ともかく、ゴンドローマは分身をハツカネズミに取り付かせて、タレちゃんの注意を引くように鳴き、連れて帰らせることに成功するんだが。タレちゃん、「かーわいい、こいつに決めた」と言うが、正直、あのネズミは……可愛いか? ハツカネズミは、あんなに耳でかくないし、そもそも耳の形が違いますよ。で、もっと体型は丸っこい感じなんですが……ま、細かいことは抜きにしようかー(へー)。明君が、「でもこいつ、可愛い顔してるじゃねえか」と言ったことに、ちょっと「!?」と思ってみたりもした。明君でも、動物を可愛いと思ったりするのねと(あんたは明君を一体何だと)(悪魔)。あ、でも、にゃんこちゃんは素直に可愛いと思ったよ、念のため。

 この回の主題というのは、やはり「身近にいたものが、突如として牙を剥いて襲い掛かってくる恐怖」だろう。いつの間にか、「悪意」が音もなく忍び寄り、日常の中に何気ない顔して紛れ込んで、ある日その「悪意」を発露させる。最近でいうなら、頻発するイスラム過激派テロに感じる恐怖の類と、この感覚似てないだろうか。平穏裡に暮らす、敬虔な大多数のイスラム教徒の中に潜み、兇暴な破壊活動を行い、無差別に大勢の人を殺す。
 この『デビルマン』が放映されていた1972年という時期は、日本赤軍によるあさま山荘事件が起こった年だから、何処かそういうテロル的なイメージが、デーモンに投影されているのかも。

 ゴンドローマが動物を操る方法というのが、指をぽっきり折るっていうか外して、それを投げると、分身の小型ゴンドローマになり、それが動物に取り付くというものだが。孫悟空を思い出した。じゃなくて。簡単に指を外して、むにょーと指が生えてくる、この「無造作感」が……何かヤな感じ。当のゴンドローマが痛みを全然感じてなさそうなところとか、またあっさりと指がなんぼでも再生するところとか。とってもお手軽感覚で……。
 で、Aパートでは小指だけで、牧村家周辺だけを狙っていたのが、Bパートでは「時は来た!」って、左手の指四本まとめて引っこ抜いて投げ、まさにちぎっては投げ状態。

 で、第三の目を使って、催眠光線を明君に浴びせて、そんでもって彼の脳波をコントロールしようとする能力もあり。こっちの能力の方が本命か。関係ないが、この時崩折れた明君の座り方がオネエ横座りに見えました、と。関係ないと言えば、明君は何処からチェーンを入手してきたのか。前回の鞭といい(笑)。
 話戻し。意志の力を奪い、ゴンドローマ自身がデビルマンに乗り移ろうとする。分身が動物にやってたことを、自らやろうというわけだ。……出来なかったけど。それはさておき、知的生物であるデーモンであるデビルマンに対しては、やはり自分で操るしかないのか。ちょっと不経済だな(そういう問題では)。


 それにしても、高久氏の脚本の回って、偶然かもしれないが、氷村の役回りが間抜け。
 ゴンドローマは、ゼノンにザンニンの指示を仰ぐよう言われてないから、独自に動いているんだろうし、だとすればザンニンの配下である氷村は、ゴンドローマのことを知らないわけだ(明君=デビルマンも、ゴンドローマのことは知らなかったが)。で、何も知らずにゴンドローマの分身が宿った黒猫を、ミキちゃんにプレゼントする……。ゴンドローマに一方的に利用されてます。という風にしか見えません。
 また、明君に黒猫の出所を問い詰められた時も、明君に背後からメリケンサックで不意討ちするも、あえなく一本背負いで投げられたり。しかも、相手にされてない。
 もうちょっとしっかりしろよ……気障な台詞吐くだけでなくて(苦笑)。明君に勝ちたくてしょーがないのは、分かったから。それにしても、ザンニン様は七話〜十話までお休みだけど、どうしたのかな。十一話では会話に出てくるだけだし。

 そうそう、明君、デーモンの正体を知られてはマズイのに、うっかりミキちゃんにゴンドローマの名前を口走ってちゃ、ヤバイでしょ。自分では、ミキちゃんに話しかけてる、つーより、独り言のつもりだったかもしれんが。……キルスキイやドリムーンの時とかにも、豪快に名前言ってたっけ……。

 五話の高久氏の脚本の明君は、何だか正義のヒーローでしたが、今回はそうでもなかった。操られたネズミや黒猫はあっさりと殺してるし。自分の言うことを信じないミキちゃんには、むくれるし(でも自分が折れちゃうんだな)。語らないしね(笑)。その代わりと言っちゃあ何だが、最後のカットの明君の顔、すっごい濃かったですぞ。鉛筆線が入りまくりで。
 しかし、白土氏の描く明君は、仕草などに独特の「可愛げ」があるので、結構好きですが。階段の手すりの上を滑り降りてくる明君なんて、好きだなあ。この場面のドアノブの位置は変だったけどね! 猫用出入り口をみたいでした(揚げ足取り)。

 そういや、デビルマンの変身は、この回の一回目の変身が、コレ以降のバンクの基本になりましたな。今までは一話の小松原氏変身バンクに、三話の頬の引っ掻き傷、六話の高速道路背景を加えたものだったけど。おかげで(?)、八話の変身、教室の中なのに、街灯があるんですけど……! だった。
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