◇REVIEW◇

DEVILMAN

 1972年8月26日 放映
第七話 「恐怖の人形使い ズール」 
脚本/辻 真先 ■ 演出/鈴木 実(茂野一清) ■ 作画監督/小松原一男
▼STORY▼

 寒風吹きすさぶヒマラヤ山脈の洞穴の中、粘土をこね、人形を作る妖獣ズール。ズールが作る人形は、同じ姿をした人間に影響を与えることが出来る。強風に煽られ、落ちて壊れた人形と同じ顔の男は、モーターボートを操縦中に岩に激突し、ズールの手で蝋燭の火にあぶられた人形は旅客機のパイロットで、自然発火現象を起こして操縦不能になり、飛行機は爆発炎上してしまう。その魔力で、ゼノンは人間に生と死の境に立つ恐怖を味わわせてやれ、と命じる。

 ゼノンの思惑など知る由もなく、明とミキはバレーボールの試合を観戦。試合終了後、お目当ての人気選手に、サインを貰おうとするミキ。しかし、ミキの目の前で、選手の身体は真っ二つに千切れてしまった。ミキの悲鳴に駆けつけた明は、その事態に驚く。
 無論それはズールの仕業だった。真っ二つにした人形をぶら下げて悦に入るズール。マイペースなズールに、ボディガードを買って出たアビルは呆れながらも、牧村ミキの人形を作らせようとする。ミキの顔を知らないズールは、あてずっぽうには作れないから見本を寄越せ、と返す。そこでアビルは一計を案じる。

 学校、明がミキと一緒に帰ろうとすると、ミキは美術室で氷村の絵のモデルになっていた。「氷村君と二人きりで話があるの」と言うミキがただでさえ面白くない明。その上、氷村に「男のやきもちはみっともない」などと言われ、ミキにはすげなく扱われ、挙句の果てには氷村の手を取って出て行くミキに、頭に来て一人で大暴れ。そこへアビルが現れ、ミキと氷村に炎を浴びせかける。飛び出した明はデビルマンに変身して、アビルを追うが、アビルはデビルマンと戦おうとせずに去って行く。
 絵が紛失しているのに気付いたミキに、絵を探すよう言われた明は、アビルがミキの絵を持ち去ったことに不審を抱く。

 アビルから、持ち帰ったミキのスケッチを渡されたズールは、アビルにせっつかれなが ら人形作りに着手。ミキ人形を完成させると、早速壊そうとするが、アビルに対デビルマンの切り札にするからまだ壊すな、と止められる。
 一方で、明はアビルがミキの絵を奪っていった理由が、気になって仕方が無かった。ふと、ラジオでの事故のニュース報道を耳にし、ズールの魔力を思い出した明は、その企みを食い止めるべく、ヒマラヤのズールの棲家へと飛ぶ。

 デビルマンが感付いたことを知ったアビルは、早速打って出るが、デビルマンに敵わない。ミキ人形を、とズールに叫ぶアビル。だが、肝心の人形の置き場所を忘れてしまったズールは、人形をなかなか探し出せない。ズールが人形を捜索している間に、アビルは倒されてしまう。焦るズール、ようやく人形を見付けるが、時既に遅し。「ズール、もう充分楽しんだろ。今度はこっちの楽しむ番だ」人形を手にする前に、デビルマンに引きずられ、殴られ、クレバスに投げ落とされる。

 デビルマンはズールの洞穴を永久に封じ、日本に帰っていく。
 
 作画の小松原一男氏お気に入りだ、というズールの回。実はですね、ちゃんとDVD見るまで、私、19話のアダルの回と、このズールの回、混同していたことが発覚しました。人形がマネキンだと思ってたんですよ。そんなでかい人形じゃなくて、フィギュアサイズだったんですな。

 そんなどーでもいいことはさておき、全体的にコミカルな感じが光る回ですな。これはズールというキャラクターのせいもあるだろうが、明君も全体的にコミカルな動きしてて可笑しい(笑)。

 このズール、形があってないような、まさにずるずるずるずる、デレデレ、という動きの妖獣で、こういうのはアニメじゃないと出来ない表現だな。「二本の脚」もないし。で、当然、そんな動き方するヤツが、今までのデーモンみたいに、直接デビルマンに打ってかかる真似なんて出来よう筈もない。ズールのデーモンとしての「任務」は、人形を作ってはそれを壊すこと。ゼノン様お墨付き。
 顔も(胡散臭い関西弁の)喋り方も何処か暢気で、トボケた感じのデーモンだが。他の、人間やデビルマンに対して、明確に「悪意」「敵意」が感じられるデーモンとは一線を画しているのは確か。自分で「心の優しいデーモン」などとぬかすが、はっきり言って、玩具感覚で殺される人間の方はたまったもんじゃないっつーの。しかも、直接手を下さないわけで、殺される方はもう、何が起こったのかワケが分からない。そう思ったら、「オメエが一番残酷だよ!」と突っ込みを入れたくなるね! ボディガードを買って出たというアビルが、いかにもデーモンらしいデーモン、の言動をするだけに。そういう、ズールとアビルの対比の構図もあるが、そもそも、ズールっつーのが、他のデーモンと違って、自ら日本に出向いてデビルマンと対決するようなタイプではありえないから、アビルの存在はこの回必要なんだけど。今まで防衛戦だったデビルマンが、この回、初めて打って出てるし。

 でまあ、ほとんど二頭身、の見た目に騙されそうになるズール、よく考えたら、ゼノンに対して、人形を作るより壊す方が楽しい、と言っている。壊すために作る。それって、感性として、何つーか、サイコとゆーか。そういう意味では、確かに「恐怖の人形使い」。
 だって、あてずっぽうに作って、気紛れに壊すんだよ? たまたま人形に似てるってだけで、首をねじ切られたり、真っ二つにされたりするんだよ? 殺意なんて無くて、もうそれは本当に、ただ「人形を壊す」感覚で。相手がどうなるか、無論分かった上で。変な言い方だが、まだ「殺す」意志がある、他のデーモンの方がまっとうだよな、知的生命体として。子供の持っている、「悪意の無い残酷さ」にも通じるか。あるいは、ゲームで敵を倒したりする感覚。命を奪う自覚が無いまま、命を奪っているという行為。

 考えてみりゃ、単に「ミキちゃんを殺す」だけなら、アビルが学校に現れたとき、火ぃ吹いて焼き殺してしまえば済むわけだ。それをわざわざ似顔絵持って帰って、ズールに人形作らせるなんて手間かけるのは、要するに「デビルマンの泣きっ面が見たいから」で、デビルマンが手も足も出せないようにして、煩悶するのを見て楽しみたいのね。あのデーモン族きっての勇者・デビルマンが、ちっぽけな人間風情を質に取られて、抵抗も出来ずに苦しめられ、嬲り殺しにされる様を楽しむ、なんてーのはデーモンとしたら「正しい喜び」なんだろう。
 そもそも、企画では“デビルマン”というのは「デビル一族の勇者に与えられる名称」で、3話のゲルゲも「裏切り者の貴様に、『デビルマン』を名乗る資格は無い!」なんて言ってるから、非常に名誉ある称号。その名を持つ者に対して、そうそう対抗できるデーモンが、わんさか居るわきゃないでしょう。だからこそ、氷村がデビルマンを監視し、傷を負わせる任務を担ったりするわけだ。実際、この回のアビル、デビルマンの来襲に気付いて、威勢良く飛び出したはいいが、ズールが人形どっかにやっちゃった(足元の氷の割れ目に落っこちてるのが、何となく横山やすしのメガネを思い出したよ)せいで、デビルマンに逆にボコボコにされて、デビルカッターでもなくデビルアローでもなく、デビルビームでもなく、チョップで倒されちゃうしなー。この時、デビルマンがデビルウィングでアビルの炎から身を守るんだが、「防禦膜にもなる反重力膜で、空を飛ぶ。この防禦膜で身体を覆うと、直撃のミサイルからも、身を護る」という企画書の能力が一度だけ活かされてるね。

 アビルが「ボディーガード」を務めるくらいだから、ズール自身には戦闘力は皆無。ひょっとして、肉体的には人間相手でも勝てないんじゃないか、コイツって感じ。その分、動きは面白く作られてる。足元なんかむにゅむにゅしてるっていうか、液体っぽくないし、半固形っていうか、ドロっとした感じでもなし、ゴムっぽくもなく。……えーと、足のないゴン太君(笑)? 一所懸命ミキちゃん人形を探すときなんか、外ではアビルがデビルマンにボコられてる最中だってのに、ぽえん、ぽえんってSEも相俟って、緊張感の無いことこの上ない。
 そんなマイペースなズールも、アビルが倒されると、それでもようやく危機感を持ったらしく、焦って洞穴の中を見回す。すると、やっと氷の割れ目にミキちゃん人形発見。……が、飛びついたのに、逆にずるずると人形から引き離される。ここで「はれ?」とズール視点、ズールの裾(としか言いようが無い)を掴んだデビルマン。で、そのままズールを足から引きずっていくんだけど、この辺りの見せ方は上手いよなー。まんま真横から見た絵っていうのが、いかに間抜けな構図かもよく分かる。

 で、デビルマンは、当たり前だがデビルマンであるからして、相手が弱かろうと何だろうと、またぜーんぜん容赦しないのね、素敵(笑)。ひとしきり殴った後、クレバスにズールをポイ。「アホくさ」とでも言いたげに、最後に溜息をつく。実際、アホくさかっただろう。デビルマンにすりゃ、爽快感も何もあったもんじゃないし。


 ああ、動きが面白いといえば、明君もだ(笑)。バレーボールの観戦では、いかにもミキちゃんに無理矢理連れてこられました、みたいな感じだし。足代わりか? エキサイトするミキちゃんにエルボーを喰らって、激しくむせこんだ後、ミキちゃんに「明君、静かにしてよ!」と怒られ、「全く、やかましいのはどっちだよ」「いーっだ」とか言ってむくれてみせたり。
 一連の美術室での氷村とミキちゃんとのやり取りも、もう、明らかにヤキモチ全開って感じで。いきなり、君は猿か! とでも言いたくなるように、胸をどんどん叩いて、氷村とミキちゃんの間の机にどっかり座る。ムキになってミキちゃんの絵を破ろうとして、ミキちゃんに怒られて氷村に向こう脛蹴られて悶絶。「もーあったま来ちゃうなもー!!」と、駄々っ子よろしく地団駄踏んで大暴れ。もう、何ていうか……微笑ましい(笑)。そういや、この回で氷村に“ライバル属性・気障”が追加された模様。「これは芸術だ」なんて台詞、「ゲージュツ」ってルビ振りたくなっちゃうね!

 で、この後も明君は微妙に不機嫌モードで、アビルを追っ払った後、ミキちゃんに抱きつかれて「やっぱり俺がついてなきゃな」といい気分になったのも束の間、「氷村君、大丈夫?」と言うミキちゃんに、眉毛8時20分。この後も、アビルがミキちゃんの絵を持っていったことで頭が一杯になり、レースの事故報道の話題をふるタレちゃんにも、「あー凄い凄い」ナゲヤリ返事。ミキちゃんに「明君宿題一杯なの?」と声かけられても「うるせえ! 今、考え事してんだよ!」……つくづく、小器用に立ち回れない人だ。でも牧村家の皆さん! 明君は宿題なんてしないと思います!
 その後、ラジオから聞こえてくる音楽にイライラして、明君ラジオをバシッ。番組がニュースに切り替わり、そこで「巨大な手で押しつぶされた人形のように……」というくだりで、明君がズールに気付く。この繋がり、何気ないけど上手いと思う。

 それにしても、今回、ミキちゃんの尻に敷かれっ放しの明君。ラストも可愛らしくて(笑)良かったです。個人的には、ミキちゃんの「オヌシ」が聞けて嬉しかった。実はヒマラヤ帰りの明君、時差は……調べるの面倒くせえ(……)。頭まで布団をかぶって寝てると、ミキちゃん起こしに来る。ミキちゃんに「さあ起きて起きて!」布団を剥がれると、パンツいっちょで寝てました。はい、明君のパンツはいわゆる某サルマタでございましたね! ブリーフではありませんでした!(パンツネタでシメかよ)
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