◇REVIEW◇

DEVILMAN

 1972年8月19日 放映
第六話 「ロクフェルの首」 
脚本/辻 真先 ■ 演出/新田義方 ■ 作画監督/森 利夫
▼STORY▼

 デビルマン打倒のために、ゼノンは妖人ロクフェルにその命を授ける。誇り高きロクフェルは、ザンニンの指示を仰ぐようにとのゼノンの命令を無視し、独断で人間界に潜入。夕刻の高架下で、酔っ払いを電線に投げつけ、靴磨き、屋台を口から吐き出す炎で焼き払う。

 牧村博士は、日本橋の地下鉄工事現場から発見された、江戸時代の少女の頭蓋骨の復元作業について記者会見を受ける。その記者の中に、牧村博士は見慣れない背の高い男を見て、会見後に顔なじみの記者に確認するが、記者はいつものメンバーだと答える。

 翌日、学校でサッカーをしていた明は、氷村とハンドの反則をしたしないとの言い合いから、喧嘩に発展する。それをミキの平手で止められ、面白くない明は、「ミキの馬鹿ヤローッ!」バイクで学校を飛び出す。

 その夜。復顔作業を、助手の山口に電話で指示をする牧村博士。その指示を受けて、作業をしていた山口が、席を外した隙に、ロクフェルが復元中の頭蓋骨に宿り、復元に使用する蝋の中に飛び込み、人の形を取る。戻ってきた山口は、頭蓋骨が紛失していることに気付き、部屋を捜索中に、ロクフェルに煮えたぎった蝋を浴びせられる。そして、ロクフェルは巨大化する。

 研究所に向かうべく、高速道路を走行中、牧村博士の車載電話が鳴る。山口から「首が逃げました……!」という電話を受けた牧村博士の目の前に、その首を持った巨人・ロクフェルが現れる。車を、人を、道路を、その吐き出す炎で焼いていくロクフェル。その現場を通りかかった明は、デビルマンに変身して牧村博士を助け、ロクフェルと対戦する。
 デビルマンの力の前に退散したロクフェルを、ザンニンは罰し、罵倒する。誇りを傷付けられたロクフェルは、デビルマンを倒すため、人間界へ再び赴く。

 名門学園、野球に参加していた明は、氷村が意図的に折ったバットが左腕に刺さる、という怪我をしてしまう。家で手当てを受ける明。テレビでは野球のナイター中継が放映されていたが、そこに首の化け物ロクフェルが現れる。ミキとタレちゃんがその試合観戦に行っている、と聞いた明は「迎えに行ってくる!」と飛び出し、デビルマンに変身して球場に向かう。

 人々を踏み潰し、虐殺するロクフェルに怯えるミキとタレちゃん。タレちゃんの絶叫にロクフェルが気付き、あわや、というところにデビルマンが到着する。名誉のためにデビルマンを倒す、というロクフェル。
 腕の負傷のため、ロクフェルに苦戦するデビルマンは、首を絞められ地の底に引きずり込まれそうになる。が、ミキの震える姿が視界に入る。「畜生、このままでは、二度とミキに会えなくなっちまう……!」全身の力を振り絞り、ロクフェルを空中に掴み上げ、デビルマンはデビルビームを放ち、ロクフェルを倒した。

 ロクフェルの次の災いの使者にゼノンが選んだのは、ズール。
 
 実にホラー風味満載さが素敵な一編。いきなり映し出される全身骨格。ごとりと落ちる頭蓋骨、それが地面に当たって砕け、どろっと青い液体が広がる。そこからぬっと出てくる手、甲高い笑い声と共に現れる、おどろおどろしいロクフェルの顔。それがフィードバックして、蒼白く光りながら浮かび上がる髑髏、その上に被さる「ロクフェルの首」のサブタイトル……。んもう、のっけから不気味さを演出してくれるのだ。夏といえば、風物詩の一つ、怪談。そりゃあホラーアニメ『デビルマン』としちゃ、やんなきゃ、でしょ。
 てことで、ろくろ首ネタ。冒頭でロクフェルが「お召しを待っておりました。首を長ーくして……」なんて言うのがさりげないけど、細かい伏線って感じでいい、ディティールのこだわり。そういや、ロクフェルの原型みたいなデーモンは、原作1巻に描かれてますね。よくあんなデザイン、思いつくもんだなあ……。

 とにかく、この回では演出が素晴らしいですぞ。微に入り細に入り、「ホラー感」を盛り上げてる。
 何と言っても「間」。来るぞ、来るぞ、というホラー独特の不吉な期待感を高揚してくれる、その「間」の演出。この回に限って言うなら、“主役”は明君=デビルマンではなく、ロクフェルなんじゃないかなあ。この話での明君の役割は、勿論、ヒーローものとしての最後の「締め」。それと、「非日常」なホラー感溢れる、息詰めるようなシーンと対比した、ほっと息を吐く「日常」の表現としての登場。

 血や炎などをイメージさせる「赤」で色彩が統一されていて、とにかく不吉。で、現れたロクフェルがぼそぼそと「ザンニンが何だという、デビルマンならやつの指示が無くても、俺独りで充分だ……」なんてごちながら、紅い光を放つ満月を背景に歩いていく、と。ここで高架下にロクフェルが地面から現れるのは、ヒマラヤで地面の中に消えていったのと繋がって、ロクフェルの「地中を行く」能力を見せているんじゃないかと。
 それと共に描かれるのは、異様なまでにプライドの高い、ロクフェルの性格。ザンニンに「卑怯者!」と罵られて、「名誉のためにデビルマンを倒す!」と言うところでもそう。このちょっと歪んだ、「名誉」に固執するある種の「心の弱さ」が、ゼノンの言う「ロクフェル自身の弱さ」だったんではないか、と思うがいかがか。

 で、この後、何時何が起こるか、と見る側はもう身構えながら展開を見守るわけです。牧村家の前に次々と車が止まるのも「!?」って感じだし、そこにロクフェルが現れるのもそう。記者会見後、はたはたと頭蓋骨にかぶせられた布がはためき、窓のカーテンが揺れる……。

 ここで場面は一転、青空と太陽。氷村に食って掛かる明君、ミキちゃんの平手を喰らってムカムカ、学校を飛び出す、といつものような(笑)シーンを挟んで、またも不気味な夜。ぎしぎしと音を立てて揺れる、研究室の門。
 作業について電話をする博士、電話の相手は助手の山口君。こっちはモノクロで、山口君のロングショットからカメラを回しながら、髑髏を映し出す。そして、牧村家の方では、電話をする博士の後姿とガチャガチャ、とノブを回すドアのカットを交互に映しながら、開くドア、博士の肩に置かれる両手……。もう、どっちでコトが起こるんだ!? とハラハラしながら、牧村家の方に現れたのはミキちゃんなので、いよいよ研究所で何か起こるんだな? 起こるんだな! と、パンクする明君のバイク、割れるビーカーのカットを挟んでじりじりと展開する。
 「しまった、目玉を忘れた」とシュールな独り言を言って、部屋を出た山口君の後姿を少しずつパンアップしていき、柱時計と交互に映すんですが、この「ぼーんぼーん」と音を立てる柱時計という道具の使い方がまた上手い。夜に聞くこの音って、結構不気味よね? ……ちょっと時間がおかしいけどなー(小声で)。
 で、外では犬が唸り声を上げ、その、無いはずの目玉が眼窩にぎょろっ。すーっと浮かび上がった髑髏が、煮えたぎった蝋を湛えた甕の中にぼちゃん。徐々に形作られる人の形。一方、目玉をお手玉しながら戻ってきた山口君(いきなり目玉のアップを見せる演出がまた……!)、髑髏の紛失に気付き、きょろきょろしてるとバタンとドアが閉まり、電気が消される。ここで画面は再びモノクロになり、脂汗を垂らす山口君のアップと呼吸音。猫の乱入を挟みながら、不気味な静けさの中、滴る蝋と影、山口君のアップを交互に、山口君の汗が流れ、音楽が盛り上げる。今か! 今か!
 そして遂に、山口君の後ろに蝋の入ったたらいを持った人影が! はっと振り向くと、血走った目、牙の生えた口のアップ、来たー!! 「ば、化け物ー!!」
 もう、道具の使い方といい、「間」の使い方といい、実にホラーのツボを押さえた名演出。……子供は怖いだろうよこりゃ……。

 と、ここで巨大化して暴れまわるロクフェル、勝手に復元してしまった顔、身体が筋骨隆々なため、ちょっとオカマみたいだぞ。髪型が少女のものなだけに。牧村博士をじろりと見るや、首が伸びてロクフェルの顔になり、……顔が首の根元にもう一つあるよ! キモー! 自分の顔で相手をどつくんだよ! しかも髪の毛が手になるんだよ! で、捕まえた博士を、ぽいっとデビルマンに投げ寄越すのは、名誉のため、なのかなやっぱり。この時、反動をつけて投げ、両手で受け取ったデビルマン、そっとビルの屋上に博士を下ろしたり、細やかな描写がいいですな。

 前半はサッカー、後半は野球、と何だかスポーツづいてるこの回の明君。野球はあんまり気乗りしなかったらしく、「人間の気が知れねえ。こんな棒っきれ振り回して、何が楽しいんだい。ヘン、馬っ鹿馬鹿しい」とやる気なさげ。サッカーではエキサイトしてたのにねえ。一球目が投げられたときのバックが、不思議な背景になってるのは何故かな。もっとも、ミキちゃんに声援を受けると、いいトコ見せたくなるんだね、男の子。
 ここで張り合ってる、と見せかけて、氷村がバットをわざと折るんですが、「よーし、来い!」なんて構えるので、思わず「星君!」と呟いてしまうではないか(笑)。それで、折れたバットが明君の腕に刺さるの、これは痛いぞ……! 木だからささくれてて……! これは氷村が任務をこなした、ってところですな。にやりと笑ってるし。

 小ネタ続きなんだが、ロクフェルの現れたのは、懐かしい後楽園球場、巨人阪神戦だろうなと思いました。ここでは火を吹かず、巨大な足で逃げ惑う人々を踏み潰していく。
 で、ロクフェルが、「ミキちゃんが行っている」場所を狙ったのは偶然か? 結果としては、これがロクフェルの命取りで、せっかく窮地に追い込んだ筈のデビルマンが、ミキちゃんへの“愛の力”によって、逆襲してしまうことになってしまったね。
 この時、デビルマンの姿は確実にミキちゃんに見られているわけで、勿論、それが明君とは繋がるわけが無いのだけど。こういう「目撃」が重なって、最終回の「案外カッコよかったわ」という台詞に収斂されていくのかも。

 絵的に、デビルマンのポーズ、で色々好きなカットが存在するんですが、デビルウィングを広げるときのポーズは、この回のが一番好きです。また、森利夫氏作画の回に見られる、デビルビームを放つときの、色々な処理の静止カットをコマごとに何回も細かく重ねる、独特な手法もアバンギャルドで素敵。後ですね、私、森氏の描く、ちょっと伏し目になったデビルマン、好きなんですよ。
 今回のヒマラヤの場面、氷の向こうを透かして見せる、みたいな、ちょっと幻想的な手法が取られてるんですが。この見せ方も割と森氏の特色なのかな。16話や20話の森氏作画監督の回でも、水の中から、氷の向こうから明君を見せていたので。


 ところで、次回への引き。「ズールに恐れは無い。躊躇いも無い。あるのは憎しみだけだ。その憎しみの炎が、デビルマンを焼き尽くすであろう!」と言うゼノン様。ズールのキャラが色々と違いますぞ。
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