◇REVIEW◇

DEVILMAN

 1972年8月12日 放映
第五話 「眠れる美女 ゾルドバ」 
脚本/高久 進 ■ 演出/設楽 博 ■ 作画監督/白土 武
▼STORY▼

 デーモン族の裏切り者として永遠の刑罰を受ける女・リタを使い、デビルマンを抹殺するよう、ゼノンは魔将軍ザンニンと妖女ゾルドバに命じる。

 人間界では、名門学園の明のクラスに「オートバイに乗った嫌味なやつ」氷村巌が転入してくる。乱暴にバイクを駆り、クラスメイトを睥睨する氷村は、明を「ボスは一人でいいってことよ」と挑発する。明は氷村の挑戦を受け、バイクで勝負することになる。
 タレちゃんから知らせを受けて、ミキとタレちゃんが決闘の場所に現れる。明と氷村の競り合いの中、明を応援するタレちゃんが、氷村に追い立てられて、崖から落ちてしまう。

 決闘を一時中止し、明はタレちゃんを助けるために、ミキと崖を降りる。すると、見慣れない洞穴が出来ており、タレちゃんはその中にいた。洞窟の壁面に、何処かから洩れてくる光に気付いた明は、岩を動かす。ぽかりと空いた穴から、飛び出してくる棺。その中には女が眠っていた。

 人類学者であるミキの父が棺を調べると、その棺は未知のシステムで氷漬けにされており、女は中で生きているという。
 明は女の正体を知っていた。女はリタ、デーモン族の裏切り者である。そのため、ゼノンによって氷漬けにされ、生きることも死ぬことも叶わぬ永遠の刑罰を受ける身なのだ。そのリタが何故地上に、ゼノンの罠か、と不審に思う明。

 リタは牧村博士の研究所に運ばれ、調査をされていたが、ゾルドバに「リタをデビルマンの目につくように攫って来い」と示唆された氷村によって、連れ出されてしまう。明は氷村を追い、リタを取り返すが、氷村のバイクによって、右膝を負傷する。

 明が、「リタ、俺だ。デビルマンだよ」と呼びかけると、リタは目を醒ます。リタは血で血を洗う、殺しあうばかりのデーモン族が嫌になり、逃げ出そうとした、と明に裏切りの理由を語る。デーモン族に帰りたくない、と言うリタに、明は人間界の素晴らしさを説く。そこに、急に妖女ゾルドバが現れ、「リタは貰った、返して欲しければ悪魔の森へ来い」と明に告げる。

 切り立った崖の上に建つ、ゾルドバの館に赴いた明を、数々の罠が襲う。デビルマンに変身した明は、罠を切り抜け、ゾルドバと戦う。
 デビルカッターで足を切り飛ばされるゾルドバ、その逃げた先に出現した扉の中に、リタが眠っていた。リタを助けるべく抱え起こしたデビルマンは、他ならぬリタの手によって、右腕に短刀を突き立てられる。
 実は、本物のリタはとっくにゾルドバに食い殺されており、明が見たリタはゾルドバの化けた姿だったのである。デビルカッターで腕を切られ、なおも腹の口から炎を吐き出し、デビルマンを焼き殺そうとするゾルドバだったが、デビルアローに倒されるのだった。
 
 企画書で「猛の同級生。クラスのボス。非情(誤植で“非常”になってるぞ!)、冷徹な性格で、猛は常に、ゼノンの使者のモンスターではないかと疑っている。猛のライバル」として記載されている氷室巌、“氷村巌”としての登場である。原作最初期の飛鳥了に顔つきはよーく似てる(特に目つき)が、役割は了とは勿論全く違う。……似てたら怖い。
 しかし、声も井上真樹夫氏で(笑)、いかにも主人公のライバル、つー感じで出てきて、思わせぶりな言動で盛り上げておいてアンタ、結局最後はアレかい! って悲しさがあるんだけど。ま、それはもうちょっと後の話。見る側には、早速、豪快に「デーモン族」の正体をばらしているが。ところで、「俺はおめえに勝つためなら何だってするぜ」って台詞、あの本性を知ってしまうと、まあ、真正面からデビルマンに挑んでも、コイツ、絶対に勝てないだろうからな! という風にしか聞こえないです。

 ネタバレと言うと、この回のサブタイトル、そのものがネタバレである。眠ってるのはリタであって、ゾルドバではない。しかも、ゾルドバの顔ときたら、百歩も五千歩も譲っても「美女」じゃねーもんな。もうここで既に、リタとゾルドバがイコールで結ばれてるわけだが。
 問題はここである。
 これもあちこちで既出だが、やはりどうしても話の矛盾。流し見してたら気にならないだろうが、流し見しないのがこのレビューの方針なので(笑)、あえてやっぱり突っ込み。
 つまり、最初っからリタ=ゾルドバ。だから、Bパートでリタが棺から消えたのも、氷村に指令を伝えに行ったからで、それが終わったから、また棺の中に戻っている。氷村は明らかにリタの正体がゾルドバだ、ということには気づいてないわけで、「俺はそこまで間抜けじゃないぜ」……間抜けやんけ!
 二本立てのプロット、「主人公のライバル登場」「デーモン族の裏切り者リタ」が、噛み合わずに変な矛盾を起こしてしまってるわけだ。リタを使ってデビルマンを誘き出す、という作戦なら、既にリタ=ゾルドバなのだから、リタの姿で動いて、明君の目に止まればいいのだ。氷村を絡めるから、妙なことになるんであって。
 元々、『デビルマン』は3クールの契約で作られた作品で、氷村の出番が1クール、と決まっていたのなら、そろそろ出さないといかん、という感じでこの回に登場したのだろうか。どっちかって言うと、役割としたら、確かに氷村は小物(すまん……)の感があるんだが、それにしても、この使い方はねぇ……。この回に関しては、何しに出てきたお前って感じ。リタの使い方もねえ。ゾルドバの残虐性を引き立てるだけっていうのもねぇ……。もう一人のデーモン族の裏切り者ってことで、あるいはこれはデビルマンにも起こり得る身の上なんじゃないか、と思わせる設定なんだけど。プロットは明瞭に、簡潔にってことですか。

 というのはもうなんぼでも言われてるので、ちょっと尻馬に乗ってみました。
 矛盾と言ったら、今回の明君、えらく人がいいんですが、つーのもあるけど。やたらリタに無条件に親身で。これも「不動明」より、企画時の「真紀猛」のようだ。しかし、「君の気持ちは分かるよ、リタ」とか言って、人間界の素晴らしさを謳い上げる前の笑顔が、どぎついにやり笑いというのはどういうわけだ明君(笑)。いや、それ以前に、貴方は殺しあうだけのデーモン族が嫌になったというのではなく、単にミキちゃんに惚れたから、ただそれだけで裏切り者になったんでしょーが。デーモンも(ミキちゃん以外の)人間も関係ねえ! のスタンスはどうしたの。
 今回の脚本は高久進氏、脚本家同士の申し合わせはされてなかったそうなので、その辺が矛盾が生じてしまった所以でしょうか。明君の性格設定とか。同じ高久氏脚本でも、9話の明君は軌道修正されてるようだけど。この回では正義のヒーローですよ、最後の語りといい。「来い、災いと呪いの使者よ」……正義のヒーロー(違和感)。これも言われてるな。でもそう思ったので……。

 まあでも何ですよ。じゃあこの回は駄目か、というとそんなことはない。この回、ミキちゃん可愛いです。胸でかいし……げほげほっごほっ。
 絵というと、氷村のバイクに泥をひっかけられるミキちゃん、この泥をポチとアルフォンヌが拭き取ろうとするところ。ポチは体型がアレであるから、背が届かないどさくさで、ミキちゃんの胸に触ろうとして(触った?)、ミキちゃんにはたき飛ばされる。この後、アルフォンヌも顔を拭いたどさくさでちゅーを迫って、やっぱりミキちゃんにポチ巻き添えではたき飛ばされて、ポチは顔面から泥溜まりに突っ込む。「ぬふふふ〜な〜ノダ〜」といい気味なノダ、とゆー風に笑うアルフォンヌに、妙にリアルな顔で怒るポチは個人的に必見だぞ!
 そういや、明君がミキちゃんと一緒じゃなかったのは、明君寝坊して置いて行かれた?

 この回の目玉というのは、やっぱり対ゾルドバ戦なんだろう。ザンニン様は何時の間に消えたのだ、という細かいことはさておき。全開でキモチワルイッス! ゾルドバが!! そもそも、顔もアレだもんな。指もあの形で四本だし。声も合わせてイイ演技されてていいのだが、前回の引きと声が違いまっせ(笑)。
 デビルカッターで膝から下切られて、すかさず逆立ちしてすささささー。おげー。この動きが気持ち悪。で、またリタに化けて、デビルマンの腕をぐさっ。余談ながら、デビルアローを放つとき、腕に力を込めると血が噴き出してるところなんか、さりげないけど細かい表現で良いです。良いですって痛そうだけどな……。リタが首をぐりっとさせると、ゾルドバの顔があって、リタの服を脱ぐと、やっぱり膝から下が無いゾルドバの身体が出てくるのも、やっぱ無いのかよ足! でも立ってんのかよ! って感じでヤだ。
 で、杖で電撃攻撃かまし、更にデビルカッターで腕も切られるも、まだまだ腹の口から火吹いて、と、顔だけじゃなくて、このしぶとさも気持ち悪いわ。リタを「食い殺した」って行動も猟奇だし……。そんで、頭の後ろに、髪を描き分けてぼこぼこっと、肉の塊が盛り上がってきて、リタの顔になるっつー……。スプラッタな場面は直接は見せないが、これまでで充分ゾルドバの色んな意味での「おぞましさ」は伝わってくるわな。リタを使ってデビルマンを倒せ、て……食うかそこで! そういえば、この時、リタは氷の十字架に磔にされているんだけど、後に映画『マジンガーZ対デビルマン』でも、ザンニン達に捕らえられたデビルマンが、同じように氷の十字架に磔にされるのね。脚本が同じ高久氏だからか、「デーモン族の処刑様式」が統一されてる。

 悪魔の森、っていうのは所謂「魔界」という場所ということで、何となく西洋の中世奇譚なんかに出てくる、悪い魔法使いとか魔物が潜んでる場所のような美術イメージ。絡み合うぶっとい茨の向こう、抉られたような崖っ淵に建つ、古びた洋館。その上に掛かる、大きな三日月。ゴシックホラーな雰囲気満点。でも、中はまるで忍者屋敷みたいだったが(笑)。落とし穴を避けて、跳んだ先にもっと大きな落とし穴、っていう作り方が陰険だ。下に溶岩がぼこぼこ、というのもね。


 些細な突っ込みその一。リタの肌色、デビルマンと同じ緑なんだが、そのことについては、誰も不思議に思わないのか。どー見ても人間ちゃうがな。
 些細な突っ込みその二。氷村が研究所で博士と助手を襲撃し、リタを奪っていくくだり。「犯人は君のクラスメートの氷村だ……!」何でそんなことまで知ってるのさおじさん。
REVIEW TOP  DEVILMAN TOP