◇REVIEW◇

DEVILMAN

 1972年8月5日 放映
第四話 「魔将軍ザンニン」 
脚本/辻 真先 ■ 演出/西沢信孝 ■ 作画監督/荒木伸吾
▼STORY▼

 魔王ゼノンにより、百の配下を従える魔将軍ザンニンが召喚された。任務を放棄して、裏切り者となったデビルマンの代わりに人間界に災いをもたらすべく、ザンニンはベトラを最初の配下に選び、日本に向かう。

 一方、明はそんな事実を知る由もなく、ミキをバイクに乗せてデートを楽しんでいた。
 ふと、ミキが視線を留めた先には、タレントの天地ユリが、人々にサインに応じている姿があった。ミキもサインを欲しがるが、「サインが欲しけりゃ俺がしてやるよ」と明はすげなくその場を走り去る。一方、明達が去った後、アルフォンヌとタレちゃんはサインをしてもらい、ウキウキと学校に行く。

 作文の授業中、タレちゃんはサイン入り写真を枕元に、居眠り。すると、サインの文字が浮き上がり、蜘蛛となってタレちゃんの口の中に入っていく。
 タレちゃんの居眠りに気付き、叱ろうとする担任の美留久先生に、形相を変えたタレちゃんが飛び掛る。しかし、元全日本女子プロレスリングチャンピオンの美留久先生、逆にタレちゃんを「パイルドライバーッ!」と投げ飛ばして事なきを得る。失神したタレちゃんの口の中から、這い出る蜘蛛。

 同じような事件は、あちこちで起きていた。電車では、やはり蜘蛛にとり憑かれた女子生徒が運転士の首を絞めて脱線させ、飛行機ではスチュワーデスが操縦士を襲い、火事の現場では燃えるビルにガソリンをかける少女の姿が……。

 タレちゃんと同じく、サインを貰ったアルフォンヌにも、蜘蛛はとり憑いた。その被害が、美留久先生、ポチ校長のみならず、ミキにまで及んだため、ミキの悲鳴に駆けつけた明に、アルフォンヌは倒される。タレちゃんやアルフォンヌの凶行の原因が、ベトラの蜘蛛にあることに気付いた明は、蜘蛛の後をつけて、ベトラの居場所を突き詰める。正体を現したベトラに、明はデビルマンに変身してデビルビームを浴びせるが、ベトラは逃げてしまう。

 ザンニンは逃げ帰ったベトラを許さず鞭打つ。デビルマンが任務の邪魔をするなら、デビルマンを殺せ、とザンニンは命令し、ベトラは再び人間界へ赴く。

 ピエロの姿に化けたベトラは、繁華街で蜘蛛の絵を描いたビラを配って歩く。そのビラを受け取った子供が、車を運転する母親を襲い、大事故になる。更に、デビルマンと決着を着けるべく、ベトラはミキを襲う。「明君、助けて!」ミキの声に気付いた明は、デビルマンに変身する。
 ベトラは粘性のある蜘蛛の糸でデビルマンを絡め取るも、海に落としてじっくりと嬲り殺そうとしたせいで、水中で粘りを失った糸を切られる。空へと舞い上がり、逆襲のデビルアローで、ベトラを叩き落したデビルマンは、「ミキが心配だ」と飛び去る。

 再びデビルマンに敗北を喫したベトラ、次こそは、とザンニンに許しを請うが、怒り狂ったザンニンは「次の機会など無いわ!」と、ベトラを焼き殺す。ザンニンが呼んだ、次なるデーモンは、妖女ゾルドバ。
 
 1クール目の中ボス、ザンニン様ご登場の回、である。元々TVアニメ『デビルマン』の企画の原型が『魔王ダンテ』であることは周知の事実、で、ザンニンも能力といい姿といい、魔獣ゼノンが原型なわけだが。性格は違うけどね。
 で、そのザンニンなんですけど。
 ……毛がふさふさしたデザインになっててですね、……その、……可愛いんですが……。犬型妖獣なんで、えー、大型猫科動物系妖獣(長い)の魔将軍ムザンよりも、犬好きとしては可愛いと……。明君が「魔将軍ザンニンが!」と驚く右半分の画面に、ザンニンのイメージが描かれて、またこれが尻尾を左右にふりふりさせているんで、すげー可愛いんですけど……。こんなこと言ってるの、私だけですかね……。

 この回の作画監督、荒木伸吾氏なんですが。ええ、あの荒木伸吾氏です。『キューティーハニー』『グレンダイザー』『ベルサイユのばら』『聖闘士星矢』の荒木伸吾氏(くどいわ)。我々が荒木伸吾氏の名に抱くイメージ、というのは主に姫野美智氏と組んでからの、華麗で繊細な画風だと思いますが。体型は、確かに後年の「荒木体型」を彷彿とさせますわ。「荒木走り」はしないけどな(笑)!
 絵といえばもう一つ。この回で、デビルマンの変身が二回あるんだけど、他の回のバンクを使わずにちゃんと描き起こされてるんですね。またこのカット割が凝っている。二回目の変身、珍しく俯瞰アングルで画面下に小さく明君を映し、それが回り込みしてバストアップの構図へと、アングルを徐々に正面に合わせてる。「巨大化」という表現を上手く見せてるなーと。
 それと、この回、透過光が多用されている。とにかく光る。変身も光る、蜘蛛も光る、デビルビームも光る、目も光る。光る光る。この辺も、後年の「荒木節」を連想させるなあ。眩しいです。笑

 サブタイトルは「魔将軍ザンニン」だけど、ザンニンは中ボス扱いなので、実際に動くのは上から見るとエイっぽいデザインのベトラ。んで、コイツが口から蜘蛛を吐き出して人を操るわけですが。この蜘蛛がミキちゃんに迫るとき、足を動かさないですーっと近寄っていく場面、言っちゃえば、単純に引きセルで動画を省いているってことなんでしょうが、何かかえって薄気味悪さが増す、という演出が成功しているかもしれない、とか思ったり。
 そんな平べったい外見も能力もキモチワルイ感じのベトラ、だがしかし、……気の毒なデーモンだと思うぞ。デビルマンといえば、デーモン族の勇者、ゼノン親衛隊の副官(だったらしい)で、魔将軍ザンニンとは同格の、元幹部なわけです。ベトラはザンニンの部下に過ぎない。そういう格上の相手に勝てなかった(つーか本気で相手してなかったんじゃないの? デビルマン……)から、って尻尾の鞭で散々にセッカンされた挙句、デビルマンに止めを刺されるならまだしも、上司に焼き殺されるなんてなぁ……。あーあ。しかもサブタイトルになれなかったし(笑)。
 それにしても、ザンニン様のむっちゃヒステリックな喋り方、「悪の中間管理職」って感じでイイですな! あの手の顔って、表情が出せないから、勢い「声」で感情を表現しなけりゃならないわけで。ザンニンというキャラクターが立ってて良し! この声が『サザエさん』のマスオさんと同じということが、ちと信じられないです。


 ちょっと、あれ、肩透かし? みたいなシーンが個人的にはあるんだけど。一度目のベトラとの対決、デビルビームにびびって逃げ出したベトラをデビルマンは当然追っかけるんですが、ここで思わせぶりにベトラの尻尾がひらひらしてるのがアップで映されるんですよ。二回。すると、見てる方は、その尻尾をデビルマンが掴むのかな? と思うんですが、あっさりと「逃げられたか」って諦めちゃうんですな。
 それともう一つ、事故のニュースをテレビで見てたとき。思わず「やるやる!」なんつって歓声を上げる明君、ミキちゃんに睨まれてバツが悪そうな顔で座り込む。で、謎の発狂事件の話になって、ミキちゃんが「明君、何か心当たりないの?」と前回に続き、またしても明君ドキッとする発言。心当たりなんてありまくりですがな(笑)。勿論そんなこと言わないけどね。その動揺を誤魔化すように冷や汗をたらしながら、「眠くなったんで寝るとするか」と明君、居間を出て行くんですが。そのタイミング的に、気になって調べに行くのか? とか思ったんですよ私は。が、ミキちゃんが絡んでなかったから、どーでも良かったらしく、ホントに部屋で寝てました明君。

 『デビルマン』は、変身ヒーローもので、ラブストーリーで、かつホラーアニメなんですが。今回は、西洋的な「ホラー」というより、むしろ日本の「怪談」ぽかったと思う。ベトラがミキちゃんを襲う手法が。
 まず警官の体をのっとり? 牧村夫妻に蜘蛛をとり憑かせる。とり憑かせるんだけど、照明を調節したみたいに、画面を暗くして、ライトをミキちゃんに当てて、夫妻の胸から上は見せない。口調もいつもと違う、妙な猫撫で声っぽい。で、ミキちゃんがおかしいな、と感じるわけだ。んで、「お前を殺してあげることさ!」とここで蜘蛛が額に張り付いて、形相が一変した夫妻の顔がアップになる。ミキちゃん悲鳴上げて逃げ出す。すると、警官がいて助かった! と思うと、実はこいつも化け物で……。「むじな」の話を思い出しました。

 平手のミキちゃん、蜘蛛は嫌いなのか、目の前にぶら下がってきた蜘蛛に気絶しちゃうんだが。ベトラを軽くシメて(笑)、戻ってきた明君、口移しでミキちゃんに水飲ませようとして、「駄目だ、どうしても出来ねえ」。結局、コップの水ぶっかける。
 昼間、ミキちゃんに「男が女に飛びつくのは正気の証拠じゃんか。……例えばよ」「例えば?」「こ〜んな風に……!」なーんてドギツイ顔でやっておいて(思っきしはたかれて花壇に突っ込んだけど)、んもう、「だらしねーぞ、デビルマン」!! ま、確かに、水飲ませようとすりゃ、ちゅーどころじゃな……いえ、何でもありません。その後が、「怖かった!」ミキちゃんに「よしよし、もう大丈夫だよ、よちよち」……可愛いね、キミ……(笑)。

 しかし、せっかく(?)蜘蛛もとり憑いた相手が、アルフォンヌ先生と来ちゃ。のっけから美留久先生にぶん回されるし、次の標的がまたポチだからBGMも陽気なもんだし、で全然緊迫感無いのな……。
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