1972年7月29日 放映 | ||
第三話 「妖獣ゲルゲ」 | ||
脚本/山崎忠昭 ■ 演出/白根徳重 ■ 作画監督/森 利夫 | ||
▼STORY▼ 「裏切り者死すべし!」デビルマンを抹殺するために、第三の刺客ゲルゲが、魔王ゼノンにより送り込まれる。身体を竜巻と化し、あらゆるものを溶かしてしまう溶解液を吐くその魔力で、飛行機を、学童バスを、新幹線を、ゲルゲは次々と餌食にする。 そのニュースをテレビで見た牧村一家は、被害者の無事を願うが、明は「ま、無理だろうな。見通しは絶望的だね。恐らく、一人も生きちゃいねえだろうな」と言い放つ。その非人情的な明の態度にミキは、「自分さえ良ければ、他人なんてどうなろうと構わない。いい? 例えばの話、あたしが死んでも、涙一つ零してくれないわ」「そんな人、そんな人、人間じゃないわ。明君は『悪魔』よ!」と憤る。その言葉に驚いて、明は椅子から転げ落ちてしまった。 翌朝。登校前のタンデムに誘う明を、ミキはすげなく断る。ミキの態度に困惑する明に、タレちゃんが、明は女心が分かっていない、貴女のことを心から思っていますよ、と態度に示せばミキは機嫌を直す、とアドバイスする。 そうして明が示した態度というのは、ミキのことを「変な目つき」で見た男子生徒達に制裁を加えることだった。しかし、ミキにとっては、その行為は「やりすぎ」であり、ますます明はミキの機嫌を損ねる結果となった。 ミキに思いが通じず、バイクを駆りながらぼやく明。そこにゲルゲの声が響く。裏切りを詰るゲルゲに対し、明は人間も地球もどうでもいい、と答える。ただミキに嫌われたくないがために、人類抹殺の指令を遂行しない、と言うデビルマン=明に、その大事な牧村ミキを、翌朝までに殺してやる。せいぜい守ってやるがいい、とゲルゲは不吉な予告をする。 慌てて明は家に帰り、迷惑がられながら、徹夜でミキの周囲を過剰なまでに監視する。一夜明けて、ミキはドアの前に立つ明の姿を目にする。「もうたくさん!」とミキは怒り、明をひっぱたき、明は頬に引っかき傷をつけられてしまう。 そこへ、ゲルゲの竜巻が襲い来る。実はミキを殺すという宣言は、守ろうとした対象のミキに、逆に明が傷付けられるように仕向けた、ゲルゲの罠だったのだ。明はデビルマンに変身し、ゲルゲと対峙する。 何度切り裂いても、復活するゲルゲ。尻尾から溶解液を吐き出すゲルゲは、執拗にデビルマンの頬の傷を狙う。キリが無い、と空へと舞い上がるデビルマン。ゲルゲも竜巻となって追いすがる。 しかし、それこそがデビルマンの思う壺だった。竜巻に巻き込まれながら、デビルマンは海中に飛び込む。それを追ったナメクジ妖獣のゲルゲは、海水に含まれる塩分によって溶けてしまうのだった。 またしても刺客を返り討ちにされたゼノンは、遂にデーモン族きっての実力者、魔将軍ザンニンを呼ぶ。 | ||
というわけで、原作ではシレーヌ戦の前座に過ぎなかったゲルマー、ゲルゲの名でアニメでは大活躍。触覚みたいのが生えた尻尾が、独自の意思でも持ってるように、口をすぼめて緑色の溶解液を吐き出すていうか、ぴゅっぴゅっと吹き出す風なのがキモチワルイ。またこれが、ご丁寧に吐き出す時、アップで見せてくれるわけだ。 もっとも、目玉がある以外、デザイン的には「フフフフ、ゲルマー。水分を失ったおまえはそんなにチビなのか!」と明君に言われたゲルマーと変わらないので、外見がどうも下っ端風なのだけど。スマン。 この回、明君はミキちゃん相手に激しく空回りをしているわけだが。人間界に来て、さほども経っていないデーモンが、人間の女心に詳しかったら嫌だよ(笑)! ゲルゲの予告を真に受けた明君、部屋の前のみならず、お風呂やトイレにまでついて回って、もうミキちゃんにありがた迷惑、「ノーサンキューよ!」って嫌がられるわけだが。まあ、前日からずっと、ミキちゃんの明君に対する心証、良くなかったしね……。ここで「今夜は俺、ミキちゃんにぴったりついて、ガードマンを勤めさせてもらうからね。いいね?」なんて宣言せずに、密かに見守れば……なんて芸当が出来ない性格なんだね、明君は。良くも悪くも「真っ直ぐ」なわけだ。 ところで、ミキちゃんがお風呂に入っている間、明君は長風呂だなーとでも言いたげに、イライラして外で待ってるんだけど。今回登場の妖獣が、しつこいようだがゲルマーと同じデザインのゲルゲだけに、風呂場で何か起こるんじゃないか、と見る側は期待しちゃいます(笑)。結局、「おい、この間の水の化け物(=ヘンゲ)のこと忘れたのかい?」と、痺れを切らした明君、風呂場に突撃をかまして、ミキちゃんに悲鳴と共に水をぶっかけられてしまうんだが。まあ考えてみりゃ、30年前のアニメで、お風呂場で事件が起こってさあ大変★ は無理か。いくら全員集合の裏番でも。 この回でも、明君は怪我。怪我っつっても、ほっぺたに引っかき傷をつけられる、程度の小さい傷だが、溶解液が染みるらしい。染みるのって痛いよね! 溶解液だから、傷口から体内に侵入したら、えらいことになりそうだしね! しかしゲルゲよ、「守ろうとした女によって命を落とす、残酷な罠」だと言うが、ミキちゃんに引っかき傷をつけられたのは、偶然だと思うぞ……。 そういや、明君はどうも家の出口が、二階の窓と思っておられる模様(笑)。非常に、二階の窓から飛び出すことが多いです。滅多にドアからは出ませんな。 ゲルゲですが。 不思議な超能力を複数、有している様子。前半、自分の姿を見せずに映画の看板らしき(狂刃! と書いてある)浪人が実体化して、「死んでもらいます!」なんて刀抜いて、いかにも時代劇っぽくバイク乗ってる明君に斬りつけてくるあたりとか。この一連の、最後に忌々しげに刀を鞘にしまう動作まで、すげー自然なんですけど。いや、作画の技術云々を言うんではなく(確かに上手いが)、デーモンって結構、人間の文化なんかにも詳しいのね。みたいな。後の話で「人間学」なんて大学の講義名のような“学問”が、デーモンにあるらしいことが語られるが。「敵を知り、己を知れば、百戦して危うからず」ってヤツですか。にしても、普通の魚屋にアンコウなんて売ってるのかしら(笑)。 デビルマンとの直接対戦では、あっさりとデビルカッターで切り刻まれて、デビルアローで吹き飛ばされて、デビルキックでバラバラにされて、その度に復活する、脅威の再生能力を見せてくれるゲルゲ。関係ないが、この時のゲルゲが切れる時の音が、何だかハムっぽいと思った。でも食中毒起こしそうに不味そうだ。 この、「やっつけてもやっつけても再生する」能力を持っているデーモンは、21話のドローとか36話のマグドラーなんかも後に出て来る。「おいおい、どうやってやっつけるんだよコイツ!?」と視聴者を不安がらせる嫌な能力だが、今回は実は冒頭で伏線が張られている。 つまり、空と陸とで暴れておきながら、海では騒ぎを起こしていない。それに気付いたデビルマンはゲルゲを海に誘導する。ゲルゲは形そのまんまのナメクジ妖獣なので、海水に含まれる塩分のせいで溶けてしまう……というオチ。……デビルビームで焼き尽くすわけにはいかなかったんですか? ここでデビルマン、「虎は死して皮を残し、人は死して名を残す。ナメクジは死して、跡形もなく溶ける、か」なんて名調子をぶつんですけど。……中国の典故まで知ってるんだね、デーモンって(笑)! ちなみに、出典は欧陽修、王彦章画像記です。ああ、海中でも平気で喋るんですがデビルマン。そりゃデーモンだからいいんだよ問題ないの。と納得する私。 そんで。「悪魔らしいドライさ」が表現されている明君ですね、この話。脚本を『デビルマン』のメインライターとも言うべき、辻真先氏じゃなく、山崎忠昭氏が手がけたからでもあるだろうが、やや作風が違うのは。それだけに、ミキちゃんに「悪魔よ!」なんて(比喩表現で)言われて、ぎょっとして後ろにひっくり返ってしまうわけですが。ホントのこと言われちゃったもんねぇ。 人間界に恐怖を撒き散らす任務は放棄したとはいえ、別に明君は人間という種族に愛着を感じてるわけではないわけで(この時点では)。ミキちゃん周辺に被害が及ばない限りは、別に誰が死のうが苦しもうが泣こうが、本当に心底どーでもいいって感じ。実に緊迫感のない調子で、「俺の予感は当たるんだ、これはホントだよ」なんて言うところ、田中亮一氏の飄々とした感じの演技といい、作画の表情といい、“何となく余裕ある感”を醸し出している。それは、ゲルゲと話すバイクシーンでも同じ。自分で「デーモン族の無敵の勇士デビルマン様」とか言ってみたり。この態度が、ミキちゃんが絡むところっと変わるんだけどな(笑)。 タレちゃんに心から思っている証拠を見せてやれ、と言われて「閃いたぞ」なのがベルトでびしびし、シメるぞオラァ! の暴力的な手段なのも、デーモンならでは、ですか。 これを咎められて、アルフォンヌ先生とポチ校長に校長室で注意を受ける明君、理由を問い質される。当然だわな。で、変な目つきでミキちゃんを見たから、防いだという明君に、変な目つき? とアルフォンヌとポチが実践。そのポチの視点に合わせて、カメラもミキちゃんの胸から腰を上下する。芸細。「それだよそれ! ずばりその目つきだよ!!」この時の明君、妙に嬉しそうだ。で、「そういう目つきでミキちゃんを見るヤツは……セッカンだセッカン!」とベルトを振り回しながらポチの口癖で返す場面、茶目っ気がきいてて個人的に好きです(笑)。で、「いくら何でもやりすぎよ!」とミキちゃんに思いっきり足を踏んづけられるオチ。こういうコミカルさがあるのが、アニメ版『デビルマン』の魅力だと思いますよ。 そうそう。ちょっと気になったんだけど。冒頭のゼノン様、自分のこと「俺」とか言ってません? そう聞こえるんだが……。 追記:この回の脚本家、山崎忠昭氏がひっそりと世を去られたことを、つい最近知りました。晩年の事情を知り、何というか、非常に悲しい気持ちです。謹んで、ご冥福をお祈りいたします。 | ||
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