◇REVIEW◇

DEVILMAN

 1972年7月15日 放映
第二話 「妖獣シレーヌ」 
脚本/辻 真先 ■ 演出/明比正行 ■ 作画監督/白土 武
▼STORY▼

 ヘンゲによってもたらされた、「デビルマン裏切る」の報。その事実の真偽を調べるため、魔王ゼノンは妖獣シレーヌを、人間界に送り込む。

 悪夢に飛び起きる明。窓の外を見ると、庭をネグリジェ姿のミキが歩いている。驚いて明は後を追いかけるが、ミキは明の呼びかけにも答えず、明も追いつけない凄まじい速度で歩いていく。
 走る明の前に姿を現したのは、シレーヌだった。シレーヌは、明に何故裏切った、と問うが、明はデビルマンに変身し、「ミキを返せ!」の一点張りで、シレーヌの問いには答えない。シレーヌは無数の蝶の姿に変身し、マンホールの中に姿を消す。そのマンホールの中を覗き込んで、中にミキを発見した明は変身を解いて、下に降りていく。

 しかし、ミキはシレーヌの化けた偽者だった。シレーヌの鋭い爪で、明は背中を切り裂かれる。庭を歩いていたミキも、実はシレーヌの化けた姿で、まんまと明は誘い出されたのだ。事実を知った明は、変身して応戦しようとするが、背中の激しい苦痛のために、意識を失って倒れてしまう。

 シレーヌは、失神したデビルマンの胸のうちを探る。そして、デビルマンの本心――人間の小娘にすっかり心を奪われ、任務を忘れ果てたこと――を知る。デーモン族随一の勇者の変貌ぶりに、怒りと失望を禁じえないシレーヌ。
 目覚めたデビルマンに、シレーヌは告げる。「お前を元の勇者に戻す方法が分かったよ。それは、牧村ミキを殺すことさ!」と告げ、飛び去る。後を追おうとするデビルマンだが、傷の痛みのため、思うように体が動かない。人間の姿に戻り、必死に急ごうとするが……。

 そんな明の前に、ミキをさらい出したシレーヌが舞い降りる。ミキの命を盾に、「氷の国へ帰れ、さもなくばミキを殺す」と脅すシレーヌ。最大の弱点を抑えられ、明は成す術もなくその場を去っていく。
 デビルマンが去っていったことを確認したシレーヌは、血の池地獄にミキを浸して殺そうとする。しかし、血の池地獄の中からデビルマンの姿が現れ、ミキを奪い返す。「俺は誰の言葉も信じねえ! たった一人、牧村ミキを除いてはな!」ミキをいたぶることにシレーヌは時間をかけすぎ、その間に、デビルマンは体力を回復したのだ。

 怒りに燃えるデビルマンは、シレーヌをデビルビームで焼き尽くし、ミキを連れて帰るのだった。
 
 原作でも人気の高い、シレーヌの登場の回。とはいえ、原作まんまのデザインではさすがにまずかろう。今よりも規制の多い30年前、しかも8時半のゴールデンタイムのアニメだもの。割と最近の、深夜枠の『デビルマンレディー』でも(ある程度)隠されたんだから。なわけで、テレビ向けにデザインされたシレーヌ、残念ながら手は飛ばさないが、あしゅら男爵・女役でおなじみの北浜晴子さんの、絶妙な演技も相俟って、シレーヌ「らしい」凄味があると思います。
 アニメでのシレーヌは部下はいませんが。原作でのゲルマーは、同じデザインの名前・能力違いのゲルゲとして(しかもパワーアップ)次回登場。ちょっと気の毒なアグウェル(笑)。どーでもいいかもしれないが、次回への引きでゼノンに命令を受けるゲルゲ、最後に目がキラーンと光るんだが、これが何かゼノンに対して良からぬことを企てているようにも見える……。

 それにしても、タイトル画面。ゴシック的な絵柄の目玉に剣が突き刺さったバックに、「妖獣シレーヌ」のタイトル文字。タイトル文字が消えて、目玉がぐるぐる回りながら、ミキちゃんの悲鳴が重なる……。……ホラーですな。
 これが明君の見た悪夢なわけだが。「ふーっ、夢か。眠ってるってのに、余計なもん見やがる。まったく、人間の体借りてると碌な事がねえ」と言っているように、デーモンというのは眠っている間に夢は見ないらしい。冬眠している間に、ずっと夢見てるとやっぱ大変だろうなあ。というのはさておき、殺されて消滅したはずの「人間・不動明」はこんな風にデビルマンに確実に影響を与えているわけですね。そもそも、デビルマンがあれだけミキちゃんミキちゃんとベタ惚れなのも、本来の人間の明君に、元々、ミキちゃんを思う心があり、それが影響したそうで(そういや、東映のHPの『デビルマン』紹介では、明君とミキちゃんをいとこだと書いている)。そういう意味では、この人間の身体を手に入れたとき、デビルマンは元のデーモンそのものではない、勿論人間ではありえない、人間と悪魔の狭間にいるもの、という別の存在に「生まれ変わった」のかもしれませんな。原作と同じく。
 そんな、デーモンと人間とのカルチャーギャップ、が語られた場面といえば、ミキちゃん(に化けたシレーヌ)が、「あたしの守り神よ、デビルマン……」と言うんだが、これに対して明君は、「いや、守り神だなんて、そんな意地悪言うなよ……。はっ、何で俺の名前を知っているんだい!」と答えるところ。神なんてのは、悪魔の彼に対しては悪口なんですね。その辺の価値観の違いがストレートに語られる言葉としては、七話の、ズールに対してのデビルマンの台詞、「地獄に……じゃねえ、天国へ堕ちろーっ!!」。天国へも堕ちるものらしいです。「悪魔という表現」へのこだわりを感じますな。

 シレーヌといえば、原作及び『デビルマンレディー』でも、デビルマン、というかアモンに対して、複雑な愛情を抱いている存在に描かれていますが。このアニメ版もそんな感じ。に見える。実際、この回、「三角関係のドラマ」と言われてるし。だからこそ、シレーヌとしては、「たかが人間」の「小娘」に、勇者デビルマンが心を奪われているのが許せなかったんだろうな。これ見よがしに、宙からミキちゃんを落としてみせるわ、爪を突きつけて見せるわ、逆さまにして今にも落としそうにぶらぶらと揺らして見せるわ、しまいには血の池地獄にまず半身をつけてから、じっくりと殺そうとするわ。ジェラシーの発露みたいで……怖いっす。女王様!
 でも、デビルマンの逆襲はもっと怖いです! デビルチョップでダム池にシレーヌを叩き落として、戦いの舞台はダム池に変更。関係ないが、シレーヌの血は赤い。飛び掛ってくるシレーヌをデビルマンは躱して。シレーヌは勢い余って水の中に突っ込む。……んで、シレーヌの翼がばたばたと水面を叩くが、シレーヌは飛び上がれない。
 実はデビルマンが脚を掴んでます。「濡れた翼では、飛ぶ力も出まい。フフフ、すぐに乾かしてやる!」……ここ、BGMでオープニング(歌つき)が流れてるんですが。せ、正義のヒーロー……? ていうか悪役はどっちだ。さすが「デビル」マン……。
 そもそも、最初の市街戦で既に正義のヒーローじゃないこと、ありありと見せているか。「ミキは何処だ! ミキを返せ、ミキを!」と言いつつ、送電塔引っこ抜いて、投げつけてるもんな……。家だのビルだのも壊しまくってるし。それにつけても、あえて突っ込ませていただきたい。何で、誰も気付かないんだ。あんなでかいのがどったんばったんバキバキどすどすやってて……! シレーヌがデビルマンを連れてった先、あの場所は九州の血の池地獄かな? あれだったら、誰も気付きはせんだろうが……。

 この回で嫌げだったシーン。気絶したデビルマンを、シレーヌが運んで行くんだけど、シレーヌ、凄い怪力……じゃなくて。いや、それもあるけど(女の腕二本で、あの筋骨逞しいデビルマンを吊り下げていくんだよ?)。ご丁寧に、ぐさっと爪立てて運んでくんだもん。うわー痛そう……。気絶してて良かったね。

 作画は白土武さん。白土さん絵といえば、私は一番に思い出すのは、むっちゃ丸顔のゲッター1……(笑)。味のある作画の人なんですが。で、悪いんだけど、デビルマンが巨大化して、背中の傷に苦しむ場面。ごめん、背中が痒いのに、痒いところに手が届かなくて、悶え苦しんでいるように見えた。背中は急所だから、痛いのは分かってるんだけど! ごめんなさい!
 ちなみにこの回、明君の変身は服が破れません。
 1クール目は小松原さんのキャラクター設計に沿っているからなんだろうけど、明君、口が上唇を常に尖らした、やんちゃな感じの作画なんですが。そのせいか、気を失ったミキちゃん(しつこいようだが実はシレーヌ)に「へへっ、可愛いなあ……」なんつって、ちゅーしようとするんだが、タコチューなんだな(笑)。37話では、普通にキスしようとしてたが。14話で、ミキちゃんの手術した医者の先生にも、お礼のタコチューだったぞ。

 人形つーのは、じーっと見てたら、何やら怖いもんですが。ビスクドールって怖いよ私は。その「何となく人形って怖いよな」感を生かした回でもあります。ミキちゃんの部屋に飾られてた人形に、シレーヌが乗り移った? で、ガラスケースが割れて、「可愛いお嬢さん、私と一緒に来ておくれ」って手を差し伸べてくるわけです。しかも、ここにスポットライト当てたみたいな演出で。そりゃミキちゃんじゃなくても、「いやっ!」だわな。しかもご周到に、家族全員が蝶の燐粉で眠らされてて、呼んでも誰も来ないっておまけつき。
 それがまた、叩き落とされて壊れたってのに、首がコロコロ転がって、「ホホホホ……」と笑い、折れた腕が脚を掴んできて、転んだところに小さいハイヒールが手を踏みつけてくる。気絶もしたくなります。

 この回の話は、「真夏の夜の悪夢」って感じで、ミキちゃんの出番は多くはありませんが、シレーヌが見たデビルマンの本心、明君の回想シーンで、これでもかと言わんばかりにミキちゃんを好きっぷりを披露してくれてます。「ミキの泣き顔は可愛い。でも、もっと素敵なのは、ミキの笑顔だ……」甘酸っぱいです。のろけまくりです。


 今回の個人的懺悔。シレーヌがデビルマンの本心を探るのに、その「思い出の朧ろな影」を訊ねるわけですが。ここんとこ、その方法ってのが、額の触手を伸ばしてデビルマンの胸の上を這わせるんですわ。この触手っつーアイテム(か?)が悪いのか、ふよふよした感じで、胸から腹の辺りまで上下するもんだから、「うわ、エロっ」と思わず呟いてしまいました。で、その後、気付いたデビルマン、立とうとして足腰に力が入らないもんだから、その……(以下自粛)(申し訳ない! 申し訳ないです!)。
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