◇REVIEW◇

DEVILMAN

 1972年7月8日 放映
第一話 「悪魔族復活」 
脚本/辻 真先 ■ 演出/勝間田具治 ■ 作画監督/小松原一男
▼STORY▼

 ヒマラヤ山脈の深部にて、魔王ゼノンの呼び声と共に、氷の中から悪魔族・デーモン一族が復活した。愚劣な人間界を叩き潰し、恐怖のどん底に陥れるため。
 その尖兵としてゼノンに選ばれたデーモンは、デビルマン、フェイラス、ダルミ。「宿木」となる登山客の高校生・不動明を父親ともども殺し、デーモン族随一の勇者として、その宿り主を決めるべく戦うデーモン達。戦いに勝利したデビルマンは、不動明の顔と身体を借り、任務遂行のために人間界へと赴く。

 しかし、不動明ことデビルマンはなかなか行動を起こそうとせず、あまつさえ居候先の娘・牧村ミキにすっかり骨抜きにされ、人間・不動明としての生活を楽しんでいる始末。業を煮やしたゼノンは、千変万化の妖怪ヘンゲを派遣して、デビルマンの真意を問い質そうとする。

 学校で、クラスの自治会委員長・東大寺入郎との言い争いを、ミキの平手で止められた明は、むしゃくしゃしてバイクで学校を飛び出す。そこへヘンゲが現れ、改めて任務を説くが、明=デビルマンは「断っておくが、俺は意地っ張りで気が短いんだ。下手にせっつくと、藪蛇になるぜ」と、聞く耳を持たない。
 デビルマンが悪魔の誇りを捨てた理由が、牧村ミキにあることを突き止めたヘンゲは、牧村家を襲う。その能力を駆使し、ミキを捉え、デビルマンを追い詰めて服従を迫るヘンゲ。しかし、その行為はデビルマンの怒りに触れた。牧村家の全員が気絶したことを機会に、遂に明はデビルマンの姿に変身する。
 昼間、ヘンゲによって傷ついた脚の傷に苦しみながらも、デビルマンはデビルビームでヘンゲを倒す。

 一夜明けて、心配する牧村一家をよそに、いつもの調子で帰ってきた明に、ミキは「怖かったのよ! 明君、もう何処にも行かないで、アタシの傍にいて!」とすがる。ミキを抱きとめながら、明は改めてミキを守ることを心に誓うのだった。
 
  今のご時世なら、「地球温暖化」の影響でデーモンが甦っちゃったりするのだろうか、やっぱり。
 そんなことはともかく、『デビルマン』記念すべき第一話である。脚本の辻真先氏が、愛蔵版(一発で愛版と変換するんじゃありません)『デビルマン』に寄稿した解説文「そんなうそっぽい英雄よりも、この世でただひとり惚れに惚れぬいた女に入れあげ、裏切り者になるのも覚悟の上、たとえ全世界を敵にまわそうと、断固彼女を守り抜くデビルマンの方が、ずっとずっと本物ではないか」と書く通り、愛のために全てを捨てて裏切り者となり、愛のために戦うデビルマンの基本要素が、きちんと語られたお話。今の時代、愛という言葉も、正義と同じレベルに、結構胡散臭いものに成り果ててしまったが……。が、『デビルマン』は「変身ヒーローもの」であると同時に、「恋愛もの」でもあるので問題ない。ていうか、あんだけ惚れた女の子に入れ込めるんだから、全くもって問題ない。本当に。女としたら、あれだけ愛されたら冥利に尽きるってもんですよ、実に。

 さて。
 原作『デビルマン』とは違い、アニメの『デビルマン』では、不動明は「乗っ取られる方」である。ちなみに、大学教授の息子である。お坊ちゃんですね。「パパ!」にはのけぞるかと思いました。パ、パパ……パパですか……。どーでもいいけど、人間の明君とデビルマン、まだ人格(というかー……)違うのに声同じですよ! 余談。
 で、デビルマンとなる前の明君がどういう人間だったかは、原作とは違ってほとんど語られていないが、やっぱ「か弱い子」だったらしい(牧村夫妻談)。それが「宿木」に選ばれたのは偶然なんでしょうか。ゼノン様、随分リサーチなさったご様子に見受けられますが。「もうすぐ氷の底に宿木が着く」とか。いずれにせよ、不動明という人間は、「魔王に見込まれてしまう存在」なんですな……。気の毒に。
 デビルマンに乗っ取られて、明君は普通の人間じゃなくなったんだよ! というのが最も顕著に現れているのが、原作と同じ目の下の縁取り。明君の顔のアップで、それを強調して見せるのは原作との共通手段。眼を開けたら、顕著に表情が変わるのである。不動明=デビルマン誕生の瞬間です。が、この縁取り、徐々に目立たなくなっていくんですが。比較的、森利夫氏作画の回ははっきりしてるが。

 まあいずれにせよ、一話ということで、『デビルマン』の企画・基本要素が詰め込まれている。かつ、しっかりとエンターテイメントになってるのは凄いの一言。「愛のためにデーモン族を裏切るデビルマン」から、隠しテーマ「大人のしょーもなさ、情けなさを表現する」、デビルマンの弱点「人間のときに受けた傷は、巨大化すると拡大して痛みを増す」まで。デフォルトででかいからなアニメのデーモンは。怪獣。そして、いつも怪我する明君。5話で、その役割を持って登場した氷村が退場した14話以降は、「意図的に」傷付けられることは少なくなるけど。
 美術的にも、明君がデビルマンに変身したり、デーモンが登場したりすると、空色が毒々しい赤に、黒雲がたなびく不気味な色彩に変化するが、これが後の『宇宙刑事ギャバン』の不思議空間を思わせるような、不可思議感を醸し出していますな。これは、後々まで統一されていて、明君が変身を解いた瞬間、ぱっと青空が戻ったりして、「非日常」と「日常」の切り替えがナイス。


 この回のゲスト妖獣は、何故か「妖怪」ヘンゲ。ヘンゲ=変化っつーことで、正に妖怪変化で色々変身して見せてくれます。牧村家パニック屋敷化。正体は三つ首の蛇。ぼこぼこした鱗感が嫌げな感じ。
 またこれが、気持ち悪げな変身の連続で(落ちた黒いインクが赤くなってじわーっと広がってむくむくと怪物化したり、シャンデリアの電球が静かに割れて蜘蛛がぶら下がってきたり)、「人間を恐怖に陥れる」デーモンの性質が表現されているなーって思うところ。ミキちゃんやタレちゃんだけでなく、視聴者を怖がらせてやろう、って演出、いかにも『デビルマン』のタイトルに相応しいです。蛇嫌いな人には、あの本性も嫌よね。チョップかましたら、頭が増えるんだよー。

 ところで、明君の変身時、「デッビィィィィィール!!」(一話では企画書に則って、「ディビィール」だが)でバリバリと雷が鳴って、服が破ける「お約束」は作画の小松原一男氏のアイデアだそうだが、私個人としては、「明君、同じ服何枚持ってるんだ?」より、「明君、同じバイク何台持ってるんだ?」の方が気になる。バイクはしょっちゅう乗り捨ててる。服はもう、デーモンの超能力で再生してるんだよ! ってことで。変身といた瞬間にもちゃんと服着てるからサ。……え? じゃあバイクも……?
 ついでに細かいこと言うようだが、明君の肌色、初期はかなり色黒に作られているが、段々白くなっていく。映画『マジンガーZ対デビルマン』では、甲児君の方が色黒で、何だか違和感があったよ! 個人的に!

 初期企画でのデビルマン=真紀猛は、愛や優しさ、暖かさのある人間世界に一種のカルチャーショックを受けて、悪魔から「人間の子」へと変化していく設定だったわけだけど。実際のデビルマン=不動明は、明確な叛逆の意思をもって、デーモンを裏切ったわけではないのね。本人も「裏切った覚えはねえ!」とヘンゲに言ってる通り。ミキちゃんを好きになって、任務なんてどーでも良くなって、むしろ、デーモンがミキちゃんに害をなすなら、お前らを裏切ってやる! って感じ。そういう意味では、ヘンゲが間接的にデビルマンを「裏切らせた」感が無きにしも非ず。

 で、明君は何かあったら、腰のベルト抜いて振り回し、バイクを乗り回す、いわゆる「不良」である。本性がデーモンだから当たり前だけど。多分、元の人間の不動明から、人間としての知識なんかは吸収しているようで、妙に、悪魔のくせに(笑)人間界に馴染みまくってるわけだが。
 もっとも、1クールの明君は、思考・言動、もろに悪魔>人間。「正義のヒーロー」と言われると、首を傾げてしまう。でもそれが、アニメの明君の魅力なんだな、と。
 他人のことなど意に介さない(これはもうデビルマンの性格でしょう。変な言い方だけど、純デーモンの時から、他の言うこと聞かなかったっぽい)、そんな明君が、どうして悪魔の正体を人間に知られたら困るのか。まあそれは勿論、自分の本当の姿=デビルマンが、比較的人間に近い姿とはいえ、人間から見たら「化け物」にしか見えないことをちゃんと分かっているわけです。これが最終回のドラマになるんですが。

 きっちり、ミキちゃんに「いつまでも傍にいて、デーモン族から守ってやる」と最後を締める明君。お腹一杯の第一話です。密度濃いなあ! ご馳走様でした。
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